1話『 竜の少女と透明人間 』
「来たはいい...が」
そう言ってかなり大きな木でできた建物を入り口の近くで見上げた。こここそが冒険者の依頼を受けたりする集会場であり、それと同時に冒険者達の憩いの場にもなっている。
「うーん、まあとりあえず入ってみるだけ入ってみるか」
そんなことを呟きながらも中に入るとたくさんの冒険者たちが机を囲んでいる。右には大きな木でできたボードがあり、紙がいくつも貼られている。ここに貼ってある紙を受付に出し依頼を受けることができる。
「あのーえーっと...」
そう声をかけるが無視される。何かに干渉はできるがやはりというべきか声すら聞こえないようだ。
「困ったなあ...」
はーとため息をつきながら困っていると、向こうから4人ほどの男女が受け付けにやってきた。金髪の男、チャラチャラした茶髪の女、緑のローブを纏った魔法使い風の男、そしてもう一人は見覚えのある顔だった。
「あれ、セツナじゃないか」
赤い髪に少しだけ束ねてサイドテールにしたその少女は先ほど助けた竜鬼のセツナという少女だった。
「おい!依頼達成したぞ!」
「あっはい...アーレットさん」
「ほらよ」
リーダー格と思われる金髪の男、アーレットがそう言いながら素材をカウンターに置く。。隣にいたちゃらちゃらした感じのピンク髪の女が「楽勝だったわねえ」と言う。
「ねえアーレット、もう少し難しいのでもいいんじゃない?
「そうだなあレレナ」
「だが少し時間がかかった...なあ?」
「まあしょうがないさ、この役立たずが仕事しないからな」
セツナは目を逸らす。その光景を見ていたライゼはなんだか違和感を感じてそれを口にした。
「セツナだけなんでボロボロなんだ...?」
ライゼの言う通りセツナだけ体がボロボロなのに他の者たちは服に汚れや傷などはない。
「次の依頼をくれ!」
「まだやるの?アーレットォ」
レレナがアーレに言うと「当然だ」と帰ってくる。それにチャラチャラした茶髪のレレナはハーっとため息をつく。すると横にいた魔術師の男ケーリッヒが口を開いた。
「もっと上に行くためには当然ですよレレナ
「ケーリッヒは真面目ねえ」
「当然です」
「さて、次はこれがいいな」
そう言って一枚の依頼の紙を取り出し受付に出す。そしてそれを受諾すると出発した。
「なんだあのパーティ?」
そう呟きながらもライゼは異様なパーティが気になりついていくことにした。
セツナ達にしばらく草が絨毯のように生い茂る広めの草原に着いた。そこで複数の狼の魔物と遭遇する。
「よしいけセツナ」
「わかってる」
そのアーレットの言葉とともにセツナが率先して戦う。だが他の者たちは少し遠くで応援しているばかりだ。
「なんであいつら戦わないんだ..?」
そんな事を考えながら見ているとなぜこんなことをしているかがすぐにわかった。
セツナに狼の1匹が噛みつき、さらに数匹が襲いかかる。セツナは両手に持った剣で必死に振り払おうとするが、ひたすら引っ掻かれたり噛まれたりし血が流れてくる。
「おい早く倒さないと負けちゃうぞ??」
「ほらほらあなた弱いんだからもっと頑張らないとダメよ!」
「ギャハハハハほーんと弱っちいんだなあ」
「だからこうやって鍛えてあげてるんでしょう?」
その光景はどう見ても鍛えているという風には見えなかった。むしろセツナは複数の魔物に苦戦していて、アーレット達はその光景をまるで見せ物のように楽しんでいるようだ。
「おいおいそこだって!バカだなあ」
そう言いながらアーレット達はセツナがぼろぼろにやられていく様をずっと楽しんでいる。本来魔物はチームで戦うものであり、間違っても単体で戦うのはおかしいはずだ。それができるのは相当強い人間であり、弱いセツナがやるものではない。
「はあ、役立たずが」
そう言ってアーレットは剣を抜くとセツナの方へと向かう。そして魔物を一掃して目の前に行くと「使えねえ雑魚が」とだけ言った。
「もういいや。お前で遊ぶのは飽きた」
「は?」
「お前はクビだ」
「は?それって...?」
「頭悪すぎて理解すらできない?」
クビ。その言葉に何もいえなかった。セツナはパーティから追い出される。だが他に行くところなど...。
「待って!でも...」
「そりゃあ竜鬼なんて嫌われ者、普通は入れたがらないわよねえ?だから何をされてもここにいるわけで」
竜鬼などという嫌われ者を入れるのはよほどの変わり者かこいつらように酷い扱いで弄ぶかのどちらかだ。だからこそレレナの言う通り何も言わず酷い扱いを受けても何も言わない。
「...ひどい」
「グオオオオオオオオオ!!」
その時、唸り声と共にそこに白い大きなオオカミが現れる。それはホワイトウルフというAランクが複数人でも勝てるかわからないという魔物だ。大きさはセツナ達と同じぐらいで鋭い牙で喉を鳴らしながら近づいてくる。
「ホワイトウルフ!?なんでこんなところに!!」
「どうするんですか!?」
「...っ!!」
アーレットはいいことを考えて「スタンだ!」と叫ぶ。スタンは一定時間対象者を動けなくする魔法だが、おそらくホワイトウルフに使っても数秒と持たないだろう。
「なるほど、そういう事ですか」
アーレットの意図を汲みケーリッヒはスタンを使う。だがそれはホワイトウルフではなくセツナだった。
「っ!?なにを!?」
「お前の最後の使命だ。囮になれ。まあ運が良かったら生きてるかもな!じゃーなー!」
ホワイトウルフは動けないセツナに近づいていく。もうダメだ...そう思った時ライゼの一撃がホワイトウルフに直撃した。
「あの時の!!」
「大丈夫か?」
「はい!」
そう言ってライゼは拳で何発か攻撃をする。ホワイトウルフは勢いよく襲いかかってくるが、それを避けてもう一発お見舞いする。するとホワイトウルフはその場に倒れて動かなくなった。
「これでよし。大丈夫?」
「ああ、あの時の透明人間さん..あはい」
「もう見てられなくてさ。ごめん、あんな酷い扱いを受けてる時に助けてあげられなくて」
「いえ...2度もありがとうございます。では」
そうお礼を言って頭を下げ、向こうへと行こうとする。ライゼはこのまま行かせて良いのだろうか...このままでは孤立した彼女を見捨てるのはなんだか気が引けるそう考えたライゼは、去ろうとするセツナを見てそう思ってしまい、咄嗟に声をかけた。
「ねえ!!」
「はい?まだ何か」
「一緒にパーティを組もうよ」
「はい?」
そう言いながらセツナは目を丸くした。
「え?でも...」
「他に行くところがないだろうし、俺が一人前にするよ!!」
「でも...」
他に行くところがない手前、アーレットの件もあり少し警戒していた。
「ってそりゃあいきなりそんなこと言われたら困るよね...」
「はあ...」
「まあとりあえず考えておいてよ!じゃあ!」
そう言ってライゼは走ってどっかに行った。そしてふと、こんなことを呟いた。
「そういえば、あの子助けるので忘れてたけど、透明のこの状況どうするか考えとくんだったな...ほんとどうするか」