14 プレッシャー
「マネ君、約束守ってくれてありがと」
美桜さんが言った。
「当たり前だよ。でも、それだけじゃない」
「え?」
「美桜さんがセンターでもおかしくないって本当にそう思ったから言っただけだよ」
「そ、そう……って、ウチを励まそうとしてるだけでしょ」
「違うから。俺の本当の気持ちだよ」
「う……ウチはミイラにはならんからな」
「ミイラ?」
「なんでもない。まあいいわ。でも、約束を守ってくれたのは事実やからお礼しようと思って」
「お礼?」
「うん。なんか食べに行こうか」
「今からか?」
「そうそう。高校生男子だし、お腹空いてるんじゃ無いの?」
「まあ、少しは……」
ということで、俺たちは学校近くのバスセンターにあるマックに来ていた。
「好きなもの頼んでいいよ」
「じゃあ……ポテトのLとコーヒーで」
「それだけでいいの?」
「いいよ」
「そっか。じゃあ、ポテトL二つとコーヒー二つね」
俺たちはテーブルについて食べ始める。
「いやあ、今日は嬉しいわ。私がついにセンターか。フフフ」
ほんとに美桜さんは嬉しそうだ。
「良かったな」
「うん! これで人気も注目も独り占め。二大美女から単独トップも間違いない!」
「そうなればますます告白とかされるぞ。いいのか?」
「それは面倒ね……でもウチには彼氏います! って言っちゃえばいいか」
「いないだろ」
「いるもん。マネ君が」
「はあ?」
「これでマネ君まで奪えれば完全勝利なんだけどなあ」
そう言って俺を上目遣いで見てくる。
「俺はスミレ一筋だから」
「スミレよりウチの方がセンターにふさわしいって言ってくれたのに?」
「それとこれとは別」
「チェッ。まあ、そう言うとは思ってたけど」
「だいたい美桜さんは俺のこと好きじゃ無いだろ……」
「そうね。今のところは」
「やっぱり……」
「でも、結構ヤバいんよねえ。だから、なんとかしないといけないんやけど……」
何か小さい声でぶつぶつ言ってる。
「とにかく、俺はスミレ一筋だから。それは譲れない」
「はいはい、まあ、今日はセンターだけにしておこうかな」
それでも美桜さんの機嫌は良かった。
◇◇◇
翌朝。朝練に行くために朝早く路面電車の停留所に行くと、やはりスミレがいた。
「スミレ、おはよう」
「……」
スミレは黙ったままだ。
「スミレ?」
「大樹、なんで美桜がセンターがいいなんて言うのよ」
「それは……ごめん」
「私のこと、好きじゃ無かったの?」
「好きだよ。でも――」
「あ、ごめん……振った私が言えることじゃないか。そうだよね。大樹、私のこと、恨んでるもんね……」
スミレが下を向いて言う。
「そんなこと無いから。恨んでないよ」
「だって、マネージャーになる前は話もしてくれなかったし、ずっと私のこと避けてたし」
「……それは恨んでたからじゃ無いから。スミレに会うのがつらかっただけだよ。スミレのことが好きだから会いたくなかったんだ」
「ほんとかなあ」
「ほんとだって」
「それなら昨日、私の味方してくれても良かったのに。大樹が美桜って言ったとき、ショックだったなあ」
「それはごめん! この通り!」
俺は狭い停留所で土下座した。
「ちょ、ちょっと! そこまでしなくていいから」
「でも……」
「分かってるわよ。私がセンターってのは身の程知らずだって」
「スミレ……」
「だって、一番ダンス下手だしね。今まではベアキャットの言い出しっぺとしてセンターやってたけど、ちゃんと考えて決めないとだめだよね」
「スミレ、そこまで考えなくていいから。次のイベントだけだろ、センター代わるのは」
「そうかなあ……みんなが美桜のセンターの方がいいって言えば、今後もそうなると思うけど」
「スミレ……」
「まあ、こんなこと考えても仕方ないか。うん、練習しか無いよね。大樹、マネージャーとして私を支えてくれる?」
「も、もちろんだ!」
「うん、ありがと」
スミレは前を向いてくれたようだ。とりあえず良かった。
この日の朝練はスミレも葵さんも昨日より気合いが入っていた。
◇◇◇
放課後、部室に来ると今日は美桜さんは早くに来て机を動かし準備をしている。
「美桜、張り切ってるね」
葵さんが言う。
「もちろん! 私がセンターなんやから頑張らんとねえ」
美桜さんのやる気がすごい。センターに推した甲斐があったかもな。
「そうよ、センターはみんなから注目されるからね。ミスしたら目立つよ」
椿さんが言う。
「そうやね。頑張る!」
元気に美桜さんは言った。
だが、俺が部室から出てレッスンが始まると、なにやらいつもと様子が違う。
「美桜、そこ間違ってる!」
「あ、ごめん!」
「美桜、遅い!」
「うぅ……」
いつもは注意がほとんど無かった美桜さんはなぜか今日は注意がかなり多かった。慣れないセンターに緊張でもしたんだろうか。
練習が終わり、後片付けに入ったとき、美桜さんが俺に言った。
「……マネ君、今日も衣装代の打ち合わせしようか」
何か相談があるようだ。
◇◇◇
みんなが帰り、美桜さんと二人きりになった教室で美桜さんは言った。
「マネ君がせっかく応援してくれたんやけど……ウチ、センターやめたい」
「はあ?」
「……なんか思ってたのと違ったし。だって、センターは一番前だから他の人の振りを見れないし。今まで自分が後ろでスミレの姿を見ながら踊ってたってよく分かったよ」
そうだったのか……
「それに……ベアキャットのセンターとして注目されるとわかったら、なんかプレッシャーが……スミレってやっぱりすごかったんやねえ」
「注目されたかったんじゃないのかよ」
「そうやけど……スミレのセンターの方が良かったとか思われるんやないか、とか思ったら……」
意外にプレッシャーに弱いタイプだな。
「それに、スミレに勝ったら何かが変わるって思ってたんやけど、やっぱりスミレはスミレのままだし、ウチはウチのままなんよ。ウチが急にスミレのようになれるわけなかった……」
「それはそうだけど……」
「しっかり積み上げていった上で、スミレに勝たないと意味が無い、それがわかったから」
「まあ、そうだろうけどね……でもセンターはもうちょっと頑張ってみたら――」
「もう無理」
「まだ一日だろ!」
「でも、これ以上引き延ばしてやめたら、みんなに迷惑掛けるし……明日、ウチから言い出そうと思うけど、この流れだと言いにくいし……マネ君からはスミレに根回ししてくれんかな?」
「マジかよ……」
「お願い! 何でも言うこと聞くから!」
美桜さんが俺の手を取って言う。
「何でもって……女子がそういうこと気軽に言うもんじゃ無いよ」
「気軽に言ってないし……覚悟はできてる。マネ君ならいいよ?」
「はあ?」
「とりあえず……おっぱい揉む?」
「なんでだよ!」
「あれ? 嫌だった?」
「嫌じゃ無いけど……」
思わず美桜さんの大きな胸を見てしまった。
「やっぱりマネ君も興味あるんだ。男の子だねえ。じゃあ、どうぞ」
美桜さんが胸を前に出してくる。
「そ、そんなことしなくていいから……俺がスミレには言っておくよ」
「ほんと?」
「ああ。だから、自分を安売りしないでくれ」
「マネくんならいいのに……」
「俺がスミレに完全に振られたらまた言ってくれ」
俺は笑って言った。
「……そうやね、振られるの待ってる!」
そういう美桜さんは満面の笑みだった。




