4-10(最終話) ふたりの未来
たどり着いた場所は、山の麓にある駐車場だった。
いつかリリアと一緒に出かけた展望台から見下ろしたところと同じかは分からないが、すくなくとも花火をやるにはうってつけの場所だった。
「よし、やるか」
「え?」
俺はビニール袋に入れてもらった花火セットを霞音の前で揺らした。
「……あ」霞音はそこでようやく気付いたようだった。「うれしい、です。1日に2度も花火を楽しめるなんて、うまれてはじめてですっ」
「ああ、俺だってはじめてだ」
そんな『はじめて』を霞音と体験できるのも感慨深い。気分を高揚させながら、俺たちは花火の準備をしていった。
「それじゃあ――つけるぞ」
アスファルトにしゃがみこんで。
俺は霞音に向かって言った。
ふたりの手にはそれぞれ〝線香花火〟が握られている。
夏の虫の声が空気に滲むように響いている。
周囲は暗く、地面に立った一本のロウソクの火がかろうじて俺たちふたりのことを照らしていた。
「あ、お待ちください」
霞音が声をだした。
「ん?」
「――いっしょに、ですよ?」
霞音はそれがとても大切なことのように言って、手の中で線香花火の軸を揺らした。
「ああ。もちろんだ――いっしょに」
お互いにうなずきあって。
せえの、の声で線香花火の先をロウソクに近づけた。
「……あ」
じじじ、と一瞬もったいぶったように先端から火花が散った。
霞かな蕾のような火の玉はやがて大きくなって、ぱちぱちと力強く弾けはじめる。
「「きれい――」」
ふたりの声が合わさって。
夏の夜の底で、小さな光の花が咲いた。
そんなかけがえのない景色を。
俺たちは向かい合ってふたりで眺めている。
「……」「……」
火がついたらはじまって。
はじまったらいつかは終わって。その繰り返し。
だけど。
そんな終わりとはじまりの繰り返しを。
隣で一緒に見ていたい人が。共有したい人が。愛する人が。
――今は確かに、居る。
「きれい」とその想い人は繰り返して。
ふと俺の方に目を向けて。
言った。
「――約束、果たせましたね」
「……っ!」
約束。それは幼い頃の記憶の中で。
今日と同じ、夏の盛りを象徴するような夜に。
きみとふたり。線香花火を散らして。
――またいつか、いっしょに。
なんて。
小指を近づけて。触れて。重ねて。絡めて。
契ったひとつの願い。他愛のない、だけどどこまでも純粋な想い。
「……夢じゃ、なかった」
口に出した瞬間。ぽろり。俺の目から涙が零れていくのが分かった。
「――せんぱい?」
夢みたいな記憶の中の少女が。
その俤が、はっきりと目の前のきみと重なった。
「どうして、泣いているのですか?」
「いや、なんでも。なんでもないんだ……」
俺はぼろぼろとこぼれてくる涙を、片方の腕で拭った。
霞音はそれを気にしてくれたのか、白い指先を俺の目にそっとあてて涙を拭いてくれたあと、自らの目にも当てた。
「……霞音?」
なんてことはない。
霞音も泣いていた。
「私――こんなにも幸せで良いのでしょうか」
瞳からぽろぽろと涙をこぼしながら霞音が言った。
「っ……! 俺も同じことを考えていた。こんなにも幸せで、良いんだろうか」
線香花火をつまんだ指の先の空中では、舞い散る炎が今まさに最高潮に達しようとしていた。
俺たちはそのきらめきを眺めながら。
言った。
「まるで夢みたいです」
「まるで夢みたいだな」
ふたりの言葉が重なって。
「「……あ」」
俺たちはまた、泣きながら笑った。
「――好きです。ゆうとさん」
「っ!」
霞音は俺の名前を呼んで。愛を伝えて。
「大好きだ――霞音」
俺もきみの名前を呼んで。愛を伝えて。願った。
「「この夢みたいな現実が、ずっと続きますように――」」
線香花火は俺たちふたりの間で火花を散らしながら――
ずっとずっと輝きつづけていた。
-『俺のカノジョは夢と現実の区別がつかない!』-
<DREAMY & LOVELY END!!>
これにて本作、完結です――!
ここまでお読みいただき、本当の本当にありがとうございました……!
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あらためまして、本作に出逢っていただきありがとうございました!
ささき彼女!
(※他にラブコメ作品も書いていますので、そちらもぜひ!)




