第5話 主人公補正?そんなものはないが日々の積み重ねが誰かを救うことはある。
休日の昼下がり。冬の気配が混じりはじめた公園を、倫太郎とエンフィーは並んで歩いていた。
「……人、多いな、ちゃんと目立たないようにしろよ?」
「あ、あそこの屋台、焼きトウモロコシ美味しそうじゃん」
爛々と目を輝かせる妖精に呆れる青年
エンフィーは遠くにある焼きトウモロコシを食べたそうに見つめており倫太郎の忠告は届いていなかった。
焼きトウモロコシを2本買い、しばらく歩く。
すると公園の奥から妙に熱のこもった声が聞こえてきた。
「くらえっ! シャイニングオーバードライブ!!」
「ぐわぁーっ!!」
見れば、子供たちが砂場で何やら全力の戦いごっこを展開していた。
「……気合い入り過ぎじゃない?」
「あれはマジのやつだな」
悪役の子が地面に転がりながら叫ぶ。
「なぜだ……なぜお前は倒れないんだ?
何がお前を突き動かすんだ!?」
「それは“正義の心”さ!」
勇者役の子は胸を張った。
「ついさっきまで死闘を繰り広げたお前ならわかるはずだ!
立て!お前にも正義の心があるはずだ!」
「……ふ、俺の負けだ。
お前とは別の形で会いたかったぜ……」
そして悪役の子は、
「ドーン!!」
と叫びながら、自ら砂を巻き上げて爆発したフリをした。
「ばかやろーー!!」
勇者役の子は膝をつき叫ぶ。
完全にクライマックスだ。
倫太郎は思わず笑ってしまう。
「いや……気合い入ってんなー、ほんと」
「やっぱ子供には流行ってるみたいね、あのアニメ」
そしてふと倫太郎を見上げる。
「てかさ、あんたは?
あんな感じに夢中になれるものとか……
好きなこととか、ないの?」
唐突な質問に、倫太郎は返答に詰まった。
「……好きなこと、ね」
「あるでしょ? 人間ってわりとそういうの大事だよ?」
「どうだろう……子供の頃はゲーム好きだったけど、
忙しくなって気付いたらやらなくなったし」
エンフィーは顎に指を当て、じっと倫太郎を見つめる。
「そっか。じゃあさ――子供の頃の夢は?」
倫太郎は、公園のベンチに目を向ける。
静かに腰を下ろし、少しだけ過去を思い返した。
「前も話たけど、劣等感の塊みたいな奴だったから、
まず最初に考えるのは、自分には無理だ、
出来るはずない、だったからな」
「でも、そんな自分を変えようと思って
看護師になったんでしょ?」
倫太郎は苦笑いを浮かべる
「ほんとに安易な思いつきだよ。
それに、医者とか弁護士とか言われたら難しいけど、
看護師なら勉強さえしてれば現実的な範囲だし。
安定もしてるし」
エンフィーは少しだけ切ない顔をしたが、
それを隠すように羽をパタパタと震わせて飛び上がる。
「ま、いいや。そろそろ帰る?」
「うん、そうだな」
◇
夜勤、深夜1時過ぎ、緊急コールが鳴り響いた。
倫太郎はコールのあった病室へ走る
「間さん、伊藤さんの様子が変なんです」
「伊藤さん、大丈夫ですか!?」
患者は苦しそうに胸を押さえるばかり。
しばらく呼びかけを続ける倫太郎だったが、患者の意識レベルは徐々に低下していく。
呼吸が止まる、それと同時に倫太郎は心臓マッサージを開始した。
その日の夜勤メンバーは、経験が浅いスタッフがほとんどだった。しかも当直医はよりによって美容整形クリニックから派遣されてきた医師で、この手の急変には不慣れときている。
「間さんっ、どうしたら……!」
「落ち着いて。まずは当直医にコール、
救急カートと除細動待ってきて!」
自然と声が出ていた。
状況把握、必要処置、担当分配――頭が妙に冴えている。
「先生を呼んできました!」
「じゃあリズムチェックします…PEA、心マ続けて!」
その様子をみて当直医はうろたえる
「先生、アドレナリンいきますね!
先生はアンヴューお願いします!」
「わ、わかりました。でも、僕こういうの経験なくて…」
「大丈夫です、僕が言ったことを先生が『指示』して下さい」
スタッフが倫太郎の声に従い、動きが揃い始める。
混乱していた空気が、少しずつまとまっていく。
2本目のアドレナリンを投与したとき、患者にわずかな反応が見られた
「心マ止めて、リズムチェック…ロスク…」
その場の全員から安堵のため息がもれる。
「先生、STが上がってます、12誘導取っときましょうか。
オンコールの循環器の先生にも連絡お願いします」
その後、緊急のカテーテル治療が必要となり患者はストレッチャーで運ばれて行った。
「間さん……すごいです……怖かったぁ…!」
「本当ですよ、いやぁ、頼りになるぅ」
「いや、皆が冷静に動いてくれたから…」
そう言いながらも、胸の奥に小さな火が灯るような感覚があった。
(……俺、役に立てたんだよな?)
ほんの少し、心が温まる。
休憩室、倫太郎はどっと座り込む、その手にはまだ震えが残っていた。
その瞬間――
エンフィーが物陰からひょこっと顔を出した。
「り、倫太郎ぉぉ……すごいじゃん……!
死者蘇生なんて、あっちでも失われた禁呪クラスだよぉ
ぉ……!」
感動のあまり、なぜかギャグ漫画みたいに涙を噴水のように噴き出しながら震えていた。
「いや泣き方おかしいだろ……!」
それに死者蘇生って、まだ死んでないし。
まあ、『半分死んだ状態』…かな、言い方は良くないけど」
気付けば手の震えは止まっていた。
胸の奥がふわりと熱くなる。
呼吸が少し楽になるような、柔らかい光が身体の内側で揺れた。
号泣中のエンフィーの羽の輝きは、以前よりも確かに強くなっている。
◇
場面は異世界へ移る。
アリアは光の泉を覗き込み、倫太郎の心の変化をじっと見つめていた。
「………」
女神の表情には、喜びではなく深い憂いが浮かんでいた。
「小さな祝福…」
言葉を切り、女神は静かに目を閉じた。
「倫太郎……あなたの心が満ちるのは本来なら
とても素晴らしいこと。
でも……その先にあるものは……」
泉の光が揺れる。
まるで何かを警告するように──。
第5話を読んでいただきありがとうございます。
この先の展開も楽しんでいただけると嬉しいです。
第6話は12/4の13時に公開予定です。




