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作者: 笹門 優

しいなここみ様主催『梅雨のじめじめ企画』参加作品です。


 蠅だ。


 蠅が飛んでいる。


 夏の日差しをその身に浴び、じっとりした空気の中で矢鱈と元気に飛び回る。

 ブンブンブンブンと耳障りな音を立てて、ひたすらに宙を飛び回っている。


 円を描く様に

 左右にゆらゆらと揺れて、まるで酔っ払い運転の様に

 ブンブンブンブンと飛んでいる。


 たまに聞こえなくなるのは休んでいるのか、遠くに行ったのか。

 ピチャっと、ほんの小さな水音が耳に届く。



 蠅が飛んでいる。


 また飛び始めている。


 カーテンは閉じられて、それでもその隙間からの日差しを浴びて。

 ブンブンブンブンと気に障る音を立てて、ねとつく様な空気の中でただ飛び回っている。


 大きく8の字を書く様に

 上下左右変幻自在にゆらゆらふらふらと、波間に揺れる木の葉の様に。

 日差しの中の影が見える。

 陰から陰へ影が渡る。

 ブンブンブンブン飛んでいる。




 蠅だ。


 蠅が飛んでいる。


 カーテンは閉じられて、それでもその隙間から日差しは射して、でも部屋の中は酷くじめじめとしている。

 不快度指数はとても高く、じっとりと濡れた肌が気持ち悪い。

 そんな気持ちもあってか、時折目に入るその姿が目障りで仕方がない。


 大きな複眼、短い体躯、毛の生えた様な身体、長くも短くもない手脚。

 こうして特徴を上げるだけならむしろコミカルな印象すらあるのに何故こうも気持ち悪いのか。


 じめじめじめと不快な湿度が身を包む。

 じとじとじとと、ゆっくりと、際限なく歩み寄ってくるかの様な湿度が気持ち悪くて仕方がない。

 蠅は、そんな事は気にせずに飛んでいる。

 自由に、限りある部屋の中を飛んでいる。

 じめじめする空気を気にもせずに。

 じとじとする空気を振り払う様に。




 蠅だ。


 蠅が飛んでいる。


 蠅が時折肌に触れる感触が気持ち悪くて仕方がない。

 じとじとじめじめとするこの空気の中、蠅が触れてくる感触がひたすら気持ち悪くて仕方がない。

 ぴちゃりと、何かに濡れた蠅が触れてくるのがただ気持ち悪くて仕方がない。


 蚊の様な目的がある訳でもないのに、どうしてこの虫は人間の近くにいるのだろう。


 ああ、目に入ってくる蠅の感触が気持ち悪くて仕方がない。

 口の周りをウロウロと歩く感触が気持ち悪くて仕方がない。


 何故この昆虫はこんなにも人間に寄ってくるのだろう。



 気持ち悪い


 気持ち悪い


 気持ち悪い



 ああ、そうか。


 唐突に思い至る原因






 ボクはもう、死んでいたんだな………………。

こんなのでもホラーでいいのか、ちょっと疑問……。

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― 新着の感想 ―
目の上を這い回るじゃなくて目の中に入ってくるって書かれてるって事は、眼球は無くなってる状態なのかな? って思ったんですけど、それだと矛盾があるんだよね。 目の上をなら何処かから入り込んで来た蝿が一…
蝿だったから、途中で火垂るの墓の一場面を思い出していて、なのにラスト、直前まで気付けず……。もう少し早く気付きたかった(>_<) 面白かったです。読ませていただき、有り難うございました。
ラストの1行。 この1行でそれまでの疑問がすべて氷解し、読者は納得します。 伏線を一気に拾った見事なオチでした。
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