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Remainer  作者: んご
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第7話 永遠に 彼には響かぬ 鎮魂歌

湿った闇と硫黄の匂いが満ちる、魔王城の最深部。

黒曜石の玉座で頬杖をつく魔王の前に、一人の部下が跪いていた。


「……勇者転生の、危機でございます」


報告した瞬間、玉座の空気が凍りつく。

魔王の目が細く光った。


「勇者?俺に勝てる存在が、この世界にいると?」


「い、いえ! とんでもないことでございます! 

 わ、我らの魔王様に敵う者など…」


部下は青ざめ、ガタガタ震えた。

だが魔王は、その反応を楽しむようにくつくつと笑う。


「怯えるな。そんな存在がいるなら、興味があるだけだ」


そう言いながらも、魔王の眼差しは静かに鋭い。


「……その男を連れてこい。

 つまり“殺してこい”ということだ、『派手に』暴れてこい」


「は、ははっ! 仰せのままに!」


部下は恐怖のままに立ち上がり、すぐに任務へ向かった。


しかし魔王は、玉座の上でそっと視線を伏せる。


「手伝ってやる義理はないが、

 女神どもにとっても好都合だろう」


(……あとは『奴ら』がどう動くか…)


口元だけが、愉快そうに歪んだ。



一方その頃、神界では――。


アリアの前に呼び出されたのは、真面目で頭の切れる妖精メリュシア。銀縁の眼鏡をかけた、いかにも“優秀そうな妖精”だ。


「メリュシア、あなたには

 エターナルハートブレイクレクイエムの実行を命じます」


「アリア様……なんという、なんという洗練された作戦命っ!

 かつ、これほど効率的に自己価値を削ぎ落とす作戦、

 流石でございます!」


「ま、まあ、それほどでも?」


 アリアはどこか満足気であった。


「じゃあ頼んだわよ、メリュシア。

 倫太郎の“心”を完璧に折ってくるのです」


「はっ!」



現世・病院。


その朝、病棟に妙なざわつきが走った。


「今日の臨時師長?」

「え、聞いてないけど?」

「本部からの監査対策らしいよ」

「ああ……そういうのあるよ ね……?」


誰も知らないのは当然。

今日突然現れた“臨時師長”は、妖精メリュシアが変身した姿だった。本来の師長は休みである。


「皆さん、ご苦労さまです。では業務を始めましょうか」


完璧な所作で挨拶しながらメリュシアは一度病棟から離れる

廊下を歩くメリュシアの前に小さな光が弾ける


「メリュシア、お前こんな所で何やってんだよ!?」


「あなたの尻拭いよ、エンフィー」


エンフィーは苦い顔をする


「てことは、アリア様の命令?」


「ええ、作戦名は

 エターナルハートブレイクレクイエム!」


「作戦命ダサっ!

 シャイニングオーバードライブみたいなダサさだぞ!」


メリュシアは動じない


「とにかく、アリア様の命令であることには変わらないわ。

 あなたは邪魔せず見てなさい」


「う…」


悔しさを噛み締めながらエンフィーは姿を消す


メリュシアは倫太郎にターゲットを絞る


「あなたの看護記録……ここ、全然ダメですね?」


「あ、はい……すみません」


「ここのチェックも甘い。

 段取りも遅い。

 集中力も欠如している。

 以上、改善を」


「……はは、気をつけます」


淡々とダメ出しを連発するメリュシア。

だが倫太郎は平気そうに受け止めていた。

彼女は知らない、彼がこういう人間であることを。


(……あれ? もっと落ち込むはずなのに)


メリュシアは焦り始める。

同僚が倫太郎をフォローする姿まで見え、さらに焦る。


「間くん、さっきのは状況的に仕方ないって」

「大丈夫、大丈夫。あの人、ここのやり方知らないだけだって」


小さな祝福(リトルブレス)の効果か、はたまた、倫太郎の人柄がそうさせていたのか。


その後もメリュシアは執拗に倫太郎にダメ出しを続けるが、

いっこうに倫太郎に変化はない。

彼の業務一通りにダメ出しを行い、ついにはネタも尽きた。


(まずい……作戦は完全に失敗です……!)


メリュシアは仕方なく神界へ帰還した。


その様子を遠くから見ていた小さな影。


(ざまぁみろぉ〜)



そして――異世界。


女神の神殿、その奥で、結界の光が一瞬だけ揺らいだ。

誰も気づくはずのないほど微かに。


静かな廊下に、ほとんど気配を感じさせない影が滑り込む。


魔王軍の手先。

その手には暗黒魔法で封印を破るための呪符が握られている。


(この奥に転送装置……間違いない……!)


 魔物は素早く魔法陣を解析し、解錠を始めた。


 ピキ……ピピッ……


女神の結界がひび割れ、光の粒子がこぼれ落ちる。


「ふはは、あとは、現世へ行くだけだ」


転送装置の中心が、どろりと黒い光に染まっていく。


第7話を読んでいただきありがとうございます。

この先の展開も楽しんでいただけると嬉しいです。

第8話は12/10の13時に公開予定です。

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