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17/22

17 謝罪

「ありがとうございました!」


 スミレが最後にそう言って、5人がステージの裏に退く。俺もビデオカメラを撤収して、控え室となっているテントに向かった。だが、その足取りは重い。何しろビデオカメラが途中で倒れてステージが一部撮れてないのだ。


 控え室に戻ると、すでに5人は戻ってきていた。


「あー、楽しかった!」


 スミレが言う。


「ほんとにそうですね! 緊張もありましたけど、やりきりました」


 友梨香さんが言った。


「会場も盛り上がったね」


 葵さんが言う。


「マネ君、ウチのダンス見てくれた?」


 美桜さんが俺に聞いてきた。


「う、うん……すごく良かったよ」


「でしょ? 今日はマネ君のために踊ったから……って、どうしたの?」


 俺の態度に違和感を覚えた美桜さんが聞く。


「ご、ごめん! 途中でカメラが倒れてしまって……」


「はあ?」


「途中撮れてないかも……」


「なにやってるのよ……このバカマネ!!」


 椿さんの怒号が響いた。


「ほんとにごめん……」


「まあまあ。そんな長い時間じゃないんだろ? きっと誰かが撮ってると思うし、それを編集でつなげばいいよ」


 葵さんが言った。


「なるほど……でも、他に撮ってる人って誰かいるかな」


 そいつを探して頼むのも大変だ。


 そう思ったとき、テントの外から声がした。


「お兄ちゃん、スミレさん、いるの?」


「誰?」


 椿さんが聞く。


「ごめん、たぶん妹だ」


 俺は言った。


「妹?」


「あ、瑠璃ちゃん来てるんだ。瑠璃ちゃん、入っていいよ」


 スミレが呼びかける。


「……失礼します」


 やはり、妹の瑠璃だった。その小さい姿にすぐに美桜さんが近づいてくる。


「瑠璃ちゃんやん! 見に来てくれたと? ありがとう!」


 そう言って瑠璃を抱きしめた。美桜の胸に瑠璃の小さい顔が埋まる。


「美桜さん……嬉しいけどちょっと苦しい……」


「ごめんごめん」


「……この可愛い子がバカマネの妹?」


 椿さんが瑠璃を見て言う。


「そうだよ」


「共通の遺伝子があるとは信じられないわね。義妹?」


「実の妹だから」


「ふうん……うらやましくなんてないんだからね!」


 どうやら椿さんは俺の妹を気に入ったようだ。


「瑠璃、椿さんにも挨拶したら?」


「う、うん……つ、椿さん、坂崎大樹の妹の瑠璃です」


 ベアキャットファンの瑠璃も椿さんのことはちょっと恐いようだな。


「……ベアキャットのファンなの?」


「はい!」


「そう……じゃあ、私が頭なでたら嬉しい?」


「はい、是非」


「じゃあ……」


 椿さんは瑠璃の頭をなでた。


「か、かわいい……」


 椿さん、嬉しそうだな。


「ありがとうございます!」


「あなた、バカマネじゃなくて私の妹にならない?」


「え?」


「何言ってるんだ、まったく」


 俺は瑠璃を引き離した。


「そうだ! 瑠璃ちゃん、今日のステージ撮影してない?」


 スミレが聞いた。


「あ、はい……スマホですけど」


 なんだ、瑠璃が撮ってたのか。


「ちょうど良かった。それと大樹君が撮影したもので編集すれば何とかなるね。それはボクがやろう」


 葵さんが言った。助かった……


「妹さんに助けられたわね、バカマネ」


「そ、そうだね」


「あの……椿さん、その『バカマネ』ってお兄ちゃんのことなんですか?」


 瑠璃が椿さんに聞く。


「え!? そ、そうね。愛情を込めたニックネームなのよ」


「そうですか……いつもお兄ちゃんをそう呼んでるんですか?」


 瑠璃が不満そうな目で椿さんを見ている。


「ち、違うわよ。今日はヘマしたから。いつもは『大樹君』って呼んでるから」


 必死にごまかしてるな。俺のことを大樹君なんて呼んだことないだろ、まったく……


「ねえ、大樹君。そうだよね?」


 椿さんが俺に話を合わせろとばかりに必死にウィンクしてきた。


「そ、そうだね」


「そうなんですか。ちょっとびっくりしました」


「アハハ」


 椿さん、瑠璃に気に入られようと必死だな。可愛い子に弱いんだ。


「それと、友梨香さんはどこですか?」


 瑠璃が聞く。友梨香さんはもう眼鏡を掛けて髪をまとめていたから、瑠璃には分からなかったようだ。


「私ですか?」


 友梨香さんが瑠璃に近づいた。


「え!? あ……友梨香さんだ。いつもは眼鏡なんですね」


「はい。いつもは真面目な委員長ですが、眼鏡を外すと……」


「友梨香さんだ!」


「そう、ベアキャットの友梨香に変身するのです」


「すごいなあ」


 友梨香さんも意外にお茶目なところあるんだな。それにしても瑠璃のやつ、はしゃぎすぎだ。


「それで瑠璃。何しに来たんだ? ただベアキャットメンバーに会いたかっただけか?」


「違うよ。お母さんがベアキャットに差し入れしろってお金くれたから、お兄ちゃんと一緒に何か買いに行こうって思って」


「差し入れか。ありがたいね」


 葵さんが言った。


「よし、じゃあ、買いに行くか」


「うん!」


 俺と瑠璃はテントを出て周りにある店に買い出しに出た。


 二の丸広場には『お城祭り』ということでたくさんのキッチンカーや屋台が出ている。いろいろ買ってテントに戻ってくると、テントのすぐ外で大人の男性と葵さんが話し合っていた。


「……困ります」


「だからイベントの打ち合わせしたいだけだから。ね?」


 そういうやつか。俺はすぐに間に入った。


「ベアキャットに何かご用でしょうか?」


「なんだね、君は?」


「マネージャーです」


「はあ? ほんとか?」


「ほんとだもん! お兄ちゃんはベアキャットのマネージャーです!」


 瑠璃も加勢する。


「チッ!……じゃあ打ち合わせはまたあとでってことで」


 そう言って男性は離れていった。


「助かったよ、大樹君」


「いや、少し遅くなって迷惑掛けてごめん」


「大丈夫だよ。それで……何か買ってきたのかい?」


「そうだよ……ほら!」


 俺はテントの中に入りテーブルの上に買ってきた物をひろげた。


「たこやきに焼きそばに串焼きにたまごサンドにチュロスに……いろいろあるぞ」


「やったー! さすがマネ君、いただきまーす!」


 美桜さんがすぐに飛びついた。他のメンバーも思い思いに食べたいものを取る。瑠璃は美桜のところに行き、膝の上に乗ってたこ焼きを食べている。


 それを見ている俺のそばに椿さんが来た。


「あんたは食べないの?」


「これは母さんがメンバーへの差し入れにってくれたものだから」


「バカマネのくせに律儀ね。じゃあ……はい」


 椿が俺にたこ焼きを差し出す。


「私がもらってあんたにあげるんだからいいでしょ?」


「……ありがとう」


 俺はありがたくたこ焼きを受け取った。


「俺にこんなことするなんて珍しいな」


 いつも椿さんは俺に厳しいし。


「さっきも葵助けてたりしたし、珍しくかっこよかったからね」


「は?」


 椿さんが俺のことをかっこいいと言うとは思わなかった。


「ご褒美に大樹君って呼んであげようか」


「別にいいよ、バカマネで」


「そういうところは素直じゃ無いわね、大樹君は」


「う……」


 いつもバカマネって呼んでるのに名前で呼ばれるとなんか照れるな。


「あら? 大樹君どうしたのかしら?」


 そう言って椿さんは俺の前に顔を近づける。


「か、からかうなよ」


「ふふ、ごめんね。私、彼氏いるから勘違いしないでね」


「知ってるよ、まったく……」


 すっかり、椿さんにからかわれてしまった。



――――

※次回、椿編がスタートです。


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