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22 憧れ

 私、氷室椿は小学生の頃からアイドルが好きで憧れて、近所のダンススクールに通っていた。ここはいわゆるアイドル養成所のようなところだ。ダンスだけでなく歌も練習させてくれる。


 私は自分がアイドルになるんだって頑張っていた。でも、この性格は昔から変わらない。素直になれず、学校ではつい嫌なことを言ってしまうことも多かった。そんな私がアイドルの曲を踊る発表会に出たもんだから、みんなは驚き、そして冷やかすようになった。


 それに耐えられなかった私は中学でスクールを辞め、アイドルの夢もあきらめた。私の性格では無理。そう思った。


 高校に入ると、なぜか美桜とともに学年の二大美女と言われるようになった。私の性格が知られていなかったからだと思う。すぐにサッカー部の先輩に告白され、付き合うようになった。彼との恋愛は私にとって安らぎの場所になった。


 でも、私は何か満たされなかった。アイドルへの夢。それを無くしてしまってからは心から打ち込めるものが無くなっていた。


 そんなとき、スミレと葵と友梨香が「ベアキャット」を始めたことを知った。正直言って嫉妬した。私も同じようなことをしたいって思ってたけど、行動に移せなかった。だから、スミレの行動力をすごいと思った。ちゃんと夢を形にして、結果を出している。いつしか、スミレへの視線は憧れに、そして尊敬へと変わっていった。私はベアキャットのファンになったのだ。


 そんなある日、スミレが突然私の前に現れた。


「氷室さん、ダンス上手いって聞いたよ。スクールに通ってるんだって?」


「中学の頃ね。今は行ってないわ」


「そうなんだ。ねえ、私たちにダンスを教えてくれない?」


「私が?」


「うん。私たち、みんな素人だから。アドバイスとかしてもらえると嬉しいな」


「……まあ、いいけど」


「ありがとう! じゃあ、放課後待ってるね!」


 渋々引き受けたように言ったけど、本当は嬉しくてたまらなかった。あこがれのベアキャットに私が教えることが出来るんだ。


 実際に練習に参加してみると、3人のダンスにはまだまだ改善の余地があった。私はつい熱が入り、夢中で指導してしまった。


「……氷室さんってほんとにダンスが好きなんだね」


 スミレが感心したように言った。


「ご、ごめん……つい厳しく言っちゃって」


「ううん、すごい的確で驚いたよ。ね、葵?」


「そうだね、氷室さんはすごい人だ」


「友梨香もそう思うでしょ?」


「はい、氷室さんはプロですね。私などは足下にも及びません」


「そんなこと……」


 あこがれの人たちに評価されて、私は天にも昇る気持ちだった。だが、その後のスミレの言葉にはさらに驚かされた。


「ねえ、氷室さん。私たちと一緒に踊らない?」


「え?」


「ベアキャットに入ってよ」


 その言葉には耳を疑った。


「でも、私なんかが入って人気が落ちたら……」


「何言ってるのよ。氷室さんが入ってくれたら人気爆発だよ」


「そんなこと……」


「お願い、考えてみて」


「うん……わかった」


 そう答えたけど、私の気持ちはすでに決まっていた。


 翌日、スミレがまた私の元へやってきた。


「氷室さん、どうかな?」


「……ベアキャットに入るわ」


「本当? やったー! 椿、ありがとう!」


 スミレは私の手を取って飛び跳ねた。それにもう名前呼びだ。


「あ、ベアキャットは全員名前呼びってルールだからね。私のこともスミレって呼んでね」


「わ、わかったわ、スミレ」


 こうして私はベアキャットという頑張れる居場所を見つけた。


◇◇◇


「そんなことがあったんだ……」


 俺は全く知らないベアキャットの歴史だった。


「そうよ。だから、私にとっては大樹よりもスミレの方が百倍も大事なの」


「まあ、それはそうだろうな」


「だから、スミレが嫌がることはしたくない。期限が来たらちゃんと大樹と別れるわ」


「スミレが嫌がるって……俺が椿と付き合ったとしてスミレが嫌がるかな」


「嫌がるわよ」


「俺はスミレに振られてるんだぞ」


「それでもスミレは大樹と仲良くしたがっている。それは確かよ」


「そうかな」


「そうよ。それは今は恋愛感情じゃないかも知れない。でも、そうなる可能性はあると思うわ」


「そ、そうなんだ……」


「そうよ。だから、大樹もあきらめずに頑張りなさい」


「わ、わかった……」


「でも、今は大樹は私の彼氏だからね。その約束はきっちり守ってもらうから。だから、明日はデートしましょう」


「わかったよ」


 俺は椿とデートすることを了承した。



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