43 和解
ベアキャットのステージが終わると、俺と議員はステージ裏に向かった。そこで待っていると椿が出てきた。
「バカマネ、この人は?」
椿が聞いてきた。
「友梨香さんのお父さんだよ」
「え!? そうなの? 友梨香は、人を探すとか言ってステージの方見てたけど」
たぶん、お父さんだな。
「連れてきてくれ」
「わかった」
椿が走って戻って行く。
入れ違いにスミレと葵さん、美桜が出てきた。
「君たちはベアキャットのメンバーだね」
議員が尋ねる。
「はい、そうですけど……大樹、この人は?」
「友梨香さんのお父さんだ」
「そ、そうでしたか。いつもお世話になっています」
「いやいや、こちらこそ。友梨香が迷惑掛けていないか?」
「いえ、いつもパフォーマンスで引っ張ってくれています。それに勉強も教えてくれて」
「そうなのか」
「はい。他にも……」
お父さんの相手はスミレに任せよう。俺はなかなか来ない友梨香さんを探しにステージ裏に入った。
少し奥に進むとそこに椿と友梨香さんがいた。
「友梨香さん、お父さんが来てるよ。行こう」
「行きたくないです」
「さっきからこう言って動かないのよ」
椿が言う。
「友梨香さん、もう大丈夫だから。お父さんのところに行ってあげて欲しい」
「……どういうことですか?」
「行けば分かるよ」
「わかりました……」
友梨香さんはようやくこの場を動いた。
◇◇◇
「お父さん!」
「友梨香……今まですまなかった」
「お父さん……」
「お前のことを縛り付けるばかりの父親になっていたことに今頃気がついたよ。お前の楽しそうな笑顔を見て思い出したんだ。ワシも若い頃はバンドをやろうとしてね」
「お父様が?」
「うん。ギターを練習してたんだがそれが親父に見つかってしこたま怒られてね。まだバンドをやるなんて不良とか言われた時代だ。だからワシは自分の夢をあきらめた」
「お父様……」
「でも、友梨香はワシの妨害にも負けず、自分の好きなことをやりきろうとした。すごいことだ。ワシが出来なかったことだよ」
「でも、ごめんなさい。黙ってて……」
「そうだな。隠していたのは悪いことだ。だから、今後は全ての出演をちゃんと報告すること。いいな」
「はい! ……お父様!」
友梨香はお父さんに抱きついた。
「こら、泣くもんじゃない。綺麗な顔が台無しじゃないか」
「はい……」
「じゃあ、ワシはまだ視察があるから戻るぞ。友梨香は家に帰るのか?」
「はい、帰ります」
「うん。今日はご馳走を用意してもらおう」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、これからも頑張るように」
議員は観客席に歩き出した。だが、俺に言う。
「君はもうちょっと付き合いなさい」
「は、はい」
俺は議員に付いていった。
「ところで、ウチの女房から聞いたが、君は友梨香に好かれてるとか」
「え!? そんなことはないと思いますが……」
「そうなのか? でも、君はどうなんだ? 友梨香をパートナーにしたいとか思っているのか?」
「いえ……私には心に決めた人がいますので」
「そうか。それは残念だな。君にワシの地盤を受け継いで欲しかったが……」
「地盤?」
「そろそろ親父も引退するのでワシも国政に出ようと思ってるからな。そうなると県会議員の椅子が一つ空くだろ。そことかどうかと思っておったのだが」
「あの……俺、高校生ですよ」
「なぬ!?」
「友梨香さんの同級生です」
「そうだったのか。大人っぽいから成人しとると思っとったわ。そうかそうか。将来楽しみな若者じゃの」
そう言って議員は笑った。
「まあ、友梨香次第だが、将来は考えておいてくれ」
「はあ……」
「何か困ったらワシに連絡するように」
そう言って名刺を俺に渡した。
「それじゃあまたな。友梨香のことを頼んだぞ」
「は、はい!」
議員は自分の席に戻っていった。
◇◇◇
俺はようやくベアキャットの控え室にまで戻った。ドアをノックする。
「大樹、入っていいわよ」
スミレの返事を聞いて扉を開けて部屋に入った。すると、すぐに友梨香さんが抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと! 友梨香さん! みんな見てるよ」
「いいんです。大樹マネ……本当にありがとうございました」
友梨香さんが言った。ふと見ると、周りのメンバーも温かく見守ってくれている。
「いや、俺は何もしてないから」
「そんなことないです」
「あるよ。友梨香さんのパフォーマンスを見て、お父さんが考えを変えたんだ」
「それだけじゃないはずです」
「それだけだよ」
「……ほんとにあなたって人は……」
友梨香はようやく俺から離れた。
「スミレがうらやましいです」
「はあ?」
「だって、こんな素敵な人に愛されて……」
「でも、スミレはそうでもないみたいだけどね」
俺はスミレに言った。
「……そんなことは言ってないでしょ」
「じゃあ、付き合うか?」
「それとこれとは別」
「やっぱりな」
そう言うとみんなが笑った。
「でも、今回はバカマネ、よくやったわ」
椿が言った。
「だから俺は何もしてないって」
「議員の横でステージを見てたって聞いたわよ」
「……ただ座ってただけだから」
「わざわざ隣まで行く? まあ、いいわ。ところで、バカマネ。帰りのタクシーは予約してるのよね」
「え? 予約はしてないけど今から呼べば大丈夫じゃないか?」
「バカマネはやっぱりバカマネね。今日は熊本ガールズコレクションよ。タクシーなんてすぐに捕まると思う?」
「大丈夫だろ」
俺はアプリを操作した。
「……だめだ、全然捕まらない……」
「はぁ……ほんとどうするのよ」
「ご、ごめん! どうしよう……」
この人気だと観客と一緒にバスで帰る、ってわけにはいかないよな。どうしたものか。
「あの……車ならなんとかなると思います」
友梨香さんが言った。
「え?」
「うちの車を呼べば……お父様とも和解したので来てくれるかと」
「そっか。じゃあ、友梨香、呼んでもらえる?」
「分かりました……あ! ごめんなさい、スマホが無いんでした……」
友梨香さんはスマホをも取り上げられたままだったな。
「もう……どうするのよ」
「いや、大丈夫だ。俺が連絡できるから」
そう、俺は友梨香のお母さんとも連絡先を交換していた。
「やるじゃないバカマネ。頼むわよ」
「わかった」
俺はすぐに友梨香のお母さんに連絡し、車で来てくれることになった。
「よかった……」
スミレがほっとしている。だが、友梨香さんは何か浮かない顔をしていた。
◇◇◇
友梨香のお母さんが乗ったリムジンが到着し、俺たちは全員その車に乗った。
「さあさあ、ベアキャットのみなさん、いらっしゃい」
「「「「ありがとうございます」」」」
全員が乗り込み、車が出発した。
「それにしても友梨香がお父様と和解して良かったわ。これも坂崎マネージャーのおかげね」
「いえ、自分は何もしてないので。全て、友梨香さんの努力が心を動かしたのだと思います」
「それもあるわねえ。友梨香、がんばったわね」
「うん……」
「あれ? 友梨香、どうして嬉しそうじゃないの?」
「お母様……聞きたいことがあります」
「何かしら」
「どうして、大樹マネの連絡先を知ってるんですか!」
そう言って友梨香がお母さんをにらんだ。
「あー……そうねぇ……」
「今まで連絡先を交換するチャンスなんて無かったはずです。それなのに……まさか、私に隠れて2人で会ったりしてたんですか!」
友梨香さんが叫ぶ。それを聞いて、他のメンバーも全員俺を見てきた。
「ち、違うんだ……ですよね?」
俺は梨子さんを見た
「そうねえ……友梨香がいないときにちょっと大樹君と会ったかな」
「はあ!?」
友梨香さんが驚いて叫んだ。
「いや、だから違うって!」
「マネ君、年上好きだったの?」
「最低ね、バカマネ」
「大樹君もやるねえ」
「大樹……もう知らない」
非難を浴びた俺は、みんなに納得してもらうまでに相当時間がかかったのだった。
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※次回、葵編がスタートです。




