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1 ベアキャット

 高校一年の2月。学年末テストも終わり、冬も終わろうとしている。あとは二年生になるのを待つだけだ。本来なら平和に暮らせる時期のはずだが、俺は何もやる気が出ず、いつものように机に突っ伏していた。そんなとき、俺の周りにいる男子たちのざわめきが聞こえてきた。


「放課後、中庭行くか?」


「中庭? なんかあったっけ?」


「アホか、今日ベアキャットのライブだぞ」


「あれって卒業生を送るライブじゃなかったか?」


「そうだけど誰でも見に来ていいらしい」


「だったら行こうぜ!」


 そうか。今日は「ベアキャット」のライブだった。校内で話題のダンスグループだ。アニソンやアイドル曲を流し、それに合わせて踊る五人組。全員が俺と同じ高校一年生の女子だ。最近は校外のイベントにも参加しているらしく、学校を超えた人気者になっていた。


 なんで「ベアキャット」って名前なのかは俺も知らない。ここは熊本の高校だからベア()なんだろうけど、キャットはどこから来たんだよ。


 そんなことを考えていると、続けて周りの男子達の会話が耳に入ってくる。


「お前、誰推しだよ」


「やっぱりスミレだよな」


「センターかよ。まあ、定番だな」


 やっぱり、スミレは人気者だな。俺はつい顔を上げ、教室の後ろにいる幼馴染みを見てしまった。

 高梨スミレ。俺の幼馴染み。そして、フラれた相手だ。


 スミレがベアキャットを始める前、夏休み直前に俺はスミレに告白し、振られてしまった。それまでは普通によく話す幼馴染みの関係だったのに、俺はスミレを避けるにようになってしまい、すっかり疎遠な関係だ。


 にも関わらず、スミレはライブの前には必ず俺に告知を送ってきていた。もちろん、俺は見に行くことはない。あいつが嫌いだからではない。今でも好きだから、見に行かないのだ。もはやスミレは全校的な人気者。どう考えても俺の手の届く存在じゃない。そんなスミレを見るのはつらかった。


 ――今日は放課後、すぐに帰ろう。


◇◇◇


 そう思っていたのに、俺は放課後、職員室に呼び出されてしまった。


坂崎さかざき君、なんで呼び出されたか分かってるわよね?」


 俺のクラスの担任・宮崎先生は美人だけど怒ると怖い先生だ。


「いえ、なんでしょう……」


「学年末テストの結果に決まってるでしょ。どうしたのよ、この成績」


 そう言われて俺は何も言えなかった。なにしろ過去最悪の成績だ。


「入学時には成績良かったでしょ。それなのに、1年経ったらこの結果ってどういうこと?」


「すみません……」


「あなたはちゃんとやる気出して勉強すればいい成績を収められるはずよ」


 俺は二学期以降、成績が急降下していた。スミレに振られたこともあり、何をするにも気力を失っていたのだ。昔はスミレにかっこつけるためにいろいろ頑張ってたんだなってことを思い知らされていた。


「進学希望なんでしょ? このままじゃ危ないわよ。気持ちを入れ替えて頑張りなさい」


「……わかりました」


 言われても仕方ないけど、うんざりとした気分になりながら職員室を出る。教室へ続く渡り廊下を歩くと、大きな音楽が聞こえてきた。そうだった。中庭でベアキャットのライブが始まったのだ。


 中庭にあるステージの方を思わず見てしまう。そこには幼馴染みの姿があった。高梨スミレだ。ショートボブの黒髪は小学生の頃から変わらない。だが、背は伸び、スタイルも女性らしくなった。そして、誰よりもエネルギッシュに踊る。5人組のベアキャットのセンターであり、リーダーにして創設者でもある。


 高梨スミレがなぜベアキャットを始めたのか。疎遠になった後の話だからそれは知らない。いつの間にかメンバーを集め、グループを作っていた。それまではあいつがダンスを踊っているところなんて遊びでしか見たことなかったのに。一緒に見ていたラブライブのダンスを踊って見せてくれてたっけ。


 それにしても全員が魅力的なダンスで目を惹きつけられる。人気が出るのも分かるな。俺も思わず足を止めて見入ってしまったが、すぐに歩き出した。スミレを見ると、嬉しくもあるが寂しくもある。


 スミレは自分の道を見つけたんだな。そろそろ俺もスミレを忘れて頑張ることを見つける時期なのかもしれない。でも、その前に勉強しないと本気でまずい。


「帰って勉強でもするか……」


 中庭で鳴り響く音楽を背に、俺は一人で校舎を出た。


◇◇◇


「ただいま」


「あれ? お兄ちゃん、早かったね」


 家に帰ると妹の瑠璃るりが居た。中二の瑠璃は背も小さく、髪はツインテールですごく子供っぽい。


「そうか? いつもより遅かっただろ」


 職員室に呼び出されていたんだから遅かったはずだ。


「だって、今日ベアキャットのライブだったんでしょ?」


「……なんで中学生のお前が知ってるんだよ」


「スミレさんに聞いたから」


 幼馴染みのスミレは妹の瑠璃とも仲はいい。だけど、そんな話までしているとは思わなかった。


「ライブ、早めに終わったの?」


「いや……見てないし」


「はあ? なんでよ」


 瑠璃が途端に機嫌が悪くなったようで俺をにらみつけてきた。


「いや、俺が見る必要ないだろ」


「だって、スミレさん、お兄ちゃんが見てくれるの楽しみにしてたよ」


「そんなわけあるかよ」


「ほんとだって」


「お前にはそう言ったんだろうけどな。社交辞令ってやつだよ。真に受けるな」


「違うのに……だって……お兄ちゃん、ほんとにもう……」


 瑠璃は何かブツブツ言いながら自分の部屋に入った。

 なんなんだ、あいつ……


 ちなみにうちの親は夜8時ぐらいにしか帰ってこない。脱サラして夫婦で始めたパン屋をすぐ近くでやっているから朝から夜まで店のほうにいることが多かった。


 俺は自分の部屋に入り、宿題を始める。そして、しばらくしたときだった。


「お兄ちゃん!」


 瑠璃が大声で俺を呼んでいる。仕方なく、扉を開けて言った。


「なんだよ」


「スミレさん、来てるよ」


「はあ?」


 高梨スミレが? 疎遠になってからはスミレがうちに来たことなんてなかった。今日ライブやってたのに終わってから来たのかよ。何の用なんだ……


 俺は慌てて玄関に出向いた。すると、そこに居たのは制服姿の女子2人。スミレの他にもう一人、背が高い女子がいた。


「……な、長峰葵ながみねあおい!?」


「やあ、坂崎君。ボクのことを知っていてくれて嬉しいよ」


 ベアキャットのメンバーの一人。背が高いスミレよりもさらに長身でショートカットの王子様系。制服もスカートではなくスラックスを履いていて女子に大人気の長峰葵がいた。同じクラスだけど話したことはないはず。でも、ベアキャットが出来る前からの有名人なので俺も当然知っている。


大樹だいき、ごめん。ライブのあとに話そうと思ってたら、いないみたいだったから」


 スミレが俺にそう言った。


「ライブのあと? 話?」


 疎遠になっていた俺に何の話だろうか。


「大樹、とりあえず部屋に上げてもらえないかな。相談があるから」


「い、いいけど……」


 こうして、俺の部屋に幼馴染みの高梨スミレと王子様系女子・長峰葵が来ることになった。


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