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Remainer  作者: んご
6/12

第6話 祝福(バフ)だと思った? 残念、女神的にはデバフでした

通勤途中の朝、いつもの道を並んで歩く俺とエンフィー。

まだ眠気の残る空気の中、横で羽ばたく妖精はやけに元気だった。


「ねえ、倫太郎、今日はどうやって死にたい?」


「やめろって! 今死んだらシフトに穴あくだろ!」


「拒否するとこ、そこなんだ。」


エンフィーは呆れたようにため息をつくが、口元は楽しそうだった。


「じゃあ久々にアレやっちゃおっか!」


その瞬間、遠くから――聞き覚えのある重低音。


ゴオオオオオ――


俺の背筋が凍る。


「まさか…」


そう、トラックである。


「やっぱりかよ! どんだけ好きなんだよ!?

 最近はあんまり使われない手法だぞ!?


エンフィーが高く飛び上がった瞬間、彼女の頭の中に声が響いた。


(エンフィー、作戦は一時中止。今すぐ帰還しなさい)


「ア、アリア様!? 作戦中止って!?」


(いいから、とりあえずストップ!)


「わ、分かりました!」


次の瞬間、猛スピードで突っ込んできたトラックが

ギギギィィッ!! と信じられない急ブレーキをかけ、俺の目の前で止まった。


「あぶっ……!」


その勢いで俺は尻もちをつく。


運転手が飛び降りてくる。


「悪りぃ兄ちゃん!

 急にコイツが言うこと聞かなくなってよ! ケガは!?」


「は、はい……大丈夫です」


何度も頭を下げながら運転手は走り去っていった。


俺はその場でしばらく放心し――

はっとして振り返る。


「エンフィー! お前な、他人は巻き込むなってあれほど……

 って、あれ? エンフィー?」


そこに、彼女の姿はなかった。



異世界 ――光の泉


まばゆい空間。その中心で、アリアとエンフィー。


「本当なんですか?

 倫太郎の『適正値』が下がってきてるって!」


アリアは静かに頷き、続けた。


「ええ。本来なら彼の適正値は今も高いままのはず。

 でも、あなたの小さな祝福(リトルブレス)が影響し始めているの」


エンフィーが息をのむ。


アリアは淡々と告げる。


小さな祝福(リトルブレス)は近しいものにささやかな祝福を与える力。

 あなた達妖精に備わったスキル。

 それが彼の心に変化を与えはじめているわ」


「そ、そんな……!」


「彼がこのまま自分の『価値』をみつけ、

 それが成長していけばヴェルグレイスでの

 勇者としての力は失われていく。

 魔王に対抗する唯一の手段が、

 消えつつあると言ってもいいわ」


アリアゆっくりとエンフィーを見つめる


「でもまだ適正値は高い。

 問題は…あなたよ、エンフィー」


アリアは静かに目を細めた。


「仲良くなりすぎないこと。

 感情は魔力に影響する。あなたが傾けば、

 小さな祝福(リトルブレス)はさらに強くなる。」


エンフィーは返す言葉を失う。


「……戻りなさい。まだ、あなたの役目はあるわ。」


「はい…」


転送装置へ向かうエンフィーの姿にいつもの元気はなかった。


残されたアリアは小さく呟く。


「……それでも足りない。

 彼を導くには、もうひとつ“手”が必要になるでしょうね」

 


仕事を終えた倫太郎は夕食の準備をしていた。

そこにエンフィーが帰ってきた。


「お前……どこ行ってたんだよ。心配しただろ」


エンフィーは一瞬だけうつむき、すぐ顔を背けてそっぽを向く。


「べ、別に…」


明らかに様子がおかしい。


倫太郎は苦笑しながら言う。


「……お前も色々大変なんだな。話なら聞くぞ?」


エンフィーの羽が一瞬震えた。


「なっ……なんであたしがあんたなんかに

 相談しなきゃいけないのよ!」


倫太郎は首を傾げながらも、なんとなく深刻なことがあったなだろうと察した。



静寂の光の泉。


アリアは、つい先ほどまでエンフィーがいた場所をじっと見つめていた。


「……あなたなら、まだやれる。

 エンフィー、信じてるからね」


小さく微笑んだものの、その瞳はどこか曇っている。


「『上位存在』…彼らが何も反応を見せない…

 だとすればこれは、まだ許容範囲ということなの?」


アリアの周囲の水面が、不穏に揺れた。


「それでも次の手を打たなければ…

 ヴェルグレイスの未来のために」


アリアはそっと手を掲げる。


「作戦はまだある…彼には酷かも知れないけど…」


光の泉が淡く輝き、彼女の影を長く伸ばした。


それはまるで、ここから物語がさらに加速していくことを

静かに――そして確実に予告しているかのようだった。



第6話を読んでいただきありがとうございます。

この先の展開も楽しんでいただけると嬉しいです。

第7話は12/7の13時に公開予定です。

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