3-9 21時から重大発表♡
リリアの〝本気の証明〟は、今夜行われるらしい。
――あ、映った。聞こえてるー?
時間は21時。
俺は自分の部屋でスマホの画面を、そわそわと落ち着かない気持ちで見つめていた。
『今夜、ボクのインスタでライブやるから。見てくれる? 霞音ちゃんも――あと、ユートも良かったら♡』
口ぶり的に、そこで〝本気〟とやらを見せる心つもりのようだが。
「……なんだか、嫌な予感しかしないな」
そもそもリリアの生配信のタイトルからして不穏だ。
なんせ、『21時から重大発表♡』である。
現代を象徴する最高峰女優がそんなタイトルで生配信をするとなったせいで、世界が――嘘偽りなく文字通り世界が――ざわついていた。
各種SNSではトレンド入りし、テレビでも御伽乃リリアの重大発表の件について触れていた。
おかげで全国民を巻き込んだ注目が集まり、生放送が始まったばかりにも関わらず同時接続数は数万をゆうに超え、未だ数字は上昇をつづけている。
コメントもあまりの速度と量にスクロールがまったく追いつかない。
時差を気にせず海外ニキも見ているだろうか、異国語のコメントも多く溢れている。
「考えすぎで終わればいいんだが……」
俺は不安になりながらも、画面の向こうで前座的な会話をつづけているリリアを見つめる。
場所は彼女の部屋だろうか。上半身が写っていて、背景には女の子らしさとお洒落さを絶妙に組み合わせた家具が見える。
霞音も今頃、この放送を見ているだろうか?
――あ、そうだ。重大発表ってことなんだけど。
放送が始まりしばらく雑談があって(この間にも同接数はどんどん跳ね上がっていった。信じ難いことに一千万人すらゆうに超えている)、いよいよリリアが本題に触れた。
彼女はひどく緊張しているような面持ちを浮かべている。(それが演技かどうかもわからないが……演技としたらあまりに自然すぎる素振りだ)
言葉が途切れて、しいんと静まりかえる。
リリアの呼吸音だけがスマホのスピーカーから聞こえている。
コメント欄の奔流は未だやまない。
――ふう。
やがてリリアは。
最後にひとつ。おおきく。
息を吸って。吐いて。
――あのね。
世界中で画面を見つめる一千万人に向けて。
云った。
――ボク、好きな人ができたんだ。
「ぶふう!?」
俺は飲んでいたお茶を思い切り吹き出した。
「な、な、なっ……!!」
画面のコメントはもはや『人に読ませる気ないだろ! 全世界動体視力コンテストか!』という速度で投下され溢れていく。
視聴者数も今まで生きてきて見たこともない数字に達している。
つまりは――とんでもない騒ぎが。
今この瞬間に。スマホの画面を介して全世界で巻きおこっていた。
「冗談、だよな……言い間違いだと、言ってくれ……!」
しかし。
信仰者たちの阿鼻叫喚などすこしも気にもしない様子で。
絶対偶像の爆弾発言はつづいていく。
――えっとね? 相手は同じ学校に通ってる人で。
――私のファンらしいんだけど。
――でもその人。現実的には、他に『好きな人』がいるみたいで。
――なかなか振り向いてもらえなくって。
――だからね。みんなには。
――この恋が成功するように、応援しててほしいな♡
その瞬間。
SNSのサーバーが世界規模でクラッシュした。




