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ゴーストは片手でジョウロを傾けた。慎重に、ゆっくりと。水は静かに花々の根元へと染み込んでいく。通りすがりの何人かが足を止め、花の並びを一瞥した。どれも地元の顔なじみばかり。
背後では、街の息遣いが低く続いていた。配達トラックのがたつく音。数ブロック先から届く路面電車のきしみ。
——そして、誰かが立ち止まった。
ただの通行人ではない。足を止めた。
その男はデーモンだった。肩幅の広い、日焼けした粘土のような赤銅色の肌。厚手のコートは使い込まれ、翼を想定した仕立てになっていた。羽は見えなかったが、あのカットは“ある者”のものだった。
コートの裾の下では、細く鋭い尻尾が気怠げに揺れていた。猫のように、落ち着きがない。
髪は粗く、黒く、ちょうど耳の上の角の根元を隠す程度に垂れている。角は太く、間隔も広い。伸ばせば牛のように巻くだろう。
帽子は被っていなかった。選択肢がないわけではない。今では様々な角に合わせた帽子が仕立てられている。長くカールしたもの、螺旋状のもの、額から生える突起、こめかみに沿った稜角、あるいはネフィリムたちが好む鹿冠のような分岐角にさえも。それに、彼のような低く広がった根付き角用の帽子も存在する。
だが、彼は被らなかった。
デーモンは花の前に立ち、コートのポケットに両手を突っ込んだまま、何も触れず、ただ——見ていた。
「俺には、全部同じに見える。」
その声は、石炭灰のように乾いていた。
ゴーストはプランターから目を離さなかった。
「ええ、そう見えるのが普通です。」
沈黙。
「で、どれが蘭なんだ、ゴーストさんよ?」
声の調子は軽く装っていたが、空気がわずかに締まる。笑みは気だるく、表情は変わらない。
ゴーストは体を起こし、ジョウロを静かに置いた。
「どうやら、俺のことを調べてきたようですね。」
声は静かだった。
「でも、俺はこういう形で依頼を受けていないんですよ。」
「ジュゼッペ・ペルラ。」
デーモンは光沢のある写真を一瞬だけ見せると、手品師のようにそれをゴーストのシャツのポケットへ滑り込ませた。
「ヤツはJ区画の《コート・ダジュール》にいる。地元じゃちょっとしたホットスポットだ。」
ゴーストは写真を確認しようともしなかった。
「仕事の話なら——」
デーモンは話を遮った。
「ヤツが誰と話すか、そして何を話しているか。調べろ。」
ゴーストは息をひとつ、静かに吐いた。
「わざわざ俺を追ってきたなら、せめて条件の一つくらい提示しては?」
デーモンのまぶたは動かない。
「これは依頼じゃない、ゴーストさん。お願いしてるんだ。丁寧にな。」
その笑みが、わずかに薄くなる。
「もし断ったら?」
「断らないさ。」
デーモンはゆっくりと、コートのポケットに手を入れた。脅しではない動き。そして、小さなフォルダーを取り出す。開きはしなかった。ただ、掌に軽く打ちつけるようにして持っていた。
そして、何気ない口調で言う。
「お前は“ゴースト”だけじゃないだろ?」
沈黙。
「——アレン・バーンハート。」




