第8話 黄金の瞳(side:アルマ)
ススムが二階へと上がって行くのを見送ってしばらくした後、私は椅子にもたれ掛かりながら、予想外の出来事ばかりの一日を思い返していた。
「ふう、大変な一日だったなぁ」
十年にも渡り毎年の恒例になっていた二大竜王の闘争の余波は、毎年のように魔物の生息域が変化し、それに伴って魔物の影響を受けやすい特殊な薬草類の採取地にも変化が起きたり、戦闘被害地の水源地への影響などと多岐に亘っていた。
今回の調査も例年であれば、三日から五日で終わる闘争の終了時に合わせて行う予定であり、二日と掛からずに終わると思ってもなく、まさか相打ちで終わるなどとは想像すらしていなかった。
そんな任務の最中だ。当然警戒はしていたし、竜王が相対している地から充分に離れた上、風による結界をはり、荷物番に仔猫、護衛に山猫を配置してようやく一息ついて水浴びをしていた時のことだ。
そんな時にあの子が現れたのだ。水浴びをしていたとはいえ私に油断など全く無かった。
あの子はその身に宿す膨大な竜気を完全に抑えて気配を消し、一切の敵意も害意も抱かずに山猫の警戒網を素通りして、仔猫のお陰で不幸に見舞われることが無い筈の私の水浴びを見たのだ
あの黄金の瞳に全身を見つめられて、沸騰するかの様な羞恥に突き動かされた私は、反射的に風を放ってしまっていた。
後に冷静になってみると分かることがあった。
例えば、村にいるあの年齢の子供に水浴びを覗かれたとして、教育上軽く叱りはするだろうが、特に何も思わないのではないだろうか。
そして、普段から見られることに慣れている私は、仮に大人の男性に覗かれたとしても、怒りこそすれ恥ずかしいなどとは殆ど思わないだろう。幼い頃、人より上位の存在であるかのように、特別な巫女として育てられた弊害のせいだで……。
私にはあの子が十二、三歳には思えないのもある。見た目は幼くてもっと下にも見えなくはない。しかし態度や話し方、垣間見える知性や雰囲気が下手をすれば私より上に思えてしまう。森を一緒に歩いていた時も、まだ私より弱いはずなのに、気付くと何故か安心していたのだ。
それと、仔猫の幸運を呼び込む力と不運を遠ざける力が通じなかったのも気になる。もしかして、水浴びを覗かれたこと自体が、私にとって不運ではなかったとでも言うのだろうか……。
あの子と出逢って以降、あの綺麗な瞳に見つめられていると落ち着かないような、それでいて心地良いような、そんな不思議な気分になってしまう。
こうして一人になり改めてあの子に裸を見られたことを思い出すと、恥ずかしさに悶えてしまいそうだ。
今もあの子と一つ屋根の下にいると思うと……。
「あーもー、やめやめ!……お酒飲んで寝よ」
今の私は疲れているのだと思い、お酒を飲んで全て忘れることにした。
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▼《Tips》
〈アルマ・ニクス・フルワール〉
??(神使) 女性 二十四歳
[魔法一覧]
【??(氷肌玉骨・????・????)※??】
【風霊(風身操作・風撃強化・風具象化)※加護】
【従猫(従猫創生・従猫召喚・猫心伝心)※召喚
┣ 斬山猫(先陣強化・気配遮断・空間切断)
┗ 幸運猫(愛玩魅了・幸運招来•不運拒絶)】
空と風の女神の巫女にして神使。女神フルワールに選ばれた?と??の??候補。
孤児である彼女に家名は存在しない。「ニクス」とは彼女の本質を顕す神に与えられた真名である。
実は等級の高い加護を授かるほどに老化が遅くなるのだが、彼女の加護の等級は過去に類を見ないほど高位であるそうだ。つまりは、女性に年齢を聞くのは絶対に駄目だということ。