3-34 好 き だ !
「〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?!」
俺に対して〝恋愛強者マウント〟を取りまくっていた霞音が。
実は内心では俺を『大好き』なのが筒抜けだったと分かって。
霞音は全身から蒸気を吹きだしながら絶句した。
「うっ、あっ、やっ……! まさか、そ、そのようなことが……あぁ、うぅ……」
呂律はあやふやで。
ほっぺたを両手でぎゅうと挟んで。
だらだらと冷や汗を流して。
目はぐるぐると回っている。
「うそ、ですよね……? あれがぜんぶ、夢……?」
混乱をつづける霞音に対して。
俺は霞音が『現実だっと信じていた出来事』のうち、『どこまでが現実には存在しなかった夢なのか』について、できるだけ包み隠さずに話していった。
「……っ! ……っ!?」
霞音は俺の説明を聞くたびに声にならない悲鳴をあげて、全身がさらに真紅に染まっていく。
そして。
「あ、ああああああ……あああああああああ……っ!?」
霞音はいよいよ頭を抱えて叫んだ。
どうやら完全に限界突破のようだ。
「おい、霞音……?」
「う、あ、あああああ、や、あっ……! み、みない、でくださいぃぃぃ――」
霞音は勢いよく布団をかぶり背中を向いてしまう。
「だ、大丈夫か?」
大丈夫なわけなかった。
霞音がここまで俺に対して保ってきたプライドやブランディングのすべてが崩れてしまったのだ。こんな反応になるのも仕方がないのかもな。
俺だってそんなことがあれば、しばらくは学校を休んで、今霞音がしているみたいに布団にくるまって奇声をあげながら悶えていただろう。
いずれにせよ、心中察するぜ。
「と、ということは……あのときも、あのときも――せんぱいは、すべて分かっていたのですか……?」
霞音はおそるおそる布団から顔を出してきいてくる。
「……ああ。もちろんだ」
「っ!」
霞音の髪の毛は目まぐるしく頭上で動いている。
そのうちどこかにすぽんとどこかに吹き飛んでいってしまいそうだ。
「うぅ……あぁ……私、なんてことを――」
霞音は声と体をふるふる震わせながら。
「私の夢が、現実に……? 無理、無理、です……! そんなこと、だって。私、私――」
つづける。
「夢で――せんぱいのこと、見なかった日はありません……」
「っ!」
霞音は『うあああぁぁぁ……』と首を振りながらつづける。
「それに……私。もっと、せんぱいのこと、す、――好きに、なっていて。ですからっ……私の夢の中は、きっとこれから先も、ずっと……せんぱいのことばかりになっていきます……ですが私は、それを現実と、区別することができなくて……う、あ……」
「霞音……」
「せん、ぱい……あ」
霞音は俺の方をちらりと見たあと。
何かに気づいたように「あ」と小さく言った。
「ということは……私のことを『大好き』だとおっしゃってくださったせんぱいは……」
俺は長めの息を鼻から抜いて。
はっきりと。正直に。答える。
「ああ、そうだ。泣きじゃくりながら霞音に大好きだと言ったり、頭を地面に打ちつけて付き合ってくれと懇願していた俺は――夢の中だ。現実じゃない」
「っ……!」
霞音はこくりと何かを飲み込んで。
視線を深く落とした。
その表情はひどく儚げだ。
「そう、ですよね……」
つづいて出した声は、どこか諦めも混じったような響きがあった。
諦めたくないのに。諦めなければならない。
仕方ないと思えないのに。どうしようもない。絶望の音だ。
「ご、ごめんなさい……せんぱいのことを、私の病気に付き合わせてしまい……ぜんぶ、私の夢だったのですね。現実ではない、私が思い描いた、都合の良い妄想で、夢――う、あ……」
霞音はぽろぽろと涙をこぼしながら言う。
「……霞音」
俺は霞音を布団の中からそっと取り出すように引き寄せて。
「せん、ぱい……?」
縮まった距離に驚いたようにしている霞音に向かって。
どこか怯えるように瞳を泳がす霞音に向かって。
大きく深呼吸をしてから。
「霞音……確かにお前が理想とする俺は。お前の夢の中でしか存在しなかったかもしれない。だがな。……いや、だからこそ」
俺は。
言ってやった。
「その夢を今。この瞬間! ――現実に、変えてやる。いや、変えさせてくれ!」
それはどこまでも。
俺がこの現実に来た意味だ。
「霞音! ――好きだあああああああああ!」
「っ!?」
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