ワクワク学園生活!
無事、学園に入学した僕とマイナ。僕たちが入学した魔術剣士学校は、名前の通り魔術や剣術を学べるだけでなく、研究者や鍛冶屋などの専門的な学問も学ぶことができる。この世界では、最先端の学校なのだ。まあ、僕には学ぶことがないわけだけど、マイナにとっては学べることが多いだろうから、彼女のこれからの成長は楽しみの一つである。前世でも、一からサポートしたトレーニーが立派に独り立ちした時は、涙を流したものだ。
思い出に浸っている間に、馬車が学園に着いた。クラスは入学試験の成績順に割り振られるのだが、僕とマイナは同じクラスの一組。主席合格した彼女はともかく、第一試験と第二試験を散々な結果で通過した僕が一組なのは、明らかに第三試験の結果が影響しているに違いない。
しかし、なんであの時ダイデン兄さんが現れたのだろうか。兄さんは、この学校を卒業して王国騎士団で活動しているはずなのだが、自分のトレーニングに花を咲かせすぎていたせいで、家を出た後の身内の詳しい動向は聞いていなかった。まあ何はともあれ、兄さんも元気そうで何よりだ。クラス表を見て嬉しそうなマイナを尻目に、一組のクラスに向かった。
教室に入ると、試験で見かけた人物がちらほらいる。僕が席に着くなり、ぞろぞろとクラスメイトが駆け寄ってくる。
「君、名前は?」
「マスル•プロティンだけど。」
「マスル君か! 最終試験の試合みたよ!」
「お前、ほんとに人間か!?」
「あの試験監督、有名な騎士団の隊長なんだよ!」
「騎士団長を倒しちゃうなんて、あなた何者!?」
など、質問の嵐。やっぱり、こうなっちゃうよねー。みんな、あの時の僕の筋肉に見惚れて、話しかけてきてくれるなんて、なかなか話が分かるじゃないか。大勢の生徒に囲まれているところに、聞き慣れた声が割り込む。
「ちょっといいかしら。そんなに大勢で囲んだら、彼が困ってしまうわ。」
マイナがみんなに注意を促す。ちょうどその時チャイムが鳴り、みんな各々の席に座って行った。すると、教室の扉が開いたので先生が来たのかと思って目を向けると、なんとそこには、
「やあ、みんな。入学試験お疲れ様。私の名前は、ダイデン•プロティン。このクラスの担任になったから、皆んなこれからよろしくね。」
「ダ、ダイデン兄さん!?」
なんとダイデン兄さんが、僕のクラスの担任になったのだ。王国騎士団にいたのではなかったのか? そんな疑問が浮かぶ中、続けて、
「僕は普段、王国騎士団の副団長を務めているんだけどね、今年は優秀な生徒が入学してくるとのことで、僕が直々に指導する事になったんだ。」
副団長!? 出世したなぁ。
「そこにいるのは僕の弟なんだ。みんな仲良くしてやってくれ。」
熱い視線が一斉に注がれる。こりゃまた、休み時間も忙しくなりそうだ。そんなこんなで、兄さんの自己紹介が終わり、一人一人自己紹介をしていくことになった。ぼんやり聞いていたが、みんな中々の経歴があったり、いいところのお嬢様だったり、中流貴族の僕は少し肩身が狭くなった。中でも、
「お初にお目にかかります。わたくし、ベリー•フロンタルと申しますわ。皆様とご一緒に学べる事、とても光栄に思っております。よろしくお願い致しますわ。」
あの子、どこかで見たことあると思ったら、入学試験で僕の前にいた、上級魔法使ってた人だ。フロンタルって言うと、僕たちが住むこの王国の一族、つまり王族だ。とんでもない方とお会いしたなー。なんか、とんでもない所に来てしまったと焦っているうちに、僕の出番が回ってきた。入学早々、恥をかくわけには行かない。ここはビシッと決めなければ。
「マスル•プロティンです。趣味は筋トレで、好きなことは、筋肉達とおしゃべりすることです。よろしくお願いしまーす。」
決まった。完璧な自己紹介だ、誰に聞かせても恥ずかしくない。しかし、周りの反応を見てみると、関わってはいけないものを見ているような、そんな冷たい視線を感じた。何かやらかしただろうか? そんなこんなで自己紹介を終え、各々が選択した科目の教室に向かう中、僕は兄さんに呼び止められた。
「やあマスル、久々だね。元気そうでなによりだ。」
「ダイデン兄さんこそ、元気そうで良かったよ。中々帰ってこないから、みんな心配してたよ。まさか王国騎士団の副団長にまで上り詰めてるとはね。」
「まあね。色々苦労したさ。」
そんな他愛の無い話をいくつかすると、ダイデン兄さんが話題を変えた。
「それより、マスル。最終試験の試合。私も見ていたよ。あの姿は一体なんなんだ? 私が家にいない間に何があった。」
やっぱり、そこ聞かれちゃうか。家族のみんなには隠していたから、驚かれるのも無理はない。
「僕も、兄さん達に負けないように、日々、鍛錬していたのさ。その成果が実を結んだんだ。」
「昔からお前は、一人でふらりと何処かへ行っていたからな。まさか、あれ程の力を蓄えていたなんて、一目見ただけではお前とは分からなかったぞ。」
「えへへ」
「しかし、相変わらず魔法と剣術はからっきしだから、そこはこれから鍛錬で磨いていこう。私もついているから。」
「アハハ。ガンバルヨ。」
これからの学園生活、何を学んでいけばいいやら。先が思いやられるな。
一方、その頃。とある館にて、数人の男女が円卓テーブルを囲み、会議を行なっていた。
「それで? 施設から逃げ出した娘がいたそうだが、その後どうなった?」
「プロトフェンリルを向かわせたが、回収班によると、何者かによって周りの地面ごと真っ二つに裂かれていたと。」
「なに!? プロトタイプとはいえ、あのフェンリルをか!」
「それに、カタボリック様の贄となる娘達を攫わせていた盗賊団も、何者かによって殲滅されていた。」
「一体、誰の仕業なんだ。」
「ぜんぶお前の管轄だろ。なぁ? ネイザリス。」
「い、いずれも現在調査中だ。」
「盗賊団はともかく、施設の娘が逃げたことは重大だ。我々の存在が外部に漏れては決してならない! どう落とし前つけるつもりだ?」
「わ、わかっている! 必ず見つけ出し、即刻処分する! それに、娘には発信機も付けてある。準備が整い次第、スルトを派遣する。」
「二度目は無いぞ?ネイザリス。」
「(くっ! 何故私がこんな目に! No.0789め! 待っていろ……必ず私が殺す!)」
不穏な陰が王都に迫るのであった。