2話『 猛る白き魔獣 ホワイトウルフ! 』
「おい、ありゃ竜鬼じゃないか?」
「ええ、気味が悪い」
「何でこんなところ歩いてるのかしら?」
街を歩に戻ると竜鬼というだけあってヒソヒソとそんな話が聞こえてくる。ライぜは嫌われ者というのは知っていたがこんな扱いなのかとため息をついた。
「気にする必要ないよ。いつものことだから
「セツナは大丈夫なのか?」
「うん、慣れたから」
「そうか...ねえ、アプル一個買おうよ」
ライゼはそう言って近くにあった店を指差す。店の前には赤い果実がカゴの中にどっさりと入っているのが見える。
「アプル?いいけど」
「よし!」
これはライゼの少しでも仲良くなろうと言う作戦だ。アプルは赤い果実で食べるとかなり甘味があり美味という。
セツナは店主に話しかける。すると店主は明らかに嫌そうな顔をする。アプルを4個茶色い袋に詰め、必要な銅貨を提示する。
「ああ?じゃあ銅貨5枚な」
「5枚!?3枚じゃなくて?」
ライゼは驚いた。アプルは本来3枚のはずだ。アプルが置いてある木箱に値段が書かれたプレートが置いてあるがそこにも確かにそう書いてある。やはり竜鬼の扱いはこういうところまで来ているのか」
「払えないってのか?」
「...わかった」
そう言ってお金を払おうとした時、突然男は「あだだだだ!」と声を荒げた。それはライゼが耳を引っ張ったのだ。ライゼがもう一度顔を引っ張ると、「わかった!わかった!」と諦めたように銅貨を3枚にしてくれた。
「あそこまでしなくてもよかったのに」
「よくないさ。セツナにだけぼったくりやがって」
「ありがと」
「お礼を言われるようなことじゃないさ。むしろ竜鬼のあの扱いを見ておきながら軽率だった。すまない」
「いいよ」
そんな話をしながらセツナは冒険者が集う会場に入る、すぐ近くにある依頼の書かれた紙が貼ってありボードへと向かう。今日もたくさんの紙が貼られていて自分が受けれそうなものを探す。
「おい」
その時突然後ろから声をかけてくる者がいた。それはなんだかいかにも悪そうな感じの男達だった。明らかにセツナに面倒な絡みをしてくるだろうというのはすぐにわかった。
「なにか?」
「お前みたいなのが何でここにいるんだ?遊び場じゃねえんだぞ?」
「あなたには関係ないでしょ」
絡んでくる男達を冷たくあしらうと突然そのうちの1人がこんな事を言い出した。
「なあ、勝負をしないか?」
「勝負??」
「ここから少し行ったところに荒地があってな?そこにホワイトウルフという魔物が住み着いてるんだ。それを討伐してきたら、君の勝ちだ」
「ホワイトウルフを..?」
ホワイトウルフといえば先ほどライゼが戦っていた大きな狼の魔物だ。到底セツナが倒せるような相手ではないのだが、もちろんセツナもそれはわかっている。
「勝手にやってれば?」
「お?逃げるのか?そうかーお前がそうならお前の死んだ師匠も同じぐらい腰抜けだったのかねえ」
その瞬間セツナの顔が変わった。先ほどの余裕そうな顔からその師匠の話をされて少し怪訝そうな顔をしている。
「なんであなたがそれを?」
「師匠?セツナにも師匠がいたのか??」
「そんな事いいじゃないかーそ・こ・で・だ。ホワイトウルフを倒すってのはどうだ?まさかできないなんて言わないよなあ?」
「わかった!受けてやるわ」
そう言って出ようとするセツナに「待て!」と言いながらライゼは追いかける。
「一体どうしたんだ?師匠ってなんだ??」
「あなたには関係ない」
「ホワイトウルフなんてセツナが勝てる相手じゃないだろ!」
「あなたは手を出さないで。自分の力で戦いたいから」
そう言ってセツナは小走りでその場所へと向かっていった。
「ここね」
セツナがホワイトウルフを探してたった一人でやってきた場所は、ゴツゴツした岩場だった。茶色い景色に岩ばかりの場所で風景としては最悪だが魔物の住み着く場所としては良質だろう。
「さて、ホワイトウルフはどこに...」
「うわああああああああ!!」
そのとき、そんな叫び声が聞こえてきた。その方向に向かうとそこにはあのアプルを売った果物屋と目の前にホワイトウルフの姿があった。
ホワイトウルフは探す必要もなくすぐ近くにいた。鋭い牙に白い毛並み、体はかなり大きく全長数メートルはあるだろうか。
「出たわね...」
「ど、竜鬼!?なんでここに!」
「すぐ助けるから」
そういながらセツナは両手の剣で何度か攻撃をするが、なかなかダメージを与えられない。ホワイトウルフの鋭い常による一撃を防御するが、その攻撃はかなりものでセツナは吹き飛ばされてしまう。深手を負ったセツナに追撃と言わんばかりに襲いかかっってくる。
「こんなやつ...」
「グルルルオォ!」
絶体絶命のセツナにホワイトウルフが襲いかかってくる。その時、「はーっ!」という掛け声と共に、ライゼの拳が勢いよく放たれた。
「なんでここに!?」
「この野郎!!セツナに何やってんだ!!」
そう言ってライゼは拳をもう一度振り上げる。そしてセツナに「来い!!」と叫び一緒に戦う事を促す。その言葉に勢いよく飛び上がり剣で一撃を加える。ライゼの補助もあり、ホワイトウルフは倒れて動かなくなった。
「大丈夫か!?」
「なんで...!なんで邪魔を!」
「いやだから...」
「私が倒さないと...意味がないのにっ!」
「ここで君が死んだら誰が師匠をバカにしたあいつらを見返すんだ!?」
「それは...」
その言葉に何も言えなくなる。そんな話をしていると「お前が倒したのか?」と後ろから果物屋が話しかけてくる。それにセツナはしどろもどろになりながらなんて答えようかと考えていた。
「まあ何でもいい!」
そう言うと果物屋の男は無言で去って言った。だが去り際に「ありがとうな」と言う声が聞こえたような気がした。
「さて、戻ろうか」
「竜鬼の私を何でそんなに助けてくれるの?」
「そりゃあ強くするって約束したからな」
「何それ」
少し呆れたように言うセツナにライゼは「本気だ」とだけ返した。
「じゃあ、私の新しい師匠だね」
「師匠か...」
師匠と呼ばれてライゼはまんざらでもなかった。
「どうだったあ?」
集会場に戻るとホワイトウルフ討伐の勝負を仕掛けた男達がニヤニヤとしながらセツナにそう問いかける。セツナが「ダメだった」と告げると男達は嬉しそうになる。
「そうだよなあ!ダメだったかあ」
ライゼに助けられたため、ホワイトウルフは倒せたが一応失敗として扱うことにした。
「次は倒すから」
それだけを言ってセツナは集会場を出た。その態度を見て笑っていた男達は少し不機嫌そうになる。
「あいつ... あそこまでやられて...ムカつくぜ」
「だがどうする?このままじゃあの人に怒られるぞ?早くあいつを冒険者から引きずり下ろさないといけないってのに!」
「そうだな...おっ、いい手がある!」
「いい手?」
「ああ、あいつらを確実に地獄に送るな...」
そう言って男は笑みを浮かべるのだった。




