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市議会のデスクにしては、あまりにも静かすぎた。
ラジオからジャズも流れてこない。タイプライターの音もない。ただ、ティヴン議員のこめかみを伝う汗のしずくと、古い葉巻のこもった臭いだけが部屋に残っていた。
ティヴンはひとり、椅子に沈んでいた。
よれたスーツ。震える手。まるで祈るように握られた拳銃。
背中のエンジェルの翼は、しぼんで、羽根が乱れたまま垂れ下がっている。まるで、どこにも休めない腕のように。ただの飾り。……この部屋の他のすべてと同じく、役に立たない。
額は汗で濡れ、息は短く鋭い。まるで、ひと呼吸ごとに命を借りているようだった。
床には紙が散らばっている。まるで羽根の抜け殻のように。
デスクの引き出しは開けっ放しで、中身は無造作に放り出されていた。彼は何かを探していた。
——逃げ道か。
——それとも、引き金を引かずに済む理由か。
ブザーが鳴った。
ビクリと身体が跳ね、拳銃が机にぶつかってカチンと音を立てた。
ティヴンは慌ててボタンを押す。
スピーカーからは、落ち着いた冷たい女の声が流れた。
「議員、レオン・トゥシュ氏がお見えです。予定されていた面会です」
「……なに? だ、誰だ?」彼はどもった。「そんな予定、入れてたか?」
「先週、ご自身で承認されました。ゾーニング小委員会の後です。G地区、外縁区画の開発についての件です」
ティヴンの動きが止まった。そして、唾を飲み込む。
「……あのロビイストか?」
声を低くして問う。「種族は? デーモンか? エンジェルか?」
「ヒューマンです」
沈黙。
そして――
「……通せ。待て、お前も来い。いっしょに入れ」
「かしこまりました」
ティヴンは椅子を立った。震えながら、別の引き出しを開ける。何もない。息が荒くなり、独り言が漏れる。
書類が飛び散る。ファイルが床に落ちる。
何も、見つからなかった。
気がつけば、彼は再び椅子に座っていた。
拳銃が手にあることに、しばらく気づかなかった。
ひとつ、嗚咽が漏れた。大きくはないが、深い音だった。
銃口を口元に運ぶ。
——そのとき、ノックが響いた。
息を呑んだ。拳銃を机に落とし、慌てて書類の山の下に押し込む。袖で顔をぬぐい、ネクタイを直そうとしたが、うまくいかなかった。
「入れ」
ドアが開く。
ダークグリーンのスーツを着た女性のエンジェルが一歩踏み入れた。翼は高く、均整が取れており、糊の効いたリネンのように端正だ。彼女は一言も発せず、ただ静かにドアを押さえていた。
そして、彼が入ってきた。




