いざ魔術剣士学校へ!
前回の一件で、名も知らない女の子のトレーナーになった僕。魔術剣士学校の入学試験まで時間があるので、行きつけの森で彼女のパーソナルトレーニングをする事にした。到着してすぐに、筋トレ指導を始めた。
「んじゃあ、早速始めようか。君は戦闘経験とかあるの?」
すると、彼女は不服そうな顔をして、
「君、じゃないわ。私にはマイナという立派な名前があるのだけれど?」
「マイナさんね。わかった。これからそう呼ぶよ。」
「マイナよ。呼び捨てでいいわ。」
食い気味だな。
「わ、わかったよマイナ。さっきの質問の答えを聞いていいかな。」
少し曇った表情で彼女は言う。
「剣術を少し、齧ったぐらいかしら。」
なるほど、通りで広背筋と上腕三頭筋が発達してるわけだ。基礎がわかっているなら話が早い、森にくるついでに、実家から拝借した剣を彼女に振るってもらった。
「いいね。基礎が出来てるなら、その動きに従った筋肉を鍛えていけば、格段に成長するはずだよ。大丈夫!必ず君を立派なトレーニーに育てて見せるからね!」
「え、ええ……よろしくお願いするわ。」
そこから、限られた時間で片っ端から出来ることを実行していき、彼女が学校に入学できるよう熱心にサポートした。厳しいトレーニングをやり遂げた彼女の肉体は、出会った頃より格段に成長していた。
「よし、そこまで。今日のトレーニングはここで終わり。今までよく頑張ったね!」
「ありがとう。まるで生まれ変わった見たいだわ。今なら何でもできる気がする!」
そう言う彼女は、剣を引き抜き、目の前の大木に向かって、斬りつけた。すると、大木が細かく切り刻まれて、バラバラになっていた。
「お見事。明日から試験だし、家に戻ろうか。」
こうして、僕とマイナのムキムキ筋肉強化合宿は、終わりを告げた。
そして、いよいよ入学試験当日。空は眩しいほどの快晴で、試験日和ってやつだ。
僕とマイナは試験会場に向かった。いつにも増して、真剣な眼差しの彼女を見るに、気合い十分のようだ。
会場に入ると、大勢の入学希望者で溢れかえっている。試験に向けて、剣を手入れする者。精神統一をする者。皆それぞれ試験に向けての準備をしているようだ。彼女も緊張しているのか、少し筋肉達が強張っていた。僕は、彼女を励ますように、
「大丈夫だよ、マイナ。今の君は以前より、格段に成長している。自分の持てる全てをぶつけるだけさ!」
すると彼女の表情が和らぎ、
「ええ、そうね。あなたに付きっきりでサポートしてもらったもの。必ず合格してみせるわ!」
それでこそ君だ。すると、試験監督の先生が教壇の前に立ち、僕たちに向けて、
「今日はお集まりいただき、ありがとうございます。これより入学試験を始めます。推薦組と一般組で会場が分かれておりますので、教員の指示に従って移動してください。」
マイナに激励の言葉を送り、僕は推薦組の会場に向かった。そこには名の知れた実力者達がぞろぞろと集まっており、この姿の僕では場違いな気がしてならなかった。
「それでは、第一試験を始めます!前方にある的に向かって、ご自身が得意とする魔法を放ってください。その威力と難易度に応じて点数が加算されます。それでは一番の方、こちらへどうぞ。」
試験監督の合図から始まり、一人ずつ名前が呼ばれていく。流石は推薦組とあって、みんなレベルが高い。
「次、ベリー•フロンタル様、前へ。」
彼女は的の前に立ち、魔法を放つ。とてつもない威力で、周りに砂埃が舞う。彼女が放った魔法により、地面が大きく抉られていた。その年でもう上級魔法が使えるなんて、流石は推薦組だな。
「続いて、マスル•プロティン殿、前へ。」
ついに僕の番が来た。的の前に立ち、腕を構え、魔法を唱える。魔法など久しく練習もしていないので、嫌な予感しかしないのだが、オリス姉さんに教えてもらったことを思い出し、的に向かって魔法を放つ。炎系の初級魔法。
「チャッカ!」
勢いよく放たれたチャッカは的に向かって一直線に飛んだ。……かのように思われたが、勢いが良かったのは初めだけで、すぐに地面に華麗に着地した。唖然する周りの人たち。僕は気を取り直して、もう一度魔法を唱える。
「チャッカ!」
またもや地面に華麗に着地。
「チャッカ!チャッカ!チャッカァァァァ!!!!」
全弾不発。とにかく死にたかった。颯爽に順番を交代し、第二試験会場へ向かうことにした。
続いての試験内容は剣術。ここでは身のこなしや、剣の扱い方などが試される。僕はもちろん剣などまともに持ったことがない。しかし、さっきの二の舞にはなるものか。僕の名前が呼ばれ、先ほどの汚名返上を目指し、目の前にある人型の木材に剣を振り下ろす。力一杯込めて振り下ろした剣だが、木材に当たるまでに粉々に砕け散ってしまった。周りは唖然。新しい剣で再度挑戦するも、結果は同じ。いくら推薦とはいえ、確実に落ちたと思うが、一応まだ試験は残っているので、渋々ながら最終試験に臨む事にした。
最後の試験というのが、教員との模擬試合というものだった。ここでは実践での戦闘センスを見られるらしく、どんな戦い方でもいいとのことだった。もし勝つことができれば、なんと入学が確定する。今までの試験はなんだったんだ?! 無駄に恥かいただけじゃん! しかし、ここは神の肉体の見せ所だ!と意気込む僕。皆それぞれ素晴らしい戦いを披露している中、僕の番が回ってきた。お相手の先生は、中々たくましい筋肉の持ち主で、特に鍛え上げられた上腕二頭筋と三頭筋に目が行ってしまう。お互い礼をし、剣を構える。僕は例の如く、戦闘態勢に入る。
「マッスルチェンジ!」
その一言で、僕の肉体から蒸気が立ち込める。驚くみんなの視線を感じながら、僕の体は形態変化していく。
「完成……。マッスルスタイル『ノーマルビルダー』!!」
あまりの変貌ぶりに、驚愕の表情向けるオーディエンスを尻目に構える。すると先生が、
「な、なんだその姿は! てか君は誰だ!? 私は先ほどまで、マスル•プロティン君と対峙していたはずだが!?」
「何を言います。僕がそのマスル•プロティンですよ。」
「そんなバカな! 人間があんな急激に肉体を変化させるなど、不可能だ!デタラメすぎる!」
フンッ。常人には理解も及ばぬ領域。それがまさしくこのマッスルスタイル! さあ、刮目せよ。これが神の力ぁ!!
「では行きますよ、先生。しっかり採点してください!」
勢いよく飛びかかる僕。だが、いくら先生とはいえ、本気でやると殺してしまうので、普段の2%ほどで戦うことにした。
右ストレートを先生に繰り出すが、間一髪で避けられてしまう。流石は先生、この程度の攻撃では倒せないか。
「なんてスピードだ。あの肉体であれほどのスピードで動けるなんて。ええい! こうなったらヤケだ! とことんやってやらぁ!」
先生も果敢に攻める。先生の刃が僕の腹斜筋に当たるや否や、剣が粉々に砕け散る。
「はへぇ??」
立ち尽くす先生。驚く周りの観客たち。これぞ、ダイヤモンド超えの我が筋肉! 僕の肉体の前に刃物など、紙切れ同然! 右足を構え、ローキックをしようとした瞬間、
「そこまで!」
どこからともなく聞こえた覚えのある声に、僕は足を止めた。奥から現れた懐かしい顔、間違いない。あれは……
「ダイデン兄さん!?」
「久しぶりだな、マスル。お前もここに入学しに来ていたのか。」
「う、うん……」
「それより、すでに勝負は付いた。お前の勝ちだ、マスル。」
先生の方に目を向けると、立ったまま気絶していた。
こうして、この試験に勝利した僕は、無事に入学することができたのだ。一方のマイナは、魔法はそこそこだが、剣術と実践試験で脅威の成績を叩き出し、特待生としての入学が決まった。しかし、周りの様子を伺うと、波乱の学園生活が始まる予感がした。