3話『 洞窟に潜む黒い影 』
街を歩いていたセツナは近くにある果物店を指差してそう言った。アプルは赤い果実で食べるとかなり甘味があり美味という。値段も金銀銅とある貨幣のなかでも1番下の銅貨を2枚で買えるのでかなり人気がある。
ライゼが許可をし、セツナが店主の前に立ち、アプルを指差す。すると店主は明らかに嫌そうな顔をする。
「ああ?じゃあ銅貨5枚な」
「5枚!?3枚じゃなくて?」
アプルは本来3枚のはずだ。アプルが置いてある木箱に値段が書かれたプレートが置いてあるがそこにも確かにそう書いてある。
「5枚だ。払えないならとっとと帰んな!」
そう言って店主はしっしっと追い払うような仕草をする。竜鬼だから明らかに先ほどと違う値段でぼったくろうとしている。こういう差別的な目を向ける者も少なくはない。
「いでっ!」
その扱いにライゼは店主の頭を小突き、店主は何が何だかわからずに叩かれたところをさする。もちろんライゼは透明なので誰がやったかはわからない。何が何だかわからずセツナを睨む。
「お前か?」
「え?いや...」
「あだだだだだ!」
もう一度顔を引っ張ると、「わかった!わかった!」と諦めたように銅貨を3枚にしてくれた。
「あそこまでしなくてもよかったのに」
「よくないさ。セツナにだけぼったくりやがって」
「ありがと」
「お礼を言われるようなことじゃないさ」
そんな話をしながら集会場に行きボードを見る。セツナ1人でも倒せそうな依頼を探す。
「これとかいいんじゃないか?」
「洞窟のコウモリを倒す...そうだね」
「これぐらい弱ければセツナでも倒せるだろうし」
「うん」
良さそうなものを見つけてカウンターに出す。それは洞窟に住むコウモリの魔のもを倒すというものだった。
「さあ行くか」
「うん」
集会場を出るセツナ達を見ていたのはあのホワイトウルフを討伐するという勝負を仕掛けた男達だった。その男達はお互いを見てうんと頷いて後をつけた。
「ここか...」
そう言いながらコウモリの魔物を倒しにきた2人は洞窟の前に立っていた。中は灯りが付いていて暗くはないがなんだか不気味だ。
「いくぞセツナ」
「うん」
顔を見合わせてそう言いながら中に入る。洞窟の中をしばらく進むが、魔物の気配すらしない。
「なんだ?全くと言っていいほど魔物の気配がないな」
「うん...」
恐る恐る進んでいく。しばらく進んでもいつもはいるはずの洞窟に棲みつく魔物の姿が一切見えない。
「おい、何かやっぱおかしいよな?」
「...うん」
数十分ほどは歩いたのだが、ここまで魔物がいないのはおかしい。なんだか嫌な予感がしていた。
「グオオオオオオオオオ!!」
その時、おぞましい雄叫びが聞こえた。雄叫びを聞いた瞬間、セツナ等はゾクっと嫌な気配を感じ、頭に危険信号のようなものが鳴り響いた気がする。「ここから早く離れろ」と。
「おいおいおい、なんかやばいぞ!」
「うん、早く離れないと!」
向こうから何かの足音が聞こえてくる。その音はかなり早くどんどんと近づいていく。おそらく速さ的に逃げ切れないと判断したライゼは近くの岩場に隠れて様子を伺うことにした。しばらくしてその姿が現れる。
「うそ...なんで??厄災...ヴェノジリア」
「師匠ヴェノジリアって??」
厄災は魔物の中でも人類に脅威と見なされた最強の魔物だ。厄災は5匹いて、こいつはその中の1匹で『大蜘蛛ヴェノリジア』だ。かなり凶暴で人間を次々と皆殺しにしていったのだという。
隠れていると近くにあったコツンと石を蹴る。その瞬間ヴェノジリアが凄まじい雄叫びでライゼ達が隠れていた岩を破壊した。
「なっ!」
「これを!」
そう言ってセツナは何かを投げる。するとそこから凄まじい音が鳴り、ヴェノジリアはしばらく動かなくなってしまった。
「何だっ..」
「ょ!...しょ!...師匠!!」
そう言ってセツナがライゼの肩を揺らす。凄まじい音のせいで何も聞こえなかったが確かにセツナの声は聞こえてくる。
「早く逃げないと!」
「あれなんだ!?」
「耳がいい魔物に使うやつ!あれで少し時間を稼げるはず!」
「よし!」
ヴェノジリアがまだ動けないでいるのを確認して出口へ向かう。やっと出口に辿り着いた2人だったがそこにあったのは...。
「は?なんで岩で塞がれてんだ?」
入り口は岩で塞がれていてどうしようもなかった。少し叩いてみるがびくともしない。おそらく壊すにはかなりの力が必要だろう。
「なんでこんな!」
「どうしよう師匠!!」
「っ...!」
「ギュオオオオオオオオ!!」
後ろから立ち直ったヴェノジリアの声がする。そして勢いよく向かってきていてすぐにこちらに追いつかれてしまった。
「くっ!!」
「戦うしか...!!」
勢いよく八本ある足のうちの一つで果物屋をを攻撃する。セツナは前に出て剣を抜いてその攻撃を防ぐが簡単に弾かれて肩のところを貫かれた。そこから大量に血が噴き出てくる。
「ぐっ!」
セツナは剣で足を攻撃するが、鉄でできているのかのように固く全くと言っていいほど攻撃が通らない。ヴェノジリアはもう一方の足で腹部を突き刺さした。
「あああああああああああ!!!」
攻撃を受けたセツナは悲鳴をあげながら膝をつく。大量の血と共に意識が飛びそうだがなんとか耐え何とか立ち上がり本体に攻撃を仕掛けるが鉄のような足で攻撃を防がれる。そしてその足でセツナを弾き飛ばし勢いよく壁に叩きつけた。その衝撃で口から大量の血を吐き、その場に倒れ込む。
「っぐっ...!」
何とかまた立ち上がり攻撃を仕掛けるが、何度やってもその硬い体に傷一つすらつけることができない。ヴェノジリアは口から細い針を何十本も吐きセツナは剣でそれを防ぐが数があまりにも多く防ぎ切れず何個か体に当たってしまう。するとそこから毒が周りだし体が痺れてきて膝をつく。
「こいつ...!」
「はーっ!!」
ライゼの拳が勢いよくヴェノジリアにぶつかる。だが全くと言っていいほど効いていない。そして数本ほどの足がライゼの脇腹めがけて襲いかかってきた。
「ぐああああああああ!!」
悲鳴を上げるライゼ。脇腹に突き刺さった場所からは血が流れていく。そして先ほどより勢いよく顔を殴りつけるやはりというべきかなんともないヴェノジリアは何本かの足でライゼの体を貫いた。
「っぐはっ!!!」
「師匠!!よくも師匠を!」
「ダメ...だ!」
セツナは体を無理矢理動かしライゼの忠告など耳に入らず一撃が加える。だがさほど効いていないようだ。ヴェノジリアは防いだ足とは別の足でセツナに一撃を加える。だが何度やっても攻撃が通用すらしない。
何度か攻撃をするが怯む様子すらなく何本かの足でセツナとライゼを同時に床に叩きつけた。
「ぐ....こいつ...」
「し...しょ...」
倒れている2人を見てライゼを選び腹に足を突き刺して持ち上げる。突き刺している足や床に血が流れてくる。体に突き刺さった足は背中まで貫通しそこから今までとは比べ物にならないぐらいの血が流れてくる。
「うぐあっ...」
「うっ...」
その足を引き抜くと血溜まりができるほどの量で急所を外しているようでまだ息はある。
「し...しょ!!っ...このままじゃ...!師匠が!!!
セツナは剣を握りしめる。またあの時のようになるのか?いや、目の前でまた失うのならばいっそのこともうなってしまったほうがいいのかもしれない。体から吹き出している血を手につけてその血を剣に拭った。
「セ...ツナ?」
その瞬間セツナの頭にツノと背中には竜の翼が生えてきた。そして腕や顔には竜のような鱗に覆われる。そして手にはオレンジ色の竜の顔を模した紋章が浮き出てくる。
「これは...竜天魔装」
ライぜはその姿にそう呟いた。
*
「これでいいだろうな」
「ああ」
その男達は集会場でそんな話をしていた。それはホワイトウルフの勝負を仕掛けた男達だった。
「入り口を塞いでやったらあいつらはもう出れねえだろうなあ?」
「ああ、あそこで死んでいくだろう」
「これであの人も喜んでくれるだろう...」