20・あまり人気な職業ではない
首都から魔王討伐隊が出ると噂を聞いた割には、なかなかその討伐隊とやらは来なかった。ここの城――っていうより砦は北の森に近接してるし、北にその厨二患者がいるっていうならここに立ち寄っていくんだろうと思ったんだけど、まさかスルーされたんだろうか?
「魔王ってどんなんやろーなぁ」
朝夕二食の生活を送るここの皆さんは、おやつの代わりなのかな、二時頃にパンとかの軽めのものを食べる。その休憩時間が長くて、短めの人でも一時間と少し、たっぷり取る人なら二時間は休むっていうんだから驚くしかない。そういえば……皆がまじめに働いたら仕事がなくなるからって理由で午後の紅茶が発達したんだったよね、イギリスって。似たようなものなのかも。
その長い休み時間を部屋で過ごすことにした私は、エメレンジャーと一緒にベッドに転がりながら休んでた。
『ナカコ、まおーに興味あるの?』
『まおーはねー、しわしわでへたへたなの』
すぐに反応したのがひーちゃんとツッ君。相変わらず意味が分らない答えをくれるのがシロちゃん。まるで無視がミズキちゃんと金ちゃん。ミズキちゃんは説明を他の三人に投げ出してる感じで、金ちゃんはお絵描きに夢中だ。てか、魔王って言えない理由は分らないけど可愛い。
「うん、良く分らへん」
しわしわは分るけどへたへたって何だろう? ヘタレって意味だろうか。ヘタレなご老人――年甲斐がない感じがする。もっとこう……年齢を重ねたことによる経験値とかを醸し出した、白頭に長い髭のお爺さんを希望したい。
『今のまおーはひーちゃんたちの加護がないから短命なの』
だからしわしわなの、と言われても。
『ひー、ナカコは詳しくない、知らない。……ナカコ、まおーは精霊の加護がないと魔力の放出ができなくて、すぐに死んでしまう』
ツッ君が珍しく長文を!――なんて言ってる場合じゃない。
「えっ? 魔王っつーんは万能で『フハハハ! 人族など滅びるが良い!』とかってイケイケドンドンしてるイメージがあんねんけど」
ついでにレシーブ・トス・アタックは関係ない。
『全然違う。それ人族の想像。まおーは魔族の王だけど、ただの魔族より制約が多い』
「へー」
人間の土地では魔法が使えません、とかそういったことなのかな。そしたら人族の国に侵攻してこない理由も分るかも。わざわざ自分の力が弱まる土地になんか用はないもんね。
『今のまおーと、前のまおーと、んっと、何人も前のまおーの代から、まおーはひーちゃんたちの加護を受けてないの。だからすぐ死んじゃうの』
なにそれ魔王って不憫。何らかの理由があって精霊の加護を受けれてないんだろうけど、そのせいで死ぬだなんて不幸な……。高笑いしながら他人の頭を踏みつけるイメージは捨てた方が良いみたいだ。
「何で魔王はひーちゃんやツッ君たちの加護を受けられてないの? そんな顔するくらいならあげれば良いのに」
悲しそうに話す二匹――ゴホン、二人にそう聞けば、ひーちゃんたちはただのヒラの精霊であって、魔王に加護を与えられるような立場じゃないらしい。唯一その権利と力がある精霊の王様は千年以上前から不在でどうしようもないんだとか。魔王可哀想すぎる。
「その哀れな魔王さんを討伐するんか……なんちゅーか、魔王さんからしたら泣き面に蜂状態やな」
周りの魔族よりも高速(人族と同じくらいの速さで老化するらしい。魔族は人族の五~六倍は生きるらしいからそりゃ速いわ)で老けるだけでも辛いのに、「クソ魔王死ねー!」と人族が襲ってくるんだから心労も絶えないだろうね。ただえさえ老けやすいのに更に老けるんだろうな。
なんか、こういう話を聞くと魔王さんに対して同情的になっちゃうね。魔王領との国境付近(だと思ってたらやっぱりそうだった)の砦はこんなに平和なのに、何で魔王さんを殺しに行く必要があるんだろ?
「可哀想になー、魔王さん。ついさん付けしてまうくらい哀れっちゅーか悲惨っちゅーか……」
枕を高くして眠れることってあるんだろうか、魔王さん。
『ナカコ……、頑張って』
考え込んでた私は、五人のつぶらな瞳が何かを期待するように私を見ていたことに気付かなかった。気付いて何ができたか、なんて後から言っても後の祭りだけど、早く気付いてたらそれだけ早く行動できてたのかもしれない。
魔王はなりたくてなる地位じゃありませんが、現在とても悲惨な地位だということは確かです。