04・精霊さんとご飯
寝が足りたおかげか目覚めはスッキリだったけど、三角座りだったから背筋はバキバキ鳴る。制服が汚れるけど河原でゴロゴロを転がってしばらく過ごす。体を捻った体勢のままぼんやりとしてたら、目も前を五センチくらいのものがテクテクと通り過ぎていくのが見えた。――人の形をして見えるんだけど、私の眼は遂におかしくなったんだろうか。
「遂になんか更になんか」
『遂に』おかしくなったのか、『更に』おかしくなったのか、自分ではどうとも判断しがたい。私はパームストーンという店の名前をアームストロングと読んだ経験があるから。
起き上って晩の間に燃え尽きたんだろう焚き火を見る。――人の形をした五センチ弱の発光物体が焚き火の跡に群がってるんだけど、これはどうしたもんだろうか。
「どないしたん?」
私が声をかければ、発光物体がキョトリとした目で振り返る。可愛い。妖精みたいで凄く可愛い。デフォルメしてキャラクターグッズにしたら絶対売れるね。
『もう燃やすものないの?』
『消えちゃった』
「あー、ないです。有難う」
もしかしてこれは妖精ではなく精霊とかいう存在で、昨日火種をくれたのはこの人(?)たちなのかもしれない。精霊さん(仮)は赤いのと白いのの二種類いた。赤と白でなんだかめでたい。
『おなか減ったー』
『ご飯チョーダイ』
「おなか減った言われても」
何を食べるんですかあんたら。精霊さん(仮)たちはチョーダイチョーダイと騒ぎ出し、私を囲んで飛んだり跳ねたりする。見間違いじゃなければ二メートルくらい跳ねてるんだけど、凄い脚力だって褒めるべきなのかスルーすべきなのか。見てるうちに跳ねる紅白まんじゅうに見えてきた。
「んー、じゃあ飴ちゃんいる?」
『飴いらない、ご飯ちょうだい』
「お弁当?」
『お弁当違う。ナカコ、ご飯欲しい!』
「名乗った覚えないんやけどな」
私から出るとはどういうことだろう。ついでに今、顔なしの『千欲しい、千欲しい!』を想像してた。こっちの方が可愛いけど。
私の理解が追いつかないのに痺れを切らしたのか、白い精霊さん(仮)の一人――体?――が私の指をペシンと叩いた。とたん裂ける私の柔肌。現代っ子の肌が軟弱だからなのかそれとも切るつもりで叩いたのか分からない。アウチ!
「――つっ」
ぷっくりと血が盛り上がり、滴る。ピリリとした痛みに少し涙目になって指先を見ると、血とは違う何か――透明で弾力のあるものが風船のように膨らんで出てきた。
『ご飯!』
『ご飯だ!』
「ご飯?」
二十はいるだろう精霊さん(仮)たちはその透明な何かに手を伸ばし引きちぎる。そして満足そうに頷くと、座ってそれを食べ始めた。私の指先にその透明な不思議物質は一滴も残らなかった。
「お、美味しいっすか」
『うまうま』
『うままー』
ドララー! に聞こえる。
「君たちは私の何を食べてるん……かな?」
実はこの透明な物体は私の命です、とか言われたらどうしよう。滲み出てきた分はほとんどもう精霊さん(仮)の口の中なんだけど。
『ナカコの魔力』
『ナカコの魔力ご飯なの』
切られた指先の傷はふさがって、跡なんて全く残ってない。血がこびり付いてるから『切られた』ことは確かなはずだけど自分の目を疑いそうだ。これが魔力の作用というものなんだろうか。
「はあ、私の魔力か。魔法っぽいんが使える思たら魔力か――そーか……」
もしかすると昨日の火はこの子たちが点けてくれた、のかもしれない。そのお返しに魔力をよこせということだろうか。ご飯と言われても意味が分からないからもっとちゃんと説明して欲しかった。
うまうまと私の魔力というゲルっぽいのを食べる精霊さん(仮)を見ながら、これからどうしようと悩んだ。
別題・初めてのおしゃべり編。相互理解が大変そうな相手だから、きっと途中で仲子も諦めるに違いない。