4-1 宇高悠兎の現実 ①
ちゅんちゅんと。
鳥のさえずりが聞こえた。
どこか遠くの世界から響いてきたようなその音は、だんだんと輪郭を帯びていく。
「ん……ここは……?」
並行してぼやけていた視界も焦点が定まってきた。いつもと違う天井だ。
どうやら俺はベッドで仰向けになっているらしい。
「たしか、昨日は……んな゛っ!」
喉を絞ったような声がでた。
それもそうだ。
頭を傾けると、目の前には――
天使様が、いたのだから。
「…………!」
人を一瞬で虜にする静かな美貌の少女。
天使とも見違う絶世の美姫。霞音。が。
俺と超至近距離で横になり、目を閉じ、寝息をたてていた。
「そうか、俺は昨日――」
つい先程まで頭はぼうっとしていたが、今の状況でたまらず目が覚めた。
はっきりしてきた思考で、記憶を辿ってみる。
――昨日、俺は。
夢の世界から飛び出して。
現実の夢に向かって。
駆けて。駆けて。駆けて。
眠れるきみに――俺はキスをした。王子様として。
目を覚ました霞音に。
俺は夢見姫のことを伝えて。
そして俺は――告白をした。
どこまでも現実的に。
きみに愛を伝えた。
きみは愛で応えた。
そして俺たちは――
「付き合うことに、なったんだよな。現実的に」
未だに信じられない気分だ。
まさしく夢心地ではあったが。
「朝起きて――夢から覚めても。霞音はここに、いる」
夢じゃないことはどうしたって分かる。
目の前で無防備に目を閉じる霞音の呼吸が。
白い柔肌にみなぎる生のぬくもりが。
ほんのりと鼻腔をくすぐる甘い香りが。
どこまでも彼女が〝現実〟であることを俺に突きつける。
「へへ……霞音がカノジョ、か」
そんなことを考えて、思わず頬が緩む。口元がにやける。
思い返せばなんとも不思議な気がするな。
幼なじみだった霞音と。
俺に冷たい態度ばかりとっていた霞音と。
それでいて――実は俺のことが大好きだった霞音と。
俺は恋人関係になった。愛という糸で結ばれた。
それは恋愛初心者の俺にとって、あまりにも大きすぎる一歩だ。
「……ふむ。なんとまあ。俺も思春期男子として、人並みになったものだな」
あらためて霞音との『恋』について考えていたら、無性に照れくさくなってきた。
霞音はまだ寝ている。
リボンの刺繍が施されたピンク色のパジャマ姿だ。
――ん? なんでパジャマ姿かだって?
そんなものは決まってる。
俺は昨夜あのあと、霞音の家にお泊まりをしたからだ。
霞音の家に着いたのがもともと遅い時間であったのだが。
そこから霞音のことを(王子様のキスで)起こして。
告白をして。
無事にお付き合いをすることになり。
そのあと俺たちは、今までの現実でのすれ違いを埋め合わせるように――
互いに〝愛〟をたしかめあった。夢を現実にした。
そのままの流れで霞音の家に泊まることになり――
こうしてひとつ屋根の下、同じベッドで夜を過ごしたのだった。
あえてその夜の詳細を語ることはしないが……。
まあ。
つまりはそういうことだ。
恨み辛み妬みがあれば、俺に向かって好きなだけ石でも岩でも隕石でも投げつけてくれて構わない。
しかし事前に伝えておくと……今の俺はそんな隕石のひとつやふたつ、なんてことはない。
それほどまでの幸せを。霞音との恋を。愛を。
まさしく降ってきた隕石にたまたま当たる程度の途方もない奇跡の末――
俺は手に入れたのだから。
しかし。とはいえ。
「……今はこの目の前の〝現実〟をなんとかしないとな」
目の前にはそんな軌跡の果てで結ばれた霞音がいる。
しかも俺の至近距離で。無防備にくうくうと眠りながら。
「というか……俺はどう霞音と顔を合わせればいいんだ……?」
昨日の夜にあった一連の出来事を思い出す。
勢いがあったからとはいえ。想いが溢れていたからとはいえ。
朝起きて冷静に考えてみたら、色々ととんでもなく〝小っ恥ずかしいこと〟をしてやいないだろうか。
それこそ、恋愛ドラマの主人公ですら赤面するかのような。
「うう……ひとまず、ベッドから出るか……」
ついでに火照ってきた身体も冷やすのが良さそうだ。
霞音を起こさないようにして、そっと布団を抜けだそうとしたところ――
「なっ……!?」
霞音がもぞもぞ動いて。
「……んっ……せん、ぱい――」
俺の身体を。ぎゅう。と
白くて細い両腕で――抱きしめてきた。
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