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1-19 せんぱいと一緒なら撮られても構いません

「せんぱい。もうすこし()()()に来てください」

「おう……こうか?」

「っ! ち、近すぎです、もっと離れてください」

「す、すまん! これで、いいか?」

「今度は離れすぎです。()()から見切れてしまっているではないですか」

 

 街中デートの終盤。

 俺たちは歩いていた時に見かけたゲームセンターに入って、これまた中で見かけた【プリクラ】とやらを撮ることになった。(『せんぱいが撮りたいというのでしたら――(ちらちら)』という流れについては最早いつものことなので、省略しておく)


 俺は当然プリクラなんてハジメテだったが、それは霞音も同様だったらしい。音声付きの操作方法の案内にいちいち『!』や『?』を頭上に浮かべながら、どうにか撮影をすすめていった。

 

「あ、せんぱい。まもなく撮影がはじまってしまいます……!」

 

 画面とアナウンスで撮影までの秒数がカウントされはじめた。


「つっても、どうすりゃ……あ」

 

 霞音との距離感を決めかねている俺をよそに、ぱしゃぱしゃと撮影がはじまった。俺は相変わらず端っこの方で動けずにいる。まずい、このままでは見切れ写真が量産されてしまうぞ。


「せ、せんぱい――ここで動かないでくださいっ」

「へ?」

 

 俺は霞音によって中央に立たされた。

 そして次の撮影のタイミングで、3、2、1――


 霞音が俺の半身に、きゅうと抱きついてきた。

 ぱしゃり。

 

「……なっ!?」

 

 俺の喉から引きつった声が漏れる。

 当たり前だ。俺の腕には――霞音の、その、あたたかくて、柔らかいナニカがあたってしまっているのだから。

 

 しかし霞音は撮影に必死でそのことに気づかず、むしろそのナニカを強く押し当ててきた。


「せ、せんぱい……! 笑顔、ですっ」


 笑顔、と言ってくる霞音の顔だって。

 目はぐるぐると回り、唇は震えて、頬は上気(じょうき)し。

 とてもじゃないが〝笑顔〟とはいえないものだった。


「え、笑顔だな? わかった……」

 

 案内音声が次の撮影で最後である旨を告げた。

 混乱する思考(と火照る身体)をどうにか落ち着けて、3秒間のカウントダウンが終わるまでに、お互いに今できる全力の笑顔をつくる。


 ぱしゃり。甲高い案内音声は『おつかれさま~』となんとも軽い労いの言葉をかけ(本当に疲れたぜ)、隣の落書きコーナーに移動するよう促してきた。

 

「――できたな」

「は、はい。できました」

 

 すとん。完成した写真が機械の横から落ちてきた。

 選んだのは唯一ふたりがまともに写っていた、俺の腕に霞音が抱きついてきた時のものだ。(他の写真は案の定ぶれていたり見切れていたりで散々なものだった)

 下の方にはデフォルトの白いペンで『かすね』『ゆうと』と名前だけが遠慮がちに入っている。

 

 そして表情には、お互いどうにか作ったぎこちない笑顔が浮かんでいた。


(ふむ。百点満点とはとても言えないが、これはこれで味があるというか、俺たちらしいというか)

 

 近くのテーブルにあったハサミでシールをふたつに分けて、片方を霞音に渡す。


「ありがとうございます。たいせつに、しますね」

「おう」

「せんぱいは――満足、されましたか?」


 霞音が上目遣いできいてきた。


「ん? ああ、そうだな。()()が叶ってうれしいよ」


 俺はいつもみたいにそう答える。

 

「ふふん、そうですか」

 

 霞音はシールで口元を隠した。

 しかし隠し切れていない唇の端が、嬉しそうに緩んでいるのを俺は見逃さない。

 

「あ……つうか。霞音は写真が苦手じゃなかったか?」


 俺はふと気になってきいてみた。 

 スマホの撮影とはまたすこし違うかもしれないが、冷静に考えたらプリクラも写真みたいなものだ。

 

「はい。撮られた写真が、私の知らないだれかに見られることは苦手ですが――相手がせんぱいであれば、まったく問題はありません」

 

 霞音はなんてことないようにそう言った。


「ふむ。そういうもんか」

「はい、そういうものです」


 霞音は頭上の髪をゆっくりと揺らしてから手元のシールに目線を落として、愛おしそうに微笑んだ。


 

「――せんぱいと一緒でしたら、とくに」



 ふむ。

 どうやら俺との写真は、霞音にとって()()と見なしてくれるらしい。



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