13 交替
放課後。部室に行くと、今日は美桜さんは早く来ていた。
「マネ君、ちょっと」
「え?」
美桜さんに呼ばれて部室の片隅に行く。
「今日、センターの話しようと思っとるんよ」
「そうか」
「だから途中で呼ぶかもしれんけん。いいよね?」
「もちろん」
「ウチの味方になってくれるんよね」
「当然だ」
「うん、わかった」
そう言って美桜さんは準備に戻っていった。
◇◇◇
いつものようにレッスンが始まり、俺は部室の外に追い出される。だが、美桜さんがいつセンターの話しを出すか分からないので、俺は必死に聞き耳を立てていた。
やがて、いつものように椿さんの厳しい注意が飛ぶ。
「スミレ、遅れてる!」
「ごめん!」
「葵、そこはもっと素早く」
「わかった」
「スミレ、そこ違うから」
「ごめん!」
相変わらずスミレの注意が一番多かった。曲が終わり、みんなが話を始めた。
「スミレ、もうちょっと精度上げないと」
「だよね。毎日朝練するから」
「頼むわよ。まったく……」
椿さんとスミレのそんな会話に美桜さんが口を挟んだ。
「スミレ、そんなに苦戦してんの?」
「まあね……いつものことだけど」
「だったらさあ、いっそのことセンター変えるのも有りなんじゃない?」
「はあ?」
スミレの機嫌の悪い声が響いた。
「だって、センターは上手くないとだめでしょ」
「そうだけど、じゃあ、誰がするのよ」
「私がしてもいいかなって思ってるけど」
「美桜が?」
「そうよ」
「確かに美桜はダンスも上手いし華もあるわね」
椿さんが言う。
「でしょ? だから一回ぐらい変えてみてもいいんじゃないかなって」
「……うーん、みんながそうしたいって言うならそれでもいいけど」
スミレは自信なさげにそう言った。
「あっそう。じゃあ、椿はどう思うん?」
美桜さんが聞いていく。
「……一度ぐらいは変えてみても面白いと思う」
「うん、そうよね。じゃあ、葵は?」
「ボクはスミレのままでいいよ。ダンスは技術だけじゃ無いからね」
「まあ、葵はそう言うよね。じゃあ、友梨香は?」
「私はどちらでもいいです」
「同数だな。じゃあ、現状維持でいいんじゃないか?」
葵さんが言った。
「待ってよ。あと一人いるでしょ」
美桜さんが言う。
「あと一人? 誰よ」
「マネ君」
「はあ?」
スミレが驚いた声を出す。
「大樹は私たちのダンスはあまり見てないって言ってたし、誰がセンターがいいかなんて分かるわけないでしょ」
「じゃあ、見てもらおうよ。その上で決めてもらえばいいんやないの?」
「えー! バカマネに見られるの?」
椿さんが言った。
「もういいでしょ。いずれはみんなに見せるんやから」
「そうだけど……」
「決まりね。おーい、マネ君!」
美桜さんのその声が聞こえた時点で俺は扉を開けた。
「美桜さん、なにかあった?」
「聞こえてたんやないの?」
「……まあ」
「じゃあ、わかってるよね。私たちのダンスを見てウチとスミレのどっちがセンターにふさわしいか言ってね」
「……わかった」
「でも、バカマネだよ? 絶対、スミレって言うんじゃない?」
椿さんが言う。
「俺はそんなひいきはしない。マネージャーとしてちゃんと判断すると約束するよ」
「ふうん、ほんとに?」
「……本当だ」
「何か間があったけど、まあいいわ。早くやりましょう」
そして俺一人が観客になり、五人が前に立った。曲が流れ始め5人で踊り始める。こんな間近でベアキャットを見るのはもちろん初めてだ。そのパフォーマンスに俺は圧倒されてしまった。スミレと葵さんのダンスは朝見たけど、他のメンバーはもっとすごかった。
ダンスリーダーの椿さんは止めるところがはっきりしていて、その姿が絵になる。逆に美桜さんのダンスは流れるように綺麗だ。そして、驚いたのは友梨香さん。うちのクラスの委員長とは思えない情熱的でセクシーなダンスだった。
それに対し、葵さんは止めるところでは格好いいが、あまりダンスにキレは無い。そして、スミレは朝練の時よりもミスが多かった。だけど、誰よりも元気に踊っているのも確かだ。これは確かにセンターにふさわしいとも言える。だけど……
曲が終わると、椿さんが俺に聞いた。
「……バカマネ。どうだった?」
「みんな、ほんとすごいよ! ベアキャット舐めてた。本当にみんなすごい!」
「そんなの、当たり前でしょ。そういうことじゃなくて、スミレと美桜、どっちがセンターにふさわしいかよ」
「そ、そうだな」
「まあ、バカマネがどっちを選ぶかは聞くまでも無いと思うけど、スミレと美桜、どっちなの?」
「俺は……美桜さんだな」
「えっ!?」
スミレの声が響く。
「……へぇー、バカマネが美桜を選ぶなんて意外ね。理由は?」
「正直言って、どっちもいいと俺は思った。美桜さんは流れるように綺麗で、スミレはすごく元気がもらえるダンスだ。どっちも魅力的ならミスが少ない方がいいのかな、と思って」
「ふうん、バカマネにしてはちゃんと考えてるようね」
「言っただろ。ちゃんと判断するって」
「ほんとだったわね」
「じゃあ、そういうことで。次のイベントでは私がセンターってことでいいかな?」
勝ち誇ったように美桜が言う。
「……みんながそれでいいならいいわよ」
スミレは下を向いていった。スミレ、ごめん……
「仕方ないね」
「私はどちらでも」
葵さんと友梨香さんが言う。
「じゃあ、ポジション入れ替えてやってみようか。バカマネは出て行ってね」
椿さんが俺に言う。
「え、まだダメなの?」
「当たり前でしょ。私たちのレッスンは見世物じゃ無いんだから」
「わ、わかった」
俺は仕方なく部室を出た。
◇◇◇
やがて練習が終わり、俺は再び部室に入った。やはり美桜さんは上機嫌だ。そして、スミレは少し凹んでいるように見える。葵さんは心配そうに見守っていた。
「マネ君、今日も衣装代の打ち合わせしようか」
ニコニコ顔で美桜さんが言ってくる。もう打ち合わせなんてする必要ないはずだけど、まあ、今日の話だろうな。
「わかった」
「スミレ、ちょっとマネ君借りるね」
「なんで私に言うのよ」
「だって、マネ君はスミレのこと好きなんでしょ?」
「そうだけど」
「誤解を招かないようにしようと思って」
「誤解しないわよ」
「そう? マネ君がウチの魅力にメロメロになってセンターがウチがいいって言ったとか思われちゃ困るし。実力だからね」
「う……わかってるわよ。もう……帰る」
スミレは俺の方を見ようともせず部室を出て行った。葵さんも慌てて追いかけていく。友梨香さんと椿さんは何も言わず部室を出て行った。




