38 友梨香母
友梨香さんのお母さんが俺の家に来ている。慌てて玄関に向かい、家の扉を開けた。
「お久しぶりです」
「久しぶり、坂崎君。友梨香はいますよね?」
そう言って、友梨香さんのお母さんが俺を見つめた。
「お母様! なんでここに?」
その声を聞いて友梨香さんがすぐにやってきた。
「あなたが帰ってこないからでしょ。急に遅くなるとか言うからお父さんが怒り出しちゃって、私を迎えによこしたのよ」
そうだったのか……連絡したということで安心していたけど、ちゃんと了承はされてなかったんだ。
「さ、帰りましょう」
「嫌です! まだ、私はやらなきゃいけないことがあります!」
「もう遅いんだから明日にしなさい」
「明日は……もう最後なのに……」
友梨香さんが言う。確かに俺が恋愛を教えるのは明日が最後だ。でも、明日はデートの予定がある。恋愛を教えることはできるだろう。
「友梨香さん、今日のところは帰ったら? 遅くなったらお父さんも心配するだろうし」
「……分かりました。マスターがそう言うなら仕方ありません。でも、明日はよろしくお願いしますね」
「うん、わかったよ」
「じゃあ、帰ります」
友梨香さんが荷物を取りに部屋へ戻ると、お母さんが俺に声をかけてきた。
「坂崎君、できれば一緒に来てもらえませんか?」
「え?」
「少し話したいことがありますので」
お母さんは真剣な表情だ。
「わ、わかりました」
何か大事な話がありそうだ。俺も一緒に行くことにした。
◇◇◇
家の外には運転手付きの大きなリムジンが停まっていた。それに乗り、俺と友梨香さんはお母さんの向かいに座った。車が走り出すと、友梨香さんが言った。
「お母様、なんなんですか? 坂崎君まで一緒に連れてきて……」
「友梨香、私たちに隠していることがあるでしょ?」
「え……」
まずい、まさかベアキャットをやっていることが感づかれたのか。だからマネージャーである俺を連れてきたのか。
「な、何も無いですよ」
「じゃあ、坂崎君とはどういう関係?」
「ただのクラスメイトです」
「それだけじゃないわよね。この間、一緒に来た女子4人も特別な関係なんでしょ?」
だめだ、完全にバレてる……
友梨香さんもそれに気がつき、うなだれた。
「ご存じだったんですね……」
「ずっと前からね」
「そんな!」
友梨香さんが驚く。
「私があなたのことをほったらかしにすると思う? ちゃんと調べてるわよ。ベアキャットの動画は全部見てるわ」
「そう……だったんですか」
ベアキャットの活動はバレていたのか。別に顔を隠しているわけじゃ無いし、当たり前か。でも、この流れは……最悪、脱退もありえるな。だからこそ俺が呼ばれたのだろう。俺は口を出さずにはいられなかった。
「お願いです! 友梨香さんはベアキャットの大事なメンバーなんです。今抜けられたら困ります。友梨香さんも楽しく活動してるんです! だから……活動を許してやってください!」
「マスター……」
「……うーん、そうねえ……」
お母さんは悩んでいるようだ。そこに友梨香さんも言った。
「私もベアキャットを続けたい! 大事な場所なの。お願い!」
「友梨香、私はいいのよ。ベアキャットのファンと言ってもいいわ」
「お母様……」
「でもね。お父様はこれを知らないの。内緒にしてるのよ」
「そうですか……ありがとうございます」
「でも、もう限界が来てるの。今日みたいに遅くなったりしたら、言い訳できないでしょ?」
「す、すみません」
お母さんは味方だったのか。でも……
「やはりお父さんはこれを知ったら反対されるのでしょうか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「わかりません。ですが、その可能性は高いでしょうね」
「そうですか……」
だったら秘密にしておくしかないか。これまで以上に慎重に行動しなくては。
「お願いします! 秘密にしておいてください!」
友梨香さんが言った。
「そうしたいんだけどね……どうやら無理そうなの」
「え!? なんでですか?」
「熊本ガールズコレクションには後援に県も名を連ねてるの。その関係でお父様は視察に行かれるそうよ」
「え!? そうなんですか……」
そういえばお父さんは県議会議員だったか。
これはまずい。いくらいつもと違うスタイルの友梨香さんとは言え、実の親が見たら一発で気づかれるだろう。そうなったらどうなることか……
「だから、友梨香。熊本ガールズコレクションは休みなさい」
「そんな……」
「坂崎マネージャー。実はそれをご相談したかったのです。友梨香が休むことは可能でしょうか?」
せっかくここまで厳しいレッスンをしてきたのに友梨香さんが休んでしまうなんて悲しすぎる。あってはならないことだ。「私の一番可愛いところ」は元々7人で踊る曲。それを5人で作り直している。それが4人になると、寂しいステージになってしまうことは確かだし、できれば避けたい。だけど……
「……なんとかなると思います」
「マスター!」
「そう、良かった。じゃあ、友梨香。わかったわね?」
「……嫌です」
「は?」
「嫌です! ベアキャットのステージは大事な場所なんです! 残りの高校生活で何回ステージに立てるか……その大事な一回をこんな事で奪われたくありません!」
「友梨香さん……」
友梨香さんにとってベアキャットのステージは俺の想像以上に大事なところのようだ。
「じゃあ、どうするの? もしステージでバレたら、二度と活動できないかも知れないわよ」
「……今日、お父様に話します。それで納得してもらいます」
「難しいと思うわよ。最悪、脱退しろと言われるかも知れない。それでもいいの?」
「はい、説得します。ただ……大樹マネ、一緒に来てもらえますか?」
「俺が?」
「はい。大樹マネが付いてきてもらえれば、私も勇気がもらえますので」
「……うん、わかったよ。俺も言えることがあれば言いたいし」
「いえ、大樹マネは何も言わず、ただ横にいていただければそれでいいです」
「そう……わかった」
こうして、俺は友梨香さんの父親に会うことになった。




