05・同じまんじゅうでも中身が違う
何故か全く空腹感を覚えないから、飴を一個口に放り込んで下流を目指す。そろそろお弁当を食べないとそのうち腐る気がするから食べなくちゃ。お昼にでも食べれば良いかな。
「On a wagon bound for market」
子牛が市場に売られていく歌を傘を振りながら歌う。精霊さんも私についてキャラキャラ笑いながら跳ねてる。初めは白い子と赤い子で二十ほどいたのが、今はもうそれぞれ二人ずつしかいない。
ノリノリで歌う類の歌じゃないことは分ってるけど、好きな曲だからテンションが上がるね。もしも翼があったならば、楽しい牧場に帰れるものを……って、私、家に帰れるんだろうか。駄目だテンション落ちる。それなら。
「好き好き好き好き好きっ好きっ」
お顔は残念で三級品な小僧さんの歌に切り替える。可愛らしい歌を口ずさみながらがにまたでオラオラと進んでいると、なんだか今朝も聴いた気がする音が聞こえてきた。そう、まるで――滝があるかのような。
「……神よ、神よ、何故お見捨てになられたのですかっ!」
予想は悲しいことに当たった。直角に落ちていく水の塊に泣きそうになる。段差が少なくとも二十メートルはあるから降りるの怖い……。私は手を突いて神を呪った。私は神道だけど。
「どうやって降りりゃエエんや……遠回りか? 遠回りせえってんか?」
飴とクッキーがあるから数日は非常食には困らないだろう。だろうけど、こんな森の中を一人寂しく歩き続けるのは辛い。それに何日で人里につくのかも分からないというのに遠回りしている余裕なんてない。でも、仕方ない遠回りするか、と決めて立ち上がる。
『下に降りたいの?』
「うん、降りれんなら降りたいの」
『降ろしてあげようか?』
『僕たち降ろしてあげられるよ』
「え、ホンマに?」
『ウン。ご飯くれるなら』
『頑張ったらお腹減るもん』
私の後ろを跳ねながらついて来てた精霊さんの中の白い子たちが、小学校低学年みたいに手を上げてそう言いだした。
「じゃあお願い――しよーかな」
『任せて!』
『行くよ、せーのっ』
「ちょ待って、心の準備が」
赤い子たちが私の背中を力いっぱい押して、私は滝壺にまっすぐ落ちた。荷物は濡らしてなるものかとカバンを放り投げようとし、気付く。私浮いてる。
「う、浮いとる……!」
『そうだよー』
『ナカコ重い』
「失礼な奴やなお前!」
ゆっくりと私は乾いた地面に下ろされた。白い子たちがゼエハアと息を切らしてるのを見て、「重い」と言ったのは軽口じゃなかったと知る。え、そんなに重かった……? 申し訳ないような悲しいような。
「ごめんな、しんどかったやろ……」
人差指で白い子たちの頭を撫でれば、酔うから止めろと叩かれた。
『それよりご飯!』
『疲れた、ご飯ちょうだい!』
「はいはいただ今」
……ただ今と言ったは良いけど、どうやって魔力を出せと言うのか? 朝に魔力が出たのは怪我を治すためだったから、何か刺激があれば良いのかもしれない。石を拾い、指の腹を突いてみた。――何も出ない。
「どうやって魔力って出すん?」
『んーってして、ぷにょって出すの』
『ふんがーっ! ってすれば出るよ』
『要は気張れば良いの』
「なるほど」
最後の説明しか役に立たなかった。白い子はどうも直観的で、赤い子は理論的なようだ。
「ふんっ」
気張ってみたら、指先から練り歯磨きみたいにうにょーんと出てきた。付け歯用接着剤に見える。白い子たちは歓声を上げて接着剤に飛びついた。赤い子も何故か飛びついて自分たちの分を確保していった。
『ナカコのご飯美味しい』
『ジュワーってしてモリモリする』
白い子の言葉はもう意味不明。理解するためには専用の翻訳機が必要だと思うんだ!
「そーか」
遠回りはしないで済んだけど紐なしバンジーで気疲れした……。早いけどもうお昼を食べよう、それが良い。
売られていく子牛の歌が大好きです。カラオケでは必ず歌うので、もはや僕の代名詞はドナ○ナ……。