⭕ 傍観者達 4
──*──*──*── 2階
──*──*──*── 教室
柯楠八惠
「 此処が困ってる先輩のクラスよ。
私は塾に行かないとだから帰るわ。
頼んだからね! 」
そう言うと副学級委員は踵を返して廊下を走って、階段を掛け下りて行った。
厳蒔キギナ
「 面倒事を私達に押し付けて帰っちゃったわね。
嫌な感じねぇ~~。
手抜きしちゃう? 」
厳蒔眞勇
「 手抜きは駄目だろ。
ちゃんと調べないと。
だよな、シュンシュン 」
厳蒔惷囹
「 怪異の気配はしないな 」
シュンシュンは既に誰も居なくてガラン──としている[ 教室 ]に入って調査を始めていた。
厳蒔キギナ
「 じゃあ、怪異の仕業では無いって事かしら? 」
厳蒔眞勇
「 怪異が関与してないならな。
シュンシュン…… 」
厳蒔惷囹
「 奇妙な行動も奇声も一種の神芝居の線が高いかもな 」
厳蒔眞勇
「 神芝居か──。
さっきシュンシュンが副学級委員に話してたな。
全部、セロの受け売りだけどぉ~~ 」
厳蒔惷囹
「 フン!
陰陽師の僕が言った方が、事実っぽいだろ 」
厳蒔キギナ
「 神芝居って事になると、説明が小難くなるんじゃないのぉ?
セロフィート曰く──、霊媒,狗神,野狐,狸の霊,生き霊,死霊,魔物,悪魔が憑いたとか、稲荷様の乗り移りって、能く能く観察,注意すれば、神芝居って事が理解が出来て、覚れるらしいけど──、信仰心が薄っぺらい人間に話して通じるの? 」
厳蒔眞勇
「 “ 憑く事は無い ” って事が紛れもない事実なんだから、相手が納得しなかろうが、信じなかろうが、事実を伝えるしかないよ。
嘘を教える訳にはいかないしさ 」
厳蒔惷囹
「 セロフィート曰く──、狗神,野狐も実際には存在しないんだろ。
陰陽師の僕としては耳が痛い限りだが──、“ 憑きもの ” っていう邪説は、陰陽道,密教の影響を多分に受けていて、出雲神道,稲荷信仰,密教信仰の盛んな地方に憑きものの説が多く、憑きもの落としの祈祷が多いって事だ。
稲荷様に関しても誤った知識が広まっているしな 」
厳蒔キギナ
「 狐でもなければ、神様の使いでもないんでしょ。
稲荷様は “ 神様そのもの ” だから、狐扱いしたり、神様の使い扱いして、ぞんざいな言葉で追い使う様な言い方をするのは罰当たりなのよね 」
厳蒔眞勇
「 神様を冒涜する不敬,不謹慎な僭上の行いになるから、逆に厳しい戒めを祈祷師の方が受ける事になるんだ。
憑きもの落としの呪術や祈祷や御祓いをしたり、金神,水神の障り落としの祈祷をしたり、方角除け,年回りの御祓い,星祭り除災の祈祷をする事は、理に合わない事で、正しい信仰の仕方じゃないって事も言ってたよな 」
厳蒔キギナ
「 神様の祟りも無いって言ってたわよね。
金神様,庚申様,荒神様,埋めた井戸の水神様の障り、祟りは絶対に無いって。
金神様の方角での忌,斎も邪説なのよね 」
厳蒔惷囹
「 祟りは無いが、他の人に迷惑を掛ける飲料水の汚染行為や公海を汚染する様な公害や不衛生に対しては、厳しい戒め,さとし,罰が神佛から与えられる事が有るから、単なる障り,祟りとは全然意味が違うって事を理解して人間の方が悟らないといけない。
禁漁区に出掛けて密漁した際に、漁が少ない,網を破る,漁具を流失する等の損害が起こる事は、明らかに公律を守らず社会秩序を破壊する行為に対する神佛の戒め,罰だって事を認識し、人間が心を入れ替え改める必要がある 」
厳蒔眞勇
「 霊媒も一寸見れば、本当の御先祖の霊みたいに見えるけど、これも神佛の芝居だから、真実の御先祖の霊じゃないんだよな 」
厳蒔惷囹
「 あぁ。
僅かだが、実際と合致しない、真実でない、道理に合わない事柄が織り込まれているから、冷静に良く良く注意し、観察しないとコロッと騙されてしまうんだ。
鳥の霊が憑いた とか魚の霊が憑いたとか言って祈祷するのと同じ類いで真実の相じゃない。
信仰の形式としては、程度が低くて原始的未開宗教の名残で、神佛が人々の先入知識を利用して現している方便だ。
間違った先入知識に拘っていると、神佛から真実を教えてもらえないままだ 」
厳蒔眞勇
「 邪説や邪教を説いて、邪行の祈祷をする行者,法師,神官,僧侶は未だ修行未熟,修行不足の者だから、神佛 の方便の力の実相を知らないで、神佛の方便の御意趣を正しく分別の出来ない浅識の者言い分、邪法だから真実じゃないんだよな。
だから、騙されて後悔しない様に心しないといけないんだ 」
厳蒔惷囹
「 どんな時でも冷静さを欠かさず、確りと考えてみれば、誰にでも不合理,矛盾を発見する事が出来るんだ。
呼吸するかの様に邪道,邪教,邪行,邪法を行う奴等のカモにされない為、騙されない為には、自分で自分を守るしか無いのさ 」
厳蒔キギナ
「 惷囹に依頼する客も減るわねぇ~~ 」
厳蒔惷囹
「 僕は本物だぞ!
依頼者が減る事はないさ! 」
厳蒔眞勇
「 以上の事を踏まえた上で考えると──、奇妙な行動をしたり、奇声をしていた生徒に関しては、悪い何かが “ 憑いてる ” って事は無くて、神佛が “ 何か ” を伝える為に態々神芝居をさせてるって事になるよな。
クラスメイトに迷惑を掛ける役として使われてる生徒は、対告衆って事だな 」
厳蒔キギナ
「 肝心なのは、神佛が生徒を使って “ 何を伝えようとしているのか ” よねぇ?
私達には解明は出来ないわよ。
どうすんの 」
厳蒔惷囹
「 問題は其処なんだ。
本来ならば、奇妙な行動をしたり、奇声を発する生徒の事象を通して、神佛に質問しないといけない。
此方の質問に対して神佛から、今の自分に出来る善の積み方が分かる処方箋を頂けるんだが──、≪ 日本国 ≫には当来佛が居ないから、それが出来ない。
だから、神佛から与えられた “ 知らせ ” を解く手立ても手段も無いんだ。
手段が無ければ、神佛の御意趣の的を射た実践が出来ないから、事象の謎を解明する事も出来ず、解決させる事も出来ない。
よって、生徒は元の正常な生徒には戻れないままになるだろう。
改善する兆しが無く、今よりも悪化するなら、精神病院へ入れられる可能性も有る 」
厳蒔キギナ
「 完全に詰んじゃってるわね。
私達って、とことん無力ね♥️ 」
厳蒔眞勇
「 じゃあ、このまま何も出来ないままで終わるって言うのか? 」
厳蒔惷囹
「 そうだな。
気休めにしかならないが、一時的に効果の得られる御祓い,祈祷をする手も有るには有るが──、所詮は一時の事だ。
時が経てば別の形で戻って来るぞ。
原因を解明し、解決させない限り、終わりはなく鼬ごっこが続くだけだ 」
厳蒔眞勇
「 草抜きと同じだな。
現象を草としたら、原因は根っ子だ。
──根っ子を上手く引き抜く事が出来れば、草は生えてこない。
原因を解明して解決させる事が出来れば、用事の無くなった現象も止まる。
──土の下に伸びてる根っ子を残したまま、上に生えてる草だけを抜いても、根っ子が生きてる限り、草は生え続ける。
原因を解明する事もなく、御祓い,祈祷なんかをして、一時的に治まったからと安心していたら、おかと違いで事象は形を変えて再び現れる。
──根っ子を残したまま草を引く抜く程間抜けな話はないよな。
原因を解明しないまま御祓い,祈祷なんかしても、一時的な処置だから解決しないんだ。
確かに終わりの見えない鼬ごっこだよ 」
厳蒔キギナ
「 眷属って理から外れた存在なんでしょ。
自称 “ 本物の陰陽師 ” の惷囹が祈祷や御祓いをしてあげら良いじゃないのよ。
カモをゲット出来るし一石二鳥じゃないの 」
厳蒔惷囹
「 誰が “ 自称 ” だって馬鹿野郎──。
確かに理から外れた存在だから、仮に僕が御祓い,祈祷をしたとしても神佛から戒められたり罰をもらう心配は無いわけだが── 」
厳蒔眞勇
「 何か問題が有るのか? 」
厳蒔惷囹
「 御祓い,祈祷に対する依存度が上がるんだ。
何か起これば、取り敢えず『 御祓い,祈祷をしとけば何とかなるだろう 』ってな具合に安易な思考に走ってしまうのさ。
それじゃあ、本末転倒だろ。
祈祷師は収入源の確保が出来るし、儲けられるから嬉しくて喜ぶんだが── 」
厳蒔眞勇
「 た…確かに── 」
厳蒔キギナ
「 嫌ねぇ~~。
何を今更、善人ぶってんのよぉ。
惷囹はそんなキャラじゃないでしょ! 」
厳蒔惷囹
「 お前、ガチで失礼や奴だよな 」
厳蒔キギナ
「 はぁ~~?
失礼なのは御互い様でしょ~~。
神佛と意思の疎通が出来ないんだから、仕方無いじゃないのよ。
それとも何もしないで、精神病院へ収容される生徒を見送ってあげるつもり? 」
厳蒔惷囹
「 怪異が絡んでない以上、僕は生徒が精神病院へ収容される事になっても別に構わないねぇ。
僕には関係無い生徒の人生だからな 」
厳蒔眞勇
「 シュンシュン…… 」
厳蒔惷囹
「 マオ、僕は主人の意見に従う。
お前は僕に何してほしいんだ 」
厳蒔キギナ
「 マオに丸投げしやがったわよ、コイツぅ~~ 」
厳蒔惷囹
「 何とでも言えよ 」
シュンシュンは生徒に対しての判断をどうするのか──、オレに託して来た。
上手く逃げるんだから、もぅ~~~~。
今日の事をセロに相談してから決めようと思う。




