69 親衛隊
放課後、椿がいつものように俺の席に来た。
「バカマネ、行くわよ」
「ごめん、先に行っておいてくれ」
「どうしたの?」
「スミレの親衛隊長と会えることになった。噂について聞いてくる」
生徒会長からの連絡で、親衛隊長は今日の放課後に会ってくれることになった。
「バカマネ……気を付けてね」
「ありがとう。行ってくる」
俺は待ち合わせ場所の体育館に向かった。
本来なら部活動で使用される体育館だが、今日はテスト前で部活動は無い。放課後は誰もいないはずだが、俺が入ると10人ほどの男子生徒が横に並んでいる。その中心にはひときわ体が大きいやつがいた。こいつはライブ会場で良く見るやつだな。
「えっと……スミレ親衛隊か?」
「よく来たな。ベアキャットマネージャー、坂崎大樹」
中央にいる男子が俺に話しかけてきた。
「俺のことを知っているのか?」
「当たり前だ、坂崎大樹。スミレ様の幼馴染みにしてマネージャーのお前について知らないわけが無いだろう」
そう言って俺をにらみつけてくる。
「……そういうあなたは?」
「高梨スミレ親衛隊長、3年、黒山信夫だ」
「黒山先輩、お会いしていただきありがとうございます」
「それは当然だ。俺たちはベアキャットのファンだからな。ベアキャットのマネージャーが会いたいと言うなら会うさ。だが、いったい何の用だ?」
「……最初にお聞きしたい。スミレが生徒会長に立候補するという噂を流したのはあなたたちか?」
「スミレ、だと……スミレ様を呼び捨てにするような男子など許せん!」
黒山先輩は急に激高した。
「いや、俺は幼馴染みですし、昔から呼び捨てですから」
「それだけでも貴様は万死に値するな。やはり敵だ」
相当恨まれてるな、これは……
「俺のことはどうでもいいでしょう。今はスミレのことです。生徒会長に立候補するという噂を流したのはあなたたちですか?」
「そうだ。俺たちはスミレ様こそが生徒会長にふさわしいと言いふらしている。なぜならあのカリスマ性。ベアキャットリーダーにして創設者のスミレ様こそが生徒の頂点に立つ生徒会長にふさわしいと決まっている」
「だけど、スミレに立候補する意思はないです」
「スミレ様は謙虚なお方だ。だから、自ら生徒会長に立候補するなどとは言われない。だから俺たちが動いてそのような空気を作り出そうとしているのだ」
やはりこいつらの仕業か。
「何をしようがスミレには立候補する意思はないですよ。今すぐそのようなことは止めてください」
俺がそう言うと黒山たちは顔を見合わせた。そして、黒山が言う。
「……いいだろう。ただし、条件がある。坂崎大樹、お前がマネージャーを辞めたら噂を流すのはやめてやる」
「なるほど……」
俺がマネージャーをやることをこいつらはそこまで嫌がっているのか。
「どうする?」
「……少し考えさせてください」
「ほう……すぐに断ってくると思ったのにそういうことを言うのか」
「俺はマネージャーなんていつ辞めても問題ないです。たいした役にも立っていないですからね。だけど、みなさんの要求に簡単に屈するのもどうかと思いまして」
「ふむ……まあ、いいだろう。早めに決断しろよ。決断するまでは噂は流し続けるからな」
「わかりました。じゃあ、連絡先を交換させてください。結論が出たら連絡します」
「いいだろう」
俺と黒山は連絡先を交換した。
「坂崎が話せるやつでよかったよ。辞めるなら悪いようにはしない。さっさと決めろよ」
そう言って黒山たちは去って行った。
しかし、マネージャー辞任か。どうするかな……
◇◇◇
すっかり遅くなったが、俺は部室に戻った。部室ではベアキャットのメンバーがYOASBIの「アイドル」の練習中だ。
休憩に入ると俺のところに椿が来た。
「バカマネ、どうだったの?」
「親衛隊長に会ってきた。噂を取り消すように伝えたよ」
「それで取り消してくれるって?」
「まだ交渉中だ」
マネージャー辞任のことは言わない方がいいだろう。
「そう、任せたわよ」
椿はそう言って離れていった。しかし、マネージャーを辞めたらもう椿や美桜、葵さん、友梨香さんとも話すことも無くなるだろうな。それは寂しいけど……どうするべきか。




