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10・歩けども歩けども

今回はちょっとシリアスです。

 茶色いのの名前はツッ君に決まった。つっちーかツッ君かどっちが良いかと聞くとツッ君が良いと言ったから。好きな方選べるなんてずるいとシロちゃんから文句言われたけど無視。シャキーンでキラキラな名前なんて考えつかない。



「もう夕方やな」



 日はもう傾いている。あと一時間もすればこの橙色の空は暗く染まるだろう。今晩の薪を拾い集めながら空を見上げる。太陽の姿はもう地平線に近い。


 森の中は明日の命の保証がない危険地帯だ、こんな場所に留まっても獣の餌になるか餓死するかという未来しかない。だから歩いている。


 でも歩いても歩いても街に着かない。指折り数えればもう十日以上歩いている計算になるというのに……。エレメンジャーの存在が救いになってるのは確かだけど寂しい。人恋しいとも言う。



「歩こう、歩こう、私は元気」



 傘を振りまわし歌いながらも、初めの数日ほどの元気はない。だって絶対的な栄養分が足りないのだ。肌艶が失せてきたのにも気付いてる。髪だってこの十日洗えてないから脂でべっとりとしてて良いはずなのに、逆にゴワゴワしてる。手から柔らかさが失せて骨ばった。たった十日、されど十日。歌い続けてられるのはエレメンジャーがいるからで、もし一人きりだったとしたらと思うとぞっとする。


 私はどうしてこの世界に呼ばれたんだろうか? 特にこれといった能力もない、特技もない、ただちょっとひねた性格の女子高生を呼んでどうするというんだ。


 勇者として呼ばれた? なら何故迎えが来ない。


 魔王として呼ばれた? それでも何故誰も来てくれない。


 もしただ気まぐれに異世界に放り出されたというなら、私は何を恨めば良いんだ。神か、悪魔か。いもしない、存在を信じてもいないものに責任をなすりつけて気が晴れるものか。


 終わりの見えないマラソンほど辛いものはない。どこまで走れば良いのか、いつになったらこの苦しみから解放されるのか――分らないから。











「もう、嫌や……」



 私はしゃがみ込んでいた。エレメンジャーが私を囲んでどうしたの、痛いの? と背中を撫でたり足を叩いたりしてくれる。訳もない怒りがふつふつと沸き上がる。私みたいなノロマに合わせてゆっくり歩いてるんだよね。本当はもっと速く歩けるんでしょ? でもそれをしないのって私が可哀想だから? 憐れみなんていらない、放っておいて。


 だけど違う場所でこういう声も上がる。エレメンジャーは私を守ってくれてるじゃないか、仲間のように接して、私のわがままを聞いてくれるじゃないか! 憐みとは違う、ただ優しいんだ!


 本当はエレメンジャーが優しいんだって分ってる。でも誰かにこの行き場のない怒り、悲しみをぶつけたくて責任を押し付けなくちゃやってられない。じゃないと私は壊れてしまいそうだ――



「うっ、う――!!」



 両目がカッと熱くなって涙が溢れてきた。涙が出たから鼻水も出た。もう我慢がきかなくなって声を上げる。



「うっ、うああああああああ!!」



 帰りたい、家に帰りたい。温かいお味噌汁が飲みたい。お母さんの作ったご飯が食べたい。友達と馬鹿騒ぎしてテレビの話して、先生の文句言ったりしたい。



『ナカコ、どうしたの?』


『どこか痛いの?』


『痛いんだな、よし! 痛いの痛いの飛んでけーっ!』


『大丈夫……?』


『よしよし』



 ミズキちゃん以外の、私と一緒に薪拾いに来てた五人がそれぞれに声をかけてくれる。



「痛い、痛い……帰りたい、家に帰りたい!」



 気付けば、薪とコウモリ傘を抱きしめながら叫んでいた。



「白いご飯食べたい、お味噌汁も! お母さんがおらへん!」



 何でお母さんがいないの。――違う。私がお母さんのいる場所にいないんだ。会いたい、会いたい。お母さんが見つけた二ノ宮先生の遊びを二人で一緒に見て笑いたい。ここがどこなのかも分らなくて、毎晩怯えながら眠って、日中はただひたすら歩き続けるしかなくて。もう嫌だ。疲れた。家に帰りたい。私を家に返して!


 わんわん泣いて、その日はエレメンジャーに添い寝してもらって眠った。


 明日また歩けるように。

そろそろ書かなくちゃいけないなと思っていたホームシック編。書きつつ「やっぱり父親より母親だよね」と考えてました。

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