3-35 夢を現実に変えてやる――
「霞音! お前の見る夢を、現実に変えさせてくれ!」
俺は迷いなく。
目の前のお姫様に向けて。叫んだ。
「好きだああああああああああ!」
「っ……!?」
霞音は目を見開く。
唇をきゅっと噛んで驚愕の表情を浮かべている。
それでも俺は。
叫ぶことをやめない。
「好きだ、霞音。好き、だあああああっ……!」
みっともなく裏返った声で。
王子様の体裁も捨てて。
心臓を高鳴らせながら。
全力で。
何度でも。
俺は叫んだ。
「好きだーーーーーーっ」
言葉にしたらだめだった。
感情が溢れてくる。
俺には程遠かったはずの感情が。
程遠かったと思い込んでいた感情が。
身体のうちから。心臓から。頭の中から。
溢れだして止まらない。
「霞音っ……!」
ちょうどきみが日記帳の中に描いていたみたいに。
ちょうどきみが夢の中で俺に求めていたみたいに。
きみへの〝好き〟がとめどなく溢れてくる。
だから俺はそれを口にする。
どこまでも素直に。正直に。現実的に。
「すきだ、すきだ、すきだ、すきだ――」
そうやって自らの気持ちを。
根源的な欲求を。
どうしようもない想いを。
愛という衝動を。
すべてさらけ出したら――怖かった。
鼻水もでる。涙も零れる。汗も滲む。
様々な液体が、感情と一緒に身体の内側から染み出てくる。ぐちゃぐちゃだ。
「ああ……そうか」
現実的にきみを愛することは、口にすることは。
――勇気がいることだったんだ。
だからこそ、きみの夢の中の俺は。
あんなにも情けなく涙を流しながら。
あられもなく頭を地面に擦りつけて。
きみに訴えたんだ。願ったんだ。祈ったんだ。
それ以上に――届けたかったんだ。すべてをむきだしにしてでも。
――ちょうど今、現実的に俺がしているみたいに。
「せん、ぱい……?」
瞳を震わせる霞音に向かって。
頬に朱が射す霞音に向かって。
俺はつづける。告白する。
「霞音が夢見姫になって、夢みたいな疑似恋愛をはじめてからも。それから覚めたこの瞬間も。ずっとずっときみのことが――好きだ」
線香花火に火をつけて。
儚い光がほとばしる間も。弾ける前も。散ってからも。
「ずっとずっと、霞音のことが好きだ! 大好きだ!! 終わったっていい。それでも霞音と始めたい。霞音と一緒に、これからの時間を生きていきたい。夢を見ているときも、見ていないときも。きみのことを愛してる!」
きみのことを。霞音のことを。
俺は。
「愛してる!! 愛してるんだ、霞音っ!! だから――だからっ! 俺と、ほかでもないこの瞬間。どうしようもない現実で。付き合ってくれええええええええ!!」
そんな、きっと、どこまでも恋愛初心者で。
どこか間違っていて。
みっともなくて。
ぐちゃぐちゃな告白を受けて。想いを受けて。
「……っ」
俺と同じで。
瞳からぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた霞音は。
「――はいっ。もちろんです。おつきあい、させてください」
そんなことを言って。
「私も、せんぱいのことが――大好きですっ」
泣きながら、笑った。
「~~~~っ」
俺はその瞬間。
終わるとか始まらないとか。
そんなことはひとつも考えずに。欠片も思わずに。
きみのことを。霞音のことを。
つよくつよく――抱きしめた。
「っ!」
霞音はぴくりと跳ねたあと、俺の身体を、心を――受け入れる。
「霞音っ」
「――せんぱい」
間違いない、と俺は思った。
今この瞬間。俺はなんの躊躇いもなかった。恐れもなかった。怯えもなかった。迷いもなかった。
俺は本能のままに。衝動のままに。
きみに向かって手をのばした。距離を縮めた。
この弾けるような幸福な瞬間が――永遠に続けば良いと思った。
ああ。間違いなく。
――これが〝愛してる〟の感情だ。
世界でたったひとり。
きみだけに向けられた劇的な心音だ。
「夢じゃないだろうか」と俺は言った。
「夢じゃないかしら」ときみは言った。
至近距離で濡れた視線を交わして。
吐息がかかる熱の中に溶けていくようにして。
俺は。霞音は。俺たちふたりは。
今この瞬間。夢なんかじゃない。
永遠の未来を祈りながら――現実のキスをした。
「「今度はどうか――覚めませんように」」
♡ ♡ ♡
それから俺たちふたりは。
今までの分を。想いを。衝動を。
埋め合わせるかのように。
夜の帷があけるまでのほんの一瞬――
それでいて、永遠にも似た時間に。
ゆっくりと。ゆっくりと。
お互いの愛を――たしかめあった。
ふたりの夢が現実になって――いよいよ次回より最終章です!
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