39 友梨香父
車が友梨香さんの家に到着し、俺たちは玄関から家に入り、お母さんに案内され応接室に座った
「もうすぐお父様が来るから。友梨香、頑張ってね」
「お母様、ありがとうございます」
「でも、私は加勢は出来ないわよ。あなたが頑張るしかない」
「はい。わかってます」
「坂崎マネージャー、一緒に来ていただいてありがたいですが、今日は何も言わずに我慢していただければありがたいです」
「……わかりました」
俺は単に友梨香さんの横にいて、友梨香さんに勇気を与える存在になるだけだ。
お母さんが出て行って少しすると、中年の男性が入ってきた。見るからに厳格そうな人。校長先生みたいな感じだな。この人が友梨香さんのお父さんか。
「友梨香、今日は遅かったな。何か話があるということだが……その人は誰だ?」
「はじめまして、ベアキャットのマネージャーをしております坂崎大樹です」
「ベアキャット? 聞いたことがあるような無いような……すまんね、思い出せなくて。それはなんだい?」
「高校生のダンスグループです」
「ほう、ダンス……そうか、思い出した! 日曜のイベントで地元代表で出るグループじゃないか!」
「はい、その通りです」
「東京からの出演者ばかりだったから、地元から出るグループがいると知ってワシはうれしかったぞ。そこのマネージャーか。でも、そんな人がなぜここに?」
「それは私が話します」
友梨香さんが話し出した。
「お父様。私、ベアキャットのメンバーなのです」
「……それはつまり加入したいということか? このマネージャーにスカウトされたのか?」
「いえ、そうではありません。最初から加入しています。初期メンバーの一人です」
「は? どういうことだ?」
「私は今までベアキャットのメンバーとして既にたくさんのステージに出ているのです。でも、お父様には内緒にしておりました。ごめんなさい」
友梨香さんが立ち上がって頭を下げた。
「ステージ? つまり、みんなの前で踊っているというのか? 友梨香が?」
「はい、そうです」
「……マネージャー。その映像を見せてみろ」
「は、はい。わかりました」
俺は『春のお城祭り』の時に撮影した映像を再生した。映像では楽しく5人が踊っている。だが、それを見ているお父さんの顔は徐々に険しくなっていった。
「……こんな感じで何度もステージで踊っているというのか?」
「はい、そうです」
「……けしからん」
「お父様……」
「まず、ワシに黙ってこのようなことをしていたのがけしからん」
「すみません!」
「それに……なんだこの衣装は! 露出が多すぎる!」
しまった。このときは美桜さんが張り切って、ちょっと露出多めの衣装にしてたんだった。
「こんな衣装で大勢の前で踊るなど破廉恥だ……有権者にバレたら恥ずかしくて外も歩かれん!」
やばい、お父さんはヒートアップしてきている。
「ち、違うんです。これはたまたまこういう衣装で、普段はもっと――」
「ダメだ! 友梨香、すぐやめなさい」
「お父様!」
「イベントには出るんじゃないぞ。すぐやめること。いいな!」
「お父様! 聞いてください! ベアキャットは私にとって――」
だが、お父さんはその言葉を遮るように立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。
「お父様……」
だめだ。説得は失敗か……まずいぞ……
「友梨香さん、とりあえず熊本ガールズコレクションはあきらめよう。そして次のステージまでに何とか説得して――」
「いえ、大丈夫です。出ます」
「友梨香さん……」
「必ず出ますので心配は無用です」
「そうは言っても……もし出演してそれがバレたらもっと怒られるんじゃないかな……そうなったら、今後の出演の望みも……」
「いえ、大丈夫ですから」
友梨香さんはそう言うばかりだった。仕方なく、俺は家に帰った。
◇◇◇
翌日の土曜日。朝から部室で最終確認を行うことになっている。俺とスミレが到着したときには、椿、美桜、葵さんはもう来ていた。だが、友梨香さんはまだ来ていない。スマホを見ても連絡は来ていなかった。
――そして、時間になっても友梨香さんは現れなかった。
「友梨香、どうしたんだろう。連絡も取れないし、何かあったかしら……」
スミレがつぶやく。
「いや、たぶん違うと思う。みんな、ちょっと聞いてくれないか」
俺は昨日あったことをみんなに説明した。
「そんな! じゃあ、友梨香は明日出れないわけ!?」
美桜が言う。
「でも、明日は休んででもお父さんをなんとか説得して、脱退は避けた方がいいんじゃないかな」
スミレが言った。
「……そういうことなら四人バージョンの練習もやっておいた方がいいわね」
椿が言う。
「そうだな……」
友梨香さんがいないベアキャットか……
「じゃあ、みんな始めよう―――」
「遅れてごめんなさい!」
そこに友梨香さんが現れた。
「「「「友梨香!」」」」
「私は大丈夫ですから……練習しましょう」
「友梨香、来れるのならどうして連絡取れないのよ」
椿が言う。
「ごめんなさい。位置情報を追跡されないようにスマホは家に置いてきましたので」
「そうなんだ……」
「はい。だから、バスに乗るにも、どれに乗ればいいか分からずに手間取ってしまって……遅れてしまいました」
「バス? 友梨香さん、車は?」
「お父様のご命令で車は出してくれませんので」
「そういうことか」
「そんな状態で明日出れるわけ?」
椿が聞く。
「大丈夫です。絶対出ます」
「……絶対ね?」
「はい」
だが、それを聞いても椿は言った。
「わかったけど……まだ友梨香は着替えてないし、その前に四人バージョンの練習を一度やらせてもらえる?」
「そ、そうですか……」
友梨香さんはうなだれた。椿の言葉は当然だ。もしかしたら友梨香さんが明日来れないかも知れない。その時に備えて四人バージョンの練習をしておく。ダンスリーダーとして当たり前の判断だろう。
だが、友梨香さんはうつむいたままだ。自分がいなくてもベアキャットは成り立つ、椿の言葉をそんな感じに捉えてしまったのだろう。自分の居場所であるはずのベアキャットでそんなことを言われたら……俺は居ても立ってもいられず椿に言った。
「その必要は無いよ。四人バージョンの練習はやらなくていいから」
「は? バカマネ、あんたねえ……リスク管理って言葉知ってる?」
「リスク管理か……そんなのくそ食らえだ」
「はあ!?」
椿があきれ顔で見てくる。
「ベアキャットは5人だ! だから四人バージョンはいらない!」
俺は椿に言った。
「……ふうん、バカマネのくせに言うじゃない。わかったわ。じゃあ、もし友梨香が出れなくなったらあんたが責任取りなさいよ!」
「望むところだ!」
「じゃあ、バカマネ」
「なんだよ」
「友梨香が着替えるからさっさと外に出なさい」
「そ、そうだな……」
俺は慌てて外に出た。




