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1-3-2

 バレルの炎を囲んで、誰もが黙っていた。


 言葉もなく、ただ火を見つめ、手を見つめ、何も見ていない目で、夜が明けるのを待っていた。


 アレンは少し離れた場所にいた。コンクリートの上に敷いた段ボール。その背を木材の山に預け、視線は通りの向こう――〈コート・ダジュール〉に釘付けだった。


 ただ、じっと――監視するように。


 夜はまだ始まったばかりだったが、店の前にはすでに人が集まり始めていた。


 クラブの外にたむろする客たち。列はゆっくりと形になっていく。バウンサーがドアから出てきては、警棒を鳴らしながら通りを睨んでいる。


 列に並ぶ顔ぶれはどこか馴染みがある。常連だろう。光るドレスの女たちも、笑い声を交わしながら当たり前のように並んでいた。


 高級車が歩道に止まり、仕立ての良いコートを羽織った男が降りてくる。


 列には並ばない。ただドアマンにうなずいて、そのまま中へ。


 また一台。まったく同じ流れ。


 ヒューマンも、エンジェルも、デーモンも、みな揃って一流のスーツ。カルドレダムに三、四軒しかない高級仕立て屋の品。ラペルの切れ込み、糸の流れ方――見れば分かる。誰が、どの階層か。


 デーモンの一人は、法定規格を超えた長く研がれた角を誇示していた。あれは安全検査を通った証。つまり特別許可。つまり――カネ、コネ、その両方。


 誰一人タクシーでは来ていない。全員が専属の車で、単独で。


 つまり、相応の階層――実業家、政治家、あるいはそれらを演じるだけの財を持つ裏社会の住人。


 そして、彼ら全員が〈コート・ダジュール〉を選んでいた。


 理由は、酒だろう。女だろう。


 ――表向き、そういう場所はもう存在しないことになっていた。


 モデナ道徳法が施行されてからは。


 五十年前、前世代の議員――アレクサンドラ・モデナが立ち上げた運動。演説。パンフレット。密室での根回し。すべては「道徳の腐敗」とされたものへの一斉弾圧――酒場、売春宿、賭場。


 彼女の死から間もなくして、その法案は可決された。


 それ以来、この街は変わった。


 ――清くなったわけじゃない。ただ静かになっただけだ。鍵をかけた扉の向こうで、何かが絶叫しているような、そんな静けさ。


 〈コート・ダジュール〉は「ダンスハウス」だった。建前上は合法。


 カルドレダム中に散らばる同様の施設――音楽ホール、文化ラウンジ、会員制レストラン。


 どれもが、同じ抜け道を通っている。会員限定。帳簿は清潔。法律違反の痕跡は残さない。


 モデナ法は彼らを止められなかった。ただ、見つけにくくし、そして守りやすくしただけだった。


 そして――もう一台、車が現れた。


 他のとは違う。タクシーでもなければ、艶やかなインポートカーでもない。


 灰色に光る鋼鉄の塊。まるで艦船のような長さ。囁きのように静かなエンジン音。窓は違法レベルの濃さでスモークがかかっている。防弾仕様だ。アレンは確信した。おそらく爆発にも耐える。


 ただの高級車ではない。強化された高級車。


 敵を作って生きていく者のために設計された、注文製の獣。


 ショールームでは買えない。そういう車を手に入れるには、血筋ごと受け継がれる「繋がり」がいる。


 あの車に乗る者は――大統領か、外交官か、命を狙われることで生計を立てる者か。


 最初に降りたのは二人の男。運転手じゃない。警護だ。


 互いを見ずに周囲だけを注視する目つき、姿勢、それだけで分かる。一人はコートの内側に手を入れ、何かを整えた。もう一人は背後の通りを確認する。


 そして、同時に振り返った。


 男が降りた。


 ――ジュゼッペ・ペルラ。



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