06・何でも願いが叶っちゃう
赤い精霊さんにお願いして、魔力を渡す代わりに夜間は焚火を灯してもらってる。遠くから獣の鳴き声が聞こえるし夜になると森の方から光る目がこっちを見てることがあるし、怖いから必死でお願いしたのだ。
良かったことに、白いのよりは幾分か理性的な赤い子二人が鷹揚に頷いてくれたから私は安眠を手に入れることができた。どうやら白い子は風が、赤い子は火が専門分野らしい。じゃあ他の水とかにも精霊さんがいるんだろうかと思って訊いてみたら、今目の前の川や森にいるとのこと。私が見えてないだけなんだとか。
「月夜の晩の丑三つ時にヤモリと薔薇とろうそくを」
焼いて潰して粉にして、スプーン一杯舐めるのさっ。
一人でカラオケ大会も四日目を迎えた今日。早く温かい布団で寝たいのと歌いまくったせいでレパートリが古いのしか残ってないせいで、変なノリになってる自覚がある。
「ホロレチュチュパレロっ」
何でも叶っちゃうというなら、今すぐ家に帰りたい。だいたい何だ、誰が私を召喚したんだか知らないけど、説明役も付けずに一人で放りだすなんてどうしろって言うんだ。
「お腹減った……何でも良いから食べたい……」
何でもと言っても食べられるもの限定で。流石に木の皮とかは無理。川をじっと見つめれば、透き通った水中には優雅に泳ぐ魚影。釣り道具なんてないし、魚のつかみ取りが出来る自信もない。川遊びするより先に進んだ方が街に早く着くと思うと……川を見つめるしかないじゃないか。
私もきっと疲れてたんだろうな、頭が。何を思ったのか、私は川に向かって傘の先を向けて言っていた。
「ホロレチュチュパレロ」
水面がざわりと揺れ、川はペッペッと何かを吐き出した。魚だ! 三匹の魚がビッチビッチと跳ね、砂利の上で暴れまわる。
「……」
魚を見て、川に視線を戻した。川に水色の精霊さんが浮かんでいる。さっきまではいなかった――見えてないだけとはこういうことか。
「有難う」
どう言えば良いのやらさっぱり分らなかったからとりあえずお礼を言っておいた。
『お礼なんて良いわよー』
『困った時はお互い様なのよー』
お姉さんタイプか。私はその場で荷物を置き、川に近付いてお姉さん方に人差し指を差し出した。何回か赤いのと白いのに上げたから、魔力を出すコツが掴めてきたのだ。
「お礼の気持ちやから受け取ってくれへん?」
『まあ美味しそうねー』
『お言葉に甘えて頂くわー』
ちょ、赤いのと白いの! 水色を見習え! なんて丁寧なんだ。
お姉さん方は近寄ってきて私の指先から魔力を引きちぎると、ラッコのように背泳しながら食べ始めた。良く見ると両手両足に水掻きがある。なるほど、水らしい。
『魚が欲しかったら私たちに言えば良いわー』
『水分もちゃんと摂るのよー』
私の魔力をビーチボールのように投げてバレーを始めた。食べ物じゃないんかい。
『火いる?』
「うんいる」
赤いのが靴下を引っ張って訊いてきたから頷く。でもその前に魚を差すための串と薪が必要だからね。森に分け入って薪になる枝を拾い、中でちょうど良さそうな太さのがあったら串にしよう。
「それにしてもまさかホロレチュチュパレロで水の精霊さんが見えるようになるとは」
赤いのと白いのの話では、あと黄色いのと茶色いのと緑のがいるとか。そのうち全員見えるようになるのかね?
河原に戻り、赤いのに言って火を点けてもらう。火が安定するまでの間に鋏を使って魚の腹を裂き内臓を取り出し川で洗った。水洗いした串で串刺し、火の傍に立てて待つ。川魚だから生で食べるのは怖いもんね。
魚は美味しかった。久しぶりに温かいご飯を食べて、涙が出そうだった。てか出た。
古いネタです、知らない方はごめんなさい。二十年ほど前のアニメで、文中の呪文で検索したら原作がヒットしますので知りたい方はどうぞ。
2525動画に曲がありますから、聴いてみるのも良いかと。僕が大好きな曲です。