44 カラオケ
「今日は歌うぞー!」
美桜が叫ぶ。中間試験が終わった水曜日の放課後。今日はベアキャットでの打ち上げだ。熊本ガールズコレクションの成功と中間試験の終了を祝って、全員がカラオケボックスに集まった。
「それにしてもミーアたちまで呼んで予算大丈夫なん?」
美桜がスミレに小声で聞く。
「大丈夫よ。友梨香の家からもらった打ち上げのお金、私たちだけじゃ使い切れないし」
「すみません、うちの母が無理矢理――」
「いいやん、多い分には。ありがたく今日はご馳走になるね」
テーブルにはみんなが頼んだピザやらポテトやらサラダやら唐揚げやらパフェやらが豪華に並んでいた。
「じゃあ、一番は私!」
早速、美桜が歌い出した。曲は「NEW KAWAII」。今回ベアキャットが歌った「私の一番可愛いところ」を歌う「FRUITS ZIPPER」の曲だ。こういう曲は美桜に合っている。可愛らしい声で歌っていた。
ちなみに美桜は俺の2つ左隣に座っている。俺のすぐ左にいるのは椿だ。
「しょうがないわね、バカマネの隣に座ってあげるわ」
そう椿は言っていたが、今でもお昼は一緒に食べることが多いし、2人で座るのも自然だ。距離が近くなりすぎないように注意が必要だけど。
そして、美桜の左隣には友梨香さん、スミレ、葵さんが座っていた。ベアキャット初期メンバーの3人だ。やはり、この3人は仲がいい。
俺の右隣には一年生三人が座っていた。俺のすぐ隣は宮川紅葉。スミレに憧れている子だ。
「坂崎マネージャーってスミレ先輩の幼馴染みなんですね」
宮川さんが聞いてくる。誰かが教えたようだな。
「そうだよ」
「ずっと仲いいんですか?」
「そうでも無い時期もあったかな」
「へー、そうなんですね」
さすがに告白して疎遠になった話は誰もしていないようだ。よかった。
「スミレ先輩って葵先輩といつも一緒にいますよね」
「そうだな。あの二人は親友という感じだな」
「盟友って感じで格好いいです」
「確かにな」
スミレと葵はベアキャットを作った二人、という感じだし、このグループの中核だな。
やがて、美桜の曲が終わり、次の曲が始まった。
「森高千里の『渡良瀬橋』? なんか古い曲ね。誰なの?」
美桜が言う。
「私です」
そう言ってマイクを取ったのは友梨香さんだ。
「友梨香さん、こういうのを歌うんだ」
俺は思わずつぶやいた。
「友梨香は古い歌謡曲が好きみたいよ。親の影響みたいね」
椿が教えてくれた。お母さんの影響だろうか。まさか議員が森高千里が好きだった、なんて想像できないけど世代なのかも知れない。それにしても友梨香さんは歌がうまいな。どこか合唱みたいな、丁寧な歌い方だった。
次にマイクを取ったのは椿だ。「いいおくり」という曲。知らないな。アーティストはCYNHN?
「……なんて読むんだ?」
「バカマネはやっぱりバカね。スウィーニーよ」
椿が教えてくれる。
「初めて聞いた」
「アイドル楽曲大賞1位の曲なんだから知っておきなさい」
「そうなんだ。そんな有名な曲なのか……」
俺はアニソンぐらいしか知らないから、まったく聞いたことがなかった。
「マネ君、安心して。普通、知らないから」
美桜が横から言う。
「え、そうなのか?」
「うん。椿はアイドルオタクだから。普通の人が知らないアイドルもたくさん知ってるんよ」
「へー……」
彼氏役をやっていたのに椿のことを何にも知らないんだなと思い知らされた。
それにしてもこの「いいおくり」って曲は盛り上がるけど難しい曲だ。だけど、椿は難なく歌い上げていた。さすが、アイドルのスクールに通っている椿だ。
「次の曲は……『スノーハレーション』? ラブライブね。スミレでしょ」
美桜がスミレに言う。
「私じゃ無いわよ」
「じゃあ、誰?」
「……俺だ」
「えー!」
俺はあまり曲を知らないからラブライブの「スノーハレーション」を選んだ。お城祭りでベアキャットが踊った曲だ。あまり男性が歌う曲では無いが、最近、男性アイドルが歌っていたのを見て、男が歌うのもかっこいいと思ったのだ。
なんとか歌い終わると、一年生たちが拍手してくれた。
「すごいです、坂崎マネージャー」
宮川さんが言う。
「いやあ、それほどでも」
俺が照れていると、突然、椿が俺の横腹を肘で攻撃してきた。
「うっ……」
「デレデレしない」
「してないのに……」
次の曲が流れてきた。これは「きっと青春が聞こえる」か。うん、安定のラブライブ、μ'sだな。この曲はよく知っている。マイクを取ったのはスミレだった。俺がいるからこの曲を選んだのか、それとも単に十八番だからなのか。
スミレの歌も久しぶりに聴いたが、あまり変わっていなかった。相変わらず……普通だ。俺の時に熱心に拍手した一年生もパラパラと言った感じだったが、宮川さんだけは熱心に拍手していた。
次の曲は『私立恵比寿中学』か。アイドルだな。名前は聞いたことはあるけど曲は知らない。「君のままで」という曲だ。
「はい」
スミレが隣の葵さんにマイクを渡す。これは葵さんが歌うのか。
葵さんが歌い出すと一年生が息をのんだ。これは……めちゃくちゃ上手い。そして、かっこいい。サビの部分なんてイケメン過ぎて見惚れるほどだ。
歌い終わると一年生は歓喜の声を上げる。
「葵先輩、かっこよすぎです!」
「いやあ、そう言われると嬉しいね」
特に隣の宮川紅葉は、目が完全にハートマークだな。
ベアキャットのメンバーももちろん拍手だが、歌のうまさは知っていたようだ。
「相変わらず、さすがね。葵のエビ中は」
「そうやねえ、迫力あって惚れてまうわ」
「ほんと、格好いいです」
「すごいなあ、葵」
俺もこんなに格好いいカラオケは初めて聴いたかも知れない。
「葵さんがここまで歌えるのなら、アレに出てもいいかもしれないなあ」
「アレって?」
スミレが聞く。
「実は今度のイベントで歌を歌わないかってオファーが来てるんだ。断ろうかって思ってたんだけど……」
「それは何のイベントだい?」
葵さんが聞いてきた。
「『熊本ライブフェス』って言ういくつかのライブハウスが合同でやるイベントなんだけど」
「ああ、やっぱりそれか。去年も同じような誘いがあってね。そのときも歌ってくれって話だったから断ったんだ」
「そうだったんだ。でも、葵さんがここまで歌えるならやってみてもいいんじゃないか? 他のメンバーだってみんなうまかったし」
椿と友梨香さんはさすがの歌声だった。スミレと美桜だって下手じゃ無い。
「でも、何を歌うんだい? ベアキャットで踊るような曲でボクが歌える曲は無いよ」
「え? 今のでいいんじゃないか?」
「『君のままで』か」
「うん。椿、私立恵比寿中学の曲をベアキャットで踊れるのか? 人数はどうだろう?」
「今のエビ中は人数が多いけど、前は6人だったし、5人のベアキャットでも何とかなるわよ」
「そうか。じゃあ、いいんじゃないか?」
「うーん……みんなはどう思う?」
葵さんは聞いた。
「ウチは賛成!」
「私はやってみたいですね」
美桜と友梨香はすぐに賛成した。
「歌有りは私はあんまりやりたくないけど、今回だけならいいわよ」
椿は消極的賛成か。あとはスミレだな。
「うぅ……歌は苦手なのよね……葵がセンターポジションやってくれるならいいけど」
「ボクが? でも、エビ中はセンターとかは無いからね」
それを聞いて椿が言う。
「曲毎にセンター的な立ち位置はあるでしょ。『君のままで』なら安本彩花のポジション。葵がやるならそこね」
さすが、アイドルオタク。エビ中にも詳しいようだ。
「……それならいいかな」
「じゃあ、決まりね」
椿が言った。
「やったー! すごく楽しみ!」
歌うベアキャット決定に一年生も大盛り上がりだった。




