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第5話 『守る者の目線』

私は運転しながら考えていた。

彼は、なぜあそこまで自分を責め続けるのだろうか、と。


時折こちらを見ては、話しかけようとする素振りを見せる。

けれど、二言三言かわしただけで、すぐに目を伏せる。


……まあ、こんな異世界のような場所にいきなり来たら当然か。

それでも、彼を見捨てるつもりはない。

なぜなら私は、騎士団の一員なのだから。


ーーー



私は、騎士団の中で育った。

両親は共に騎士団員。私にとって誇りであり、憧れだった。


強くて、優しくて、そして——誰かを守ることを何より大切にしていた。

だけど騎士団とは、命を懸ける場所だ。

その宿命から、両親も逃れることはできなかった。


ある任務中、彼らは消息を絶った。

報告されたのは、壊滅。

生き残りはおらず、遺体が発見されたのも、かなり時間が経ってからだった。


それでも私は、泣き崩れなかった。

泣いている暇などなかった。

両親の遺志を継ぎ、誰かを守れる騎士になる——そう、強く誓った。


だから私は、自らの意志で“あの人”の元を志願した。


ーー風神ハヤテ隊長。


誰よりも強く、誰よりも華麗に戦うその姿。

舞うように戦場を駆け抜けるその背中は、まさに理想だった。


無駄な殺意はない。けれど、容赦もない。

人を守るための力を、あの人は何よりも美しく振るっていた。


私はいつも思っていた。

あのようになりたい。

誰かを守れる騎士に。

誰かに「憧れられる」ような存在に——。


でも、現実はまだまだ遠い。



村に着いた。

“流刑者の村”。


子どもは……少し苦手だ。

何を考えているのか分からないし、騒がしい。


けれど、彼は少しだけ……いや、いつもよりずっと、楽しそうに笑っていた気がする。


まあ、野盗や魔物よりは、ちびっこ怪獣の相手のほうが気が楽か。



眠っていると、突然の悲鳴と唸り声が耳を貫いた。


しまった……!


気が抜けていた。

魔物に会わないという油断と、昼間に長時間魔力を酷使した疲れ。

結界を張らずに寝てしまっていたなんて。


(……私の、せいだ)


胸が締め付けられるような焦りが、全身を駆け巡る。

せめて彼と少女を起こさないように、私は静かに起き上がり、外へと飛び出した。


叫び声の方へ、魔力を走らせながら。



彼を庇ったあと、一瞬、意識が途切れていた。

気がつくと地面に伏していて、急いで周囲を確認する。


そこには——


信じられない光景があった。


ケイが、まるで別人のように、魔物を“狩っていた”。

怒りに満ちた顔。冷たい目。

その一撃一撃は、研ぎ澄まされた殺意そのものだった。


「……あれは……本当に、ケイ……?」


思わず声に出てしまう。


私の知る彼は、もっと臆病で、優しくて——

だからこそ、目の前の“それ”は、あまりにも遠い存在に見えた。


近くの生命を一つ残らず屠る。

そんな狂気さえ感じるほどだった。


……そして、最後の一体を切り伏せたその時。

彼は、力尽きたように地面に倒れ込んだ。


私は、おそるおそる彼に駆け寄った。


そこには——


泣きながら気を失っているケイがいた。


強さの中に、どうしようもない悲しみと絶望を抱えて。

その顔は、誰かを救えなかった子どものようで。

見ているだけで、胸が張り裂けそうになった。


(ごめんなさい……私が、結界さえ張っていれば……)


震える手で、そっと彼に触れる。

その体温がまだ残っていることに、少しだけ救われた気がした。


——守りたかった。

彼を、あの子を、村を。

全部、守りたかったのに。


彼が泣きながら倒れているその姿に、私はただ静かに寄り添うことしかできなかった。

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