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──夜。
《コート・ダジュール》の向かい、路地裏にて。
——もちろん、本気で寝床を探してるわけじゃない。
今夜の彼は“外”を装っている。観察のために。
錆びたドラム缶の中で、炎が低く揺れていた。火の粉が凍える闇に跳ね、銅と煤の色でひび割れた壁と沈んだ顔を照らす。
アレンはその炎のそばに立っていた。背中を丸め、ボロボロのコートに身を包み、手袋越しでも指はこわばっていた。片方は革、もう片方は毛糸。どちらも油と時間に蝕まれていた。
火を囲むのは、アレンを含めて四人。ヒューマンが二人、デーモンが一人。誰も若くはない。コートには穴が空き、ブーツは物語を歩いてきた。
言葉は少なかった。
喋る者はいなかった。
……四人目が現れるまでは。
足を引きずりながら現れたその男の後ろから、アスファルトに爪を鳴らす音がついてきた。
みすぼらしい老犬。骨が浮き、毛はほとんど塊になっていた。男はその頭をぽんと撫でると、火の前に近づいてきた。
「よそ者だな、お前さん。」
視線を上げることなく、男が言った。
アレンは頬を掻きながら、かすれた笑いを漏らした。
「グレイウォーターに蹴られてな。城を潰された……ま、そう呼べるなら、の話だが。」
「川沿いのトンネルか?」誰かが聞いた。
「ああ。パイプの熱がいい感じだった。……パトロールが来るまではな。」
彼は手袋の中に息を吹き込む。
「ネズミみたいに散らされたよ。」
深い喉の煙で焼けたような声のデーモンが言った。
「マロウポイントに逃げた奴らもいるらしいな。スープとベッド、家族向けのシェルターって話だ。」
アレンは横目でその男を見た。
「信用できないな。行ってみろよ、ニッコリ笑って、飯を一回くれる。……そしたら貨物列車に乗せて、チェックポイントの外まで“送って”くれる。戻りのチケットはなし、ってな。」
それに対して返ってきたのは、笑いじゃなかった。
ただ、真実を噛んだときに喉の奥で鳴る、乾いた音。
犬が鼻を鳴らし、ドラム缶のそばに丸くなった。
誰かがパンの端をくれてやる。
噛まずに、ただ飲み込んだ。
しばし沈黙。
やがて最初の男がまた顔を寄せ、通りの向こうを細めて見た。
「お前さん、あそこに入りたそうな顔してるな。」
アレンはすぐには答えなかった。
視線はただ、《コート・ダジュール》の看板に向けられていた。
青いネオンが、静かに点滅している。
店の扉は暖かい光を放ち、通りには、路上の一年分の稼ぎじゃ買えないようなコートを着た男たちが降りてくる。ピカピカの車から、馴染みの顔で用心棒に笑いかけている。
アレンの顎が固くなった。
「……ああ。」
彼は低くつぶやいた。
「一度でいい。……あんなもん、味わってみたいもんだな。」




