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バレルの炎を囲んで、誰もが黙っていた。
言葉もなく、ただ火を見つめ、手を見つめ、何も見ていない目で、夜が明けるのを待っていた。
アレンは少し離れた場所にいた。コンクリートの上に敷いた段ボール。その背を木材の山に預け、視線は通りの向こう――〈コート・ダジュール〉に釘付けだった。
ただ、じっと――監視するように。
夜はまだ始まったばかりだったが、店の前にはすでに人が集まり始めていた。
クラブの外にたむろする客たち。列はゆっくりと形になっていく。バウンサーがドアから出てきては、警棒を鳴らしながら通りを睨んでいる。
列に並ぶ顔ぶれはどこか馴染みがある。常連だろう。光るドレスの女たちも、笑い声を交わしながら当たり前のように並んでいた。
高級車が歩道に止まり、仕立ての良いコートを羽織った男が降りてくる。
列には並ばない。ただドアマンにうなずいて、そのまま中へ。
また一台。まったく同じ流れ。
ヒューマンも、エンジェルも、デーモンも、みな揃って一流のスーツ。カルドレダムに三、四軒しかない高級仕立て屋の品。ラペルの切れ込み、糸の流れ方――見れば分かる。誰が、どの階層か。
デーモンの一人は、法定規格を超えた長く研がれた角を誇示していた。あれは安全検査を通った証。つまり特別許可。つまり――カネ、コネ、その両方。
誰一人タクシーでは来ていない。全員が専属の車で、単独で。
つまり、相応の階層――実業家、政治家、あるいはそれらを演じるだけの財を持つ裏社会の住人。
そして、彼ら全員が〈コート・ダジュール〉を選んでいた。
理由は、酒だろう。女だろう。
――表向き、そういう場所はもう存在しないことになっていた。
モデナ道徳法が施行されてからは。
五十年前、前世代の議員――アレクサンドラ・モデナが立ち上げた運動。演説。パンフレット。密室での根回し。すべては「道徳の腐敗」とされたものへの一斉弾圧――酒場、売春宿、賭場。
彼女の死から間もなくして、その法案は可決された。
それ以来、この街は変わった。
――清くなったわけじゃない。ただ静かになっただけだ。鍵をかけた扉の向こうで、何かが絶叫しているような、そんな静けさ。
〈コート・ダジュール〉は「ダンスハウス」だった。建前上は合法。
カルドレダム中に散らばる同様の施設――音楽ホール、文化ラウンジ、会員制レストラン。
どれもが、同じ抜け道を通っている。会員限定。帳簿は清潔。法律違反の痕跡は残さない。
モデナ法は彼らを止められなかった。ただ、見つけにくくし、そして守りやすくしただけだった。
そして――もう一台、車が現れた。
他のとは違う。タクシーでもなければ、艶やかなインポートカーでもない。
灰色に光る鋼鉄の塊。まるで艦船のような長さ。囁きのように静かなエンジン音。窓は違法レベルの濃さでスモークがかかっている。防弾仕様だ。アレンは確信した。おそらく爆発にも耐える。
ただの高級車ではない。強化された高級車。
敵を作って生きていく者のために設計された、注文製の獣。
ショールームでは買えない。そういう車を手に入れるには、血筋ごと受け継がれる「繋がり」がいる。
あの車に乗る者は――大統領か、外交官か、命を狙われることで生計を立てる者か。
最初に降りたのは二人の男。運転手じゃない。警護だ。
互いを見ずに周囲だけを注視する目つき、姿勢、それだけで分かる。一人はコートの内側に手を入れ、何かを整えた。もう一人は背後の通りを確認する。
そして、同時に振り返った。
男が降りた。
――ジュゼッペ・ペルラ。




