66 尊敬
翌日、俺はスミレの家の前でスミレが出てくるのを待った。昨日は家にまで行って怒られたから今日は家の前で待つ。
やがてスミレが出てきた。うん、昨日の髪ぼさぼさと違って今日は最初から美少女モードだ。
「おはよう……何?」
じろじろと見ていたらスミレが不機嫌そうに言う。
「いや、今日も可愛いなと」
「ちょっ! もう……」
スミレは鞄で俺を殴った。
「イタッ! やめろ!」
「大樹が変なこと言うからでしょ!」
「変じゃないし! 俺はお前に告白してるんだからな! だから……お前のことを可愛いと思ってるに決まってるだろ」
「そうだけど……なんか昨日から褒められてばかりで変な気持ちなんだもん」
「あー、昨日か」
昨日は急な生徒会の訪問にスミレが見事に対処したからみんなが褒めたんだった。
「普通にしただけなんだけどな」
「それがすごいんだよ。やっぱりスミレは凄い。それにみんなから尊敬されてるって昨日分かったろ」
「うーん、そうなのかな……」
「そうだって。自分を卑下する必要は無い。スミレは凄いよ。むしろ俺がスミレの隣に立てるレベルじゃ無い」
「そんなことないよ。大樹も凄いし」
「いや、凄くないだろ」
「凄いから。私なんてまだまだ……」
「そう思ってるのはスミレだけだと思うけどな。みんなに聞いてみろよ」
「みんなは大樹のすごさを分かってないから」
「なんだよそれ。じゃあ、スミレのすごさを分かってないのはスミレだけだな」
「そんなこと言って……」
あれだけみんなに言われても自分のすごさを信じられないとは謙虚とかそういうレベルじゃ無さそうだ。自己肯定感が低いんだろうな。
「じゃあ、スミレが凄いという俺が好きな人がスミレなんだけど。それについてはどう思うんだよ」
「うーん、だって大樹と私は幼馴染みだし。だから大樹は私を気にしてるだけだよ」
「ここに来て幼馴染みかよ。確かにスミレを知って好きになるきっかけは幼馴染みだからだけどな」
「でしょ?」
「ああ。だけど、中学で疎遠になって、改めて俺はスミレに惚れ直した。そして、ベアキャットでもそうだ。自分でベアキャットを立ち上げてここまでにしたスミレをすごいと思うし、尊敬するし、大好きだ」
そう言って俺はスミレを見る。だが、スミレは俺の方を見なかった。
「ありがとう、大樹。そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
……うーん、どうしたら俺がスミレに本気で、スミレが俺以上に凄い、という事に納得してもらえるんだろうなあ。
「そうだ、あの生徒会長までお前のファンじゃないか。あの会長、人気あるんだろ? そういう人がお前のファンなんだぞ」
「うーん、どうなんだろうな。あの生徒会長、以前は美桜推しだった気がするし」
「え、そうなのか?」
「うん。結構、美桜に話しかけてた記憶あるよ」
あの会長、何やってるんだ、まったく……
◇◇◇
昼休み。部室に行くと椿と美桜がいた。美桜が昼にここに来るのは珍しい。美桜と椿は学年二大美女と言われ、ライバルと見られている。実際、美桜は椿がベアキャットに入ったことを知り、対抗するためにベアキャットに入ったと言っていた。
「マネ君、やっぱりここに来てるんやね」
入ってきた俺を見て美桜は言った。
「まあ、打ち合わせに」
「そんなに打ち合わせすることあるん? スミレ狙いとか言いながらやっぱり椿?」
「違うよ」
椿とはもう終わった関係だし、今ではベアキャットをともに運営する同志という感じだ。
「……それで美桜は何しに来たの?」
椿が聞く。
「なんか冷たいなあ。せっかく親友が遊びに来たのに」
「親友ねえ」
「親友やろ? お泊まりした仲やん」
「そうなのか?」
俺は驚いて椿を見た。
「美桜が落ち込んでたとき、家に呼んで慰めてたら遅くなったから泊めただけよ」
意外だな。この二人はライバルだけどやっぱり親友なんだ。
「椿に慰められたあの夜は忘れられんなあ」
「……意味深に言わないの。バカマネが興奮してるじゃない」
「ふふっ……マネ君、ウチと椿で想像した?」
「す、少し」
「バカ! 何言ってんのよ。まったく……変な想像しないでよね」
椿が俺に言ったその言葉がまた興奮させるけど。
「まあまあ、マネ君も男の子やし」
「それはもういいから。それで、今日来た理由は何よ」
「スミレのこと」
「やっぱり……」
美桜はスミレのことで何か話があるのか。
「ほら、昨日生徒会長がスミレのサインもらってたでしょ。だからちょっと心配で……」
美桜が言っている意味が分からなかった。何が心配なんだろう。そういえば朝スミレが言ってたな。
「スミレに聞いたけど、生徒会長は最初、美桜推しだったって?」
「……それ、違うんよ。最初からスミレ推し」
「でも、スミレから聞いたぞ。会長とよく話してたんだろ」
「うん。会長がウチによく話しかけてきて。ウチ推しなんかなあって思ってウチも嬉しくなって。だって、有名人で人気者でイケメンでしょ? ウチもちょっといいかなあって思ったんよ。そしたら……スミレを紹介してくれって」
「はあ? あれってそうだったの?」
椿も知らなかったようだ。
「そうなんよ。だから、ウチもちょっとイラっと来てそれからは関わらんようにしてたんよ」
「なるほどな……」
「だからもしかしたら会長がスミレを狙って動いてくるかもしれんなあって。そうなったらマネ君ピンチやろ? だから教えにきたんよ」
「確かに……まずいな」
「そうね。あのイケメンが動いたらスミレもコロッと行っちゃうかもね」
椿の言葉に居ても立っても居られなくなり、俺は思わず立ち上がった。
「フフッ、マネ君、焦ってる」
「焦るだろ、そりゃ」
「バカマネはほんとバカね。今言ったのは冗談よ」
「冗談?」
「そうよ。スミレがバカマネ以外の男子と話すのほとんど見たこと無いから。だから大丈夫よ」
「そ、そうなのかな……」
「スミレを信じなさい。イケメンだからってほいほい付いていく子じゃないでしょ」
「それはそうだけど……」
「でも、会長が何してくるかわからんからねえ。気をつけんと」
「そうだな」
スミレの気持ちは動かされないとしても会長が何かしてくる可能性はある。用心した方がいいな。




