10話『 竜鬼(ドルム)を統べる長 ヒョウカ 』
「ヒョウカ様新人を連れてきたっス!」
「ほう」
ヒョウカは立ち上がりセツナをじっと見る。なんだか冷たいような視線を受けながらセツナは「ええっと...」という声を出す。
「よし、そろそろ動き出す時だな」
「はいっス!!」
そのよくわからない会話を聞きながら困惑するセツナにエートは「すぐにわかるっス」とだけいった。
「君は人間は嫌いか?」
「えっと...?」
突然の質問に困惑する。確かに酷いことをしてくる輩ばかりだが、全員がそうとは限らない。ライゼやリーゼエなど普通に接してくれる人ももちろんいる。
「私は憎くて憎くてたまらない。君もそうなんじゃないか?」
「私は...」
「いや、みなまでいわなくていい。わかっている。だから計画を成功させなければならないのだ」
「計画...」
「先に戻っていてくれ。すぐに行く」
「はいっス!」
挨拶が終わり、竜鬼の集まる場所に戻ると奥にいたヒョウカもこちらに向かってくる。そして大きく「皆のもの!」というと竜鬼は一斉にヒョウカの方を向く。
「今こそ人間達に復讐の時だ!!」
「おおー!!」
「うおおおおお!!」
その言葉に歓声が湧く。突然の復讐という言葉にセツナは困惑する。
「復讐!?なに!?」
「文字通りっスよ。人間共の復讐をするンス」
「今まで我々竜鬼は酷い扱いを受けてきた!!その報復を受けるべきだ!」
そのヒョウカの言葉にさらに歓声が湧く。
「そうだ!人間はぶちのめせ!」
「ああ!あいつらに目にものを見せてやれ!」
「愚かな人間を血祭りにあげてやろうぜ!!」
「何これ...」
「ぶっ潰せ!!」
「人間に報いを!」
ヒョウカの言葉に竜鬼達はそう口々に言う。その光景にセツナは何も言えなかった。
「さあ!戦いは明日!まずは近くの街に攻め込むとしよう!」
「街って...!」
それはセツナ達の住む街のことだ。このまま攻めれば血で血を洗う戦いが起こるだろう。
「確かに人間は酷いことをしてきた。だからって...」
「どうしたんスか?セツナさん。人間に憎しみはないんスか?」
「それは...」
「セツナさんも人間に復讐したいっスよねえ?」
「え、っとまあ」
ここで否定すると良くないと判断し、そうだと言うと「そーっスよねえ!!」と嬉しそうに言う。
「決戦は明日だ!今日はゆっくりと休むといい」
そう言うとヒョウカは奥に行ってしまった。
「いやー明日。いよいよっスねえ」
「ええ」
「おい」
そこに話かけてきたのはエオンだ。また絡みにきたのだろうか。
「なんスか?」
「その前にネズミの駆除が必要だぞ」
「え?」
そう言って後ろに岩場を見た。
「おい聞いたか?」
「ああ」
「まさかあのセツナとかいうやつが...」
「しかも街に攻めてくるって...」
洞窟入り口にある岩場の陰でこっそりその話を聞いていた男達はそう話し合っていた。それはシュンギルの手下達で、命令されてセツナとエートの後を隠れてついてきていて先ほどヒョウカの演説の一部始終を聞いてしまったのだ。
「早くこのことを知らせないと...」
「何やってるんスかあ?」
その声にビクッとする。後ろを向くと、そこにはエート達が立っていた。
「あ...」
「街からついてきたんスねえ。
「くっ...この!!」
「ネズミは駆除しないといけないっスねえ」
「くっ!この!」
1人が攻撃をするがエオンの炎の魔法で簡単に返り討ちに遭ってしまう。
「それじゃ、バイバイっス」
エオンは炎の魔法を男に放つと男は悲鳴を上げながらすぐに火だるまになった。
「うわあああああああぎゃあああああ!!」
「あー悲鳴が心地よいっスねえ」
「ああ、燃える人間は見ていて面白い」
そう言い合うエートとエオンにセツナはドン引きする。
もう1人は「やめてくれ!」と命乞いをするがエオンはニヤリと笑う。
「さーもう1人はどうしたいっスか?エオン」
「これでいいな」
そう言って炎で剣を作る。もう1人も殺す気満々の2人にセツナはどうしようかと考える。
「やめてくれ...」
「はあ?こっちがやめてくれって言った時はやめなかったくせに命乞いだなんて面白いっスねえ」
「ねえ、そこまでしなくてもいいんじゃないの?」
そのセツナの言葉にエートは少しし顔をしかけて「はあ?」と言った。
「なんで人間如きに慈悲をかける必要があるンスかね?」
「こいつらは今まで俺たちに同じようなことをしてきたのになあ?」
エートもエオンもは全く殺すことに躊躇いすら感じない。
「セツナさんは怨みはないんスか??今からでも叩き斬りたくてしょうがないっスよ」
「やめてくれ...たのむ!」
「そんなので命乞いのつもりか?無様だな燃えるように屈辱を味わえる!!
そう言ってエオンは剣を振り下ろす。だがその剣が手下達に届く事はなかった。それはエオンの炎の剣をセツナが剣で防いだのだった。理解不能な行動に困惑しながら「...?何やってるんスか?」と尋ねた。
「何やってるんスか?」
男達を守ったセツナにエートはそう尋ねる。セツナは冷静にその質問にそう返した。
「この事を知らせるメッセンジャーにした方がいいんじゃない?
「メッセンジャー?」
「そう。この事を敢えて知らせるの。そうすれば向こうもこちらがそれほどやる気だってことが伝わって、向こうもやる気になると思うよ」
「ほー、そうっスね」
納得してくれたようで攻撃をやめ、手下達はそそくさと逃げていった。
「何だか守ろうとしてなかったっスか?」
「っ!そんな事ないけど...」
少し図星を突かれるがそう冷静に言う。それを聞いてエートは「そうっスか」とだけ言った。なんとか誤魔化せてセツナナは安堵する。
「おい、セツナとか言ったか?」
ふーと一息入れたセツナに話しかけてきたのはエオンだった。
「ちょっと付き合え」
「何?」
「お前にだけ話がある。すぐ済む」
そう言ってセツナを連れて洞窟を出る。そして少しばかり遠くの場所に向かい、しばらく歩くと立ち止まった。
「何?話って」
そういうセツナに突然炎で攻撃をしてきた。それを避けて「何!?」と言いながらエオンを睨む。
「お前は裏切り者だろ?」
「は?何をいきなり」
「明らかにお前の行動はおかしかった。ありゃ明らかに守ろうとしているようにしか見えなかった」
「そうかな」
「だからここで..お前を粛清する」
「そうかそんな事が...」
シュンギルは逃げてきた手下から全ての話を聞いた。セツナが竜鬼の集団と連んでいたころ、その竜鬼の集団が街に襲いかかってくる事、全てを知り「ふーむ」と言う声を出す。
「あいつは赤髪のやつに丸こげにされちまったんです!でもあのセツナて奴が助けてくれて...?」
「セツナが...?」
「はい!あんな酷いことをしたのに俺を逃がしてくれて...」
それを聞いたシュンギルはいいことを考えた。
「うーんそのシナリオだと面白くないなあ。この疾風のシュンギルが面白くしよう!」
「は?何を言って...」
その瞬間シュンギルは剣で手下を刺した。手下は「なぜ...?」といいながらその場に倒れる。すぐ近くには血溜まりの池ができる。
「さあ、これで準備は完了。あとはセツナを陥れるだけ。楽しみだねえ」
そういいながらシュンギルは笑みを浮かべた。




