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11 センター

 自信を無くしている美桜さんを励ましたい。そういう思いがどうしても湧いてきてしまう。どうしたらいいんだろう。だが、俺がここで美桜さんと付き合っても、解決はしないだろう。俺が本当はスミレが好きだとバレてしまっているし。


「はぁ……せめてセンターにでもなれればなあ」


 そう言いながら美桜さんはコーヒーのスプーンをかき混ぜていた。そうだ、それか!


「なれるんじゃないか?」


「え?」


「一度くらいセンター交替してみたら?」


「でも、ベアキャットが三人組だった頃からずっとスミレがセンターやし。私をセンターにして欲しいとか言ったこと無いよ」


「だからこそだよ。新しいベアキャットを見せてもいいと思う。次のイベント、美桜さんがセンターやりなよ」


「えー!? 無理だよ。わたしなんて……」


「そんなことないよ。だって、ダンスは美桜さんが上手いんだろ?」


「それはそうやけど……」


「それに華がある」


「そうかなあ」


「そうだよ。美桜さん、今度はセンターにしてくれって言ってみたら?」


「……言うのはいいけどさあ。マネ君も味方してくれる?」


「もちろん!」


「……スミレじゃ無くて私がセンターって言わなくちゃいけないんだよ」


「わかってるよ」


「……スミレより私って言えるの?」


「言えるよ」


「そっか……ほんと、マネ君はやさしいな。うん、わかった。じゃあ、今度の練習の時に言ってみる。反対されたらマネ君呼ぶからね」


「うん、呼んでくれ。俺は美桜さんの味方するから」


「ありがと……じゃあ、もう一つお願い聞いてくれる?」


 そう言いながら美桜さんは俺を意地悪そうな目で見た。


「……何?」



◇◇◇



「あれが俺の家だよ」


 俺は隣に居る美桜さんに言う。


「ほうほう。で、スミレの家は近いの?」


「少し歩くけどな」


 そう、美桜さんのお願いは俺の家まで行きたいという事だった。せっかく今日デートしたのに、スミレにその姿を見られていないのはもったいないと言うのだ。だから、その姿を見せつけようと、俺の家まで行くと言い出した。スミレの家の近くに行けば偶然目に入ってしまうかも知れない、と言う。


 だが、当然ながら俺の家のそばを歩いてもスミレと会うことも無く、そのまま俺の家の前まで来てしまった。


「スミレには会えなかったけど……これで満足?」


「うーん、せっかくやからマネ君の家に行きたい!」


「はあ?」


「マネ君のご家族に挨拶したら、スミレにも伝わるでしょ?」


「……今の時間は親はいないよ」


「そうなんだ。じゃあ、家に行ったら二人っきり?」


「いや、妹がいる」


「へー、妹ちゃんか。会ってみたいなあ」


 そう言えば、瑠璃は美桜さんに会いたいとか言ってたな。ちょうどいいか。瑠璃のためだ。


「じゃあ、会っていくか?」


「うん!」


 俺は美桜さんを家に入れることにした。


◇◇◇


「ただいま」

「お邪魔しまーす」


 俺と美桜さんが家に入るとすぐに瑠璃が出てきた。


「お兄ちゃん、誰か連れてきたの? ……え!? ベアキャットの美桜ちゃん!?」


「そうだよ。美桜ちゃんでーす!」


 美桜がアイドルスマイルで言う。


「うわあ! お兄ちゃん、ありがとう! ちゃんと美桜ちゃん連れてきてくれて!」


「……どういうこと?」


 美桜さんが俺に聞く。


「いや、実は妹が美桜さんのファンでさ。俺がマネージャーになったと知ったら連れてこいって、うるさくて……」


「あー、そうなんだ。ありがとねー」


「美桜ちゃん! 入って入って!」


 瑠璃に手を引っ張られ、美桜さんはリビングに座った。瑠璃が自分のファンと知って美桜さんも嬉しそうだ。俺も仕方なくそばに座る。


「嬉しいなあ。お兄ちゃんに来てくれって言われてきてくれたんですか?」


「違うよ。私が家に来たいって言ったの」


「へー、そうなんですか。でも、なんでですか?」


「だって、今日デートしたから」


「デ、デート!? お兄ちゃんと美桜ちゃんが?」


「そうだよ。私、お兄さんに告白したんだよ」


「えっ!? お兄ちゃん、美桜ちゃんと付き合ってるの?」


 瑠璃が目を見開いて俺に聞いてきた。


「違うよ」


「そう、振られちゃったの。シクシク」


 そう言って美桜さんは泣きマネをした。


「あー……お兄ちゃん、スミレさん一筋ですもんね」


「そうなのよ。でもね、優しいからウチとデートしてくれたの」


「へー、そうなんですか。でも、美桜ちゃんがお兄ちゃんを好きになるなんて信じられないなあ。だって、冴えないでしょ?」


「そう? でも、優しいよ。今日も優しい言葉かけてくれて、好きになっちゃいそうだったもん」


「へー……って、好きになっちゃいそう? 告白したんですよね?」


「あっ! そうだった。もう好きだったわ。えへへ」


「でも……だったら、お兄ちゃん、もう美桜ちゃんと付き合えば?」


「はあ?」


 スミレと仲がいいはずの瑠璃がそんなことを言い出したんで俺は驚いた。


「だって、スミレさんはお兄ちゃんとは付き合わないって言ってるんだし、あきらめなよ」


「そうだよ」


 美桜さんまで言う。


「美桜ちゃんがお兄ちゃんの彼氏だと嬉しいなあ」


「そう? スミレより私が彼氏の方が瑠璃ちゃんは嬉しいの?」


「はい! 美桜ちゃん、可愛いし、大好きです!」


「あらー、いい子ねえ。よしよし」


 美桜さんは瑠璃を自分の胸に抱きかかえる。瑠璃の顔が美桜の胸に埋まった。ちょっとうらやましい。


「あ、ありがとうございます……」


 まあ、ああいうこと言われると美桜さんは嬉しいだろうけどな。


「ということで、マネ君。ウチと付き合おうか」


「なんでだよ、まったく……」


「えー! お兄ちゃん、美桜ちゃんが絶対いいって!」


「うるさい、まったく……」


 なんか面倒なことになったので、早々に美桜さんには帰ってもらうことにした。



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