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1-7-2

 クララの部屋を閉めても、煙の匂いは彼にまとわりついていた。

 外に出れば、空気はまた別。薄い壁越しに笑い声、鼻を刺すほど濃い香水の匂い。

 〈コート・ダジュール〉は、どこに立っているのかを忘れさせはしない。


 ケースを抱えた二人の男が、相変わらず硬い顔で待っていた。


「飲んでこい」ニコラスは手をひらひらさせた。「ボスは俺が探す」


 二人は煙の廊下に溶けるように消え、ケースを運んでいった。

 ニコラスはベストを整え、奥へと足を進める。


 ここは空気が違う――粉と安っぽい香水の匂いが、汗とジンの臭気を切り裂く。

 舞台からは笑い声が薄く壁を抜けてきた。


 二人の女が割れた鏡の前に立っていた。電球の灯りに照らされながら、一人は頬紅を塗り、もう一人は羽根飾りを直している。


 ニコラスは歩みを緩めた。

「こんばんは、お嬢さん方」


 女たちは鏡越しにちらりと彼を見て、声を認めた。


「お前の翼はいつもいい匂いがするな、ヴィータ」ニコラスは言った。


 エンジェルは振り向かず、口紅で慎重に線を引き続ける。翼は半ば広がり、淡い羽がランプの光を受けていた。

「お世辞はいいけど、ニコラス。値引きはしないわよ」


 隣のヒューマンの娘が鼻で笑い、背中の安っぽい羽根を揺らした。

「じゃあ、あたしのはどう?」羽根をばたつかせてみせる。


 ニコラスは顔の前で手を扇ぎ、体を反らせた。

「煙と年寄りのコロンの匂いしかしない」


 娘は鋭く笑い、冗談を受け止めた。

 ヴィータ――エンジェルは目を回しながらも、口の端に小さな笑みを浮かべる。


「こんなところで会うなんて珍しいわね」ヴィータは口紅を指で転がした。


「ボスを探してる」ニコラスは答えた。


 ヴィータは更衣室の方を顎で示した。

「中よ」


 ヒューマンの娘がにやりと付け加えた。

「アズーラと一緒にね」


 乾いた笑いとため息。

「なるほど。いつものことか」


 ヴィータは口紅の蓋を閉めた。

「ええ、いつものこと」


 ニコラスは女たちに帽子を軽く傾け、その場を離れた。靴音が板の上をかすかに滑り、笑い声は背後に遠ざかっていく。


 ドアに近づく前に、怒鳴り声が耳に飛び込んできた。

 ガシャン――壁に叩きつけられるガラスの音。

 そのあとで、ヴィックの声。荒れて、刺々しい声。


「この鱗野郎が!」


 ニコラスは歩みを緩め、壁に寄りかかった。

 シガレットケースを開き、マッチを擦る。

 中を覗き込む必要はなかった。声は木を突き抜け、はっきり届いていたから、ただ待てばよかった。


「今すぐジュゼッペのところに行って謝れ!」

 ヴィックが怒鳴る。喉を揺らすほどの怒気。


 返事は低く、滑らかで、意図的だった。

 声を張るでも、慌てるでもない。響きの強さで相手を斬る声。


「気が向いたら行くさ、ヴィック」


 ニコラスはその声を知っていた。〈コート・ダジュール〉の看板、店の名そのものを背負う男――アズーラ。

 滑らかで、水のように流れる声。旋律のようで、耳を奪うのは大声だからではなく、その質感だった。ガラスの上に張りつめた絹のように、静かだが下には刃のような苛立ちを潜ませている。

 高くなれば怒鳴りはしない。ただ鋭く切り裂く。歌い手が一音で部屋を貫くように。


「ふてくされてんじゃねえ、混ざりもんのクソ野郎。忘れるなよ、俺はお前を好きな夜にでも路地に叩き込める」


 奴らはいつだって何かで揉めた。しかも小火で終わることはない。

 吸い殻一つで炎に変わる――今夜はジュゼッペの件だった。

 またしても。


「勝手にしろよ」とアズーラが吐き捨てた。「覚えとけ――ジュゼッペのケツにブチ込んでるのは俺で、お前じゃねえ」


 ニコラスは煙を吐き、時計を見やった。

 ジュゼッペの名前ごときで時間を浪費する気はなかった。


「俺がまだあいつに頼ってると思うか?」ヴィックが唸る。「お前なんざ安く売り払ってやれる。今夜だってな。ちょうどクララの部屋に“別の化けもん”が入ってきたとこだ」


 ニコラスは顔を上げた。ランプの光に煙が揺れ、表情が鋭さを増す。

 階段ですれ違った男を思い出した。


「どうした?驚いたか?あいつを切ることも――お前を切ることもできるんだぜ」

 ヴィックの声は自信に満ちていた。耳障りなほどに。


 ニコラスはよく知っていた。これまでは、金の大半がジュゼッペの懐から流れていた。しかし近頃は、街のストリート・ヒモから地元の顔役へと成り上がったヴィックによって、新たな金の流れが生まれていた。


 ニコラスはすべての汚れたドルを手で扱ってきた。最初にヴィックの一味に拾われた頃とは違い、パン屑をかき集めるような生活ではなかった。


 ヴィックはまだ街の王ではない――だが、銃弾や悪いサイコロにやられない限り、いずれ名を刻むことになるだろう。


「それでも、俺が必要だ」アズーラが言った。声は震えていたが、崩れてはいない。

「ジュゼッペの豚野郎は、ベッドで全部俺に吐くんだ。お前の裏切り――他の奴らへの誓い――全部覚えてる。俺は切れねえよ、ヴィック。切れやしない」


 ニコラスは口元に薄い笑みを浮かべかけた。

 それがヴィックの人生を一行で言い表していた――「破られた約束の男」。


「黙れ!」ヴィックが怒鳴った。「お前は死ぬまで俺の下だ!」


 壁が鈍く鳴り、誰かが床に叩きつけられる擦過音が続いた。

 ニコラスには部屋の中を見る必要はなかった。その音で十分だった。

 ――ヴィックの拳がアズーラに落ちたのだ。


「違ぇよ」アズーラの声が低く響く。舞台から漏れるジャズすら押しのけて届いた。

「俺はミス・クララの下で働いてる」


「クララは俺の下だ」

 ヴィックの靴音が床を乱し、ドアへと近づいてきた。

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