45 告白
翌日の放課後。ベアキャットの練習が終わって、俺は葵さんと2人で熊本ライブフェスの会場の一つであるライブハウスに向かった。
ボーカル有りで出演することになり、一度会場を見ておきたいという葵さんの希望があったのだ。俺も打ち合わせに行く予定だったので一緒に行くことになった。
「大樹君と2人で行動するなんて初めてだね」
「そ、そうだね……」
俺は葵さんと2人だけということにどこか緊張していた。葵さんはベアキャットのメンバーでも異質だ。いわゆる王子様。女子でありながら背は俺より高く、一人称は「ボク」。制服も衣装でも私服でもスカートは絶対に履かない。女子だけど学校一のイケメンとよく言われている。
「でも、いつかはちゃんと大樹君と話したかったんだよ。何しろ、大樹君とボクは似たもの同士だからね」
「え?」
俺は葵さんが何を言っているのか全く分からなかった。俺と葵さんに共通点など無いだろう。女子ながらイケメンである葵さんに対し、俺は地味。何も目立ったところは無い。
「どこが似てるんだ?」
「そりゃ、スミレを好きなところだよ」
なるほどそういうことか。言いたいことが分かって、俺は少し笑った。
「確かにな。俺はスミレを好きだ。葵さんもスミレといつも一緒に行動しているし、スミレのことが好きなのは分かるよ。でも、俺は葵さんと違ってスミレのことを恋愛対象として見てしまってるからなあ」
「いや、ボクも大樹君と同じだよ」
「……へ?」
俺は耳を疑った。
「えっと……葵さんはスミレと付き合いたいってこと?」
「そうだよ」
そうだったのか……
「……葵さんの性の対象は女子なんだね」
「そうみたいだ。男子を好きになったことは今まで一度も無い」
「なるほど……」
「特に驚きは無いだろう? こういうボクだし」
「ま、まあ……」
確かに女子だけど王子様だし、男性のようなかっこよさをいつも見せているから女子から大人気だ。でも、葵さんは本当に女子が好きな女子だったのか。
俺は嫌な予感がして聞いてみることにした。
「葵さん、もしかして……スミレと付き合ってる?」
「まさか」
「違うのか。じゃあ、その思いはスミレに隠してるんだ」
「そんなことないよ。ボクはスミレに告白した。そして振られた」
「マジか……」
「だから言ったろ? ボクと大樹君は似てるって」
そういうことかよ……
「でも、振られたのに今でもいつも一緒にいるじゃないか」
「そうだよ。だってスミレはボクの告白を冗談だと思ってるからね。女子が女子に『付き合って』なんてよく冗談で言うんだよ」
「そ、そうか……」
「スミレはボクの告白を信じてくれなかった。少なくともちゃんと愛の告白だと認識された君の方が上だな」
「……」
俺は何も言えなかった。俺はスミレに振られてスミレから逃げ続けた。それに対し、葵さんはずっとスミレと一緒にいる。だったら、きっといろいろとつらい思いをしてるんだろうな。
「葵さんはベアキャットを始めてからスミレを好きになったのか?」
「ちょっと違うね。ベアキャットが出来たきっかけはボクがスミレを好きだったからだよ」
「どういうこと?」
「大樹君には話しておこうかな」
◇◇◇
ボクは物心ついたときから男子として振る舞ってきた。恋愛対象は全て女子。中学の時から何人かと付き合ったりもしてきたんだ。
高校に入って、ボクはスミレに一目惚れした。スミレはかわいさもありながら、かっこよさも兼ね備えている。僕と似ているようで違うスミレを目で追うようになった。でも、スミレはいつも大樹君と一緒にいて、ボクがつけいるような隙は無かった。1年生の1学期、ボクはほとんどスミレと話すことは無かったんだ。
でも、一学期も終わりに近づく頃にボクは放課後にスミレが踊っている現場に出くわした。
「何をしてるんだい?」
ボクはさりげなく声を掛けた。
「あ、長峰さん。今、ダンス動画を撮ってるんだ」
「動画か。ネットにアップするのかい?」
「うん。でも、なかなかいい撮影が出来なくて……」
「じゃあ、ボクが撮ってあげようか?」
「いいの?」
「ボクで良ければ」
「じゃあ、お願い!」
それからはボクがスミレの「踊ってみた」動画を撮るようになった。スミレの踊りはエネルギッシュですごく魅力的だったからその動画を何度も見返した。そのうち、自分も踊ってみたらスミレがボクの動画を見てくれるんじゃないか、って思ったんだ。
「ボクも踊ってみるよ」
「そう? じゃあ、私が撮るね」
こうしてお互いにダンスの動画を撮り始めた。そして、同じように友梨香がそこに加わり、やがて3人で踊るようになったんだ。
ベアキャットというグループになって、椿と美桜も加入し、ボクとスミレはいつも一緒にいるようになった。ボクのスミレへの思いは募るばかりだった。
だからボクは去年のクリスマスイブに2人でイルミネーションを見ながら告白したんだ。
「スミレ、ボクと付き合ってくれないか」
「葵……」
「スミレ……」
「アハハ、葵が男子ならよかったのに。今度は彼氏と来たいなあ」
スミレにはボクの告白は冗談としてしか受け取ってもらえなかった。
ショックを受けたボクはベアキャットの活動にも支障を来してきた。練習はともかく、マネージャーとしてさまざまな雑務をやっていたのに、それをやる気力が無くなってきたんだ。
だからボクはスミレに言った
「誰かマネージャーを探そうか」
◇◇◇
そういうことだったのか。俺がマネージャーになったのにも葵さんの件が関係していたんだな。
「もちろん、セクハラ的なことがあったのも事実だけどね。それを打ち明けたらスミレが怒って怒って大変だったよ」
「そうか……でも、俺がマネージャーになったときには葵さんは落ち込んでいるようには見えなかったけど」
「その時にはだいぶ立ち直っていたからね。ボクが普通じゃ無いことに他のメンバーが気がついてくれて慰めてくれたから」
「なるほどな」
俺には仲間がいなかったけど、葵さんには支えてくれる仲間がいたということか。
「特に美桜にはお世話になったよ」
「そうなんだ。お世話……ってどういう?」
「そうだな、まあ付き合ったりとか」
「遊びに?」
「いや、恋愛的にだよ」
「えっと……美桜と交際してたってこと?」
「一時期ね」
「マジかよ……」
確かに美桜は見境ないな。でも、メンバーを励ましたいという思いだったのか。それとも、スミレに勝ちたいという思いが強い美桜は、そういう意味で葵を奪おうとでも思ったのだろうか。
「まあ、お互いスミレに振られた者同士ということで、大樹君、仲良くしようよ」
「う、うん。そうだね」
葵さん、味方なのかライバルなのか、よく分からなくなってきたな。




