筋肉の神、爆誕!
あれから四年の月日が経ち、遂にこの日が来た。あの気の遠くなるトレーニングの日々から、遂に僕の肉体は神の領域へと至ったのだ。長い年月を掛け完成された究極の肉体は相対する全ての生物が畏怖する存在へとなっていた。
「遂に……。遂にやったんだ僕は!! 長年求め続けた神の領域に到達したんだ!」
僕は、長年の努力が遂に芽を出した事に喜びを隠せなかった。早くこの力を試したい! と、この力を振るえる場所を探して、かつて怪鳥くんを倒したバードミー島を訪れてみることにした。
例の如くそこそこ遠い場所なので全力ダッシュで向かうのだが、三年前は一時間掛かっていたところを五分で辿り着くまでに成長していた。流石は僕の筋肉だ! そんなこんなで懐かしのバードミー島に着いた僕は、力を振るうに相応しい相手を探して彷徨っていた。怪鳥がいなくなった森は、かつての霧に隠れた薄暗い森ではなく、鮮やかな緑色に包まれて本来の姿を取り戻していた。
だがそんな中、妙な気配を感じ、向かってみると黒いマントを羽織った男数人が森にテントを構え、たむろしていた。こんな辺境の森で何してるんだ? 観光客かな? と呑気に観察をしていると、リーダーと思わしき男がテントの中から姿を現した。すると男は言う。
「収穫作業はどうなっている?」
「はい! 順調でさぁ!」
「そうか。傷はつけていないだろうな? 商品の価値が下がるから丁重に扱うように」
「わかってますよー。しっかし今回も上物がいっぱいですよ。へっへっへ。」
「こいつらが高く売れれば、また当分遊んで暮らせるってもんだ。だが油断はすんなよ? 怪鳥が何者かに倒されたとはいえ、魔物がいないとも限らねぇからな。」
収穫作業? 上物? この人たち農家さんか何かなのかな? 僕が怪鳥を倒してからは普通の森になったし、農業する人も現れるよね。にしてもこの人達なにか怪しいんだよなぁ。ちょっと筋肉達に聞いてみよう。
「(ねぇ、君たち。この人達はここで何をしてる人たちなの?)」
「(こいつらはここに攫った貴族の子供や女達を奴隷商人に売り捌いて金を稼いでるゴロツキ共だぜ!)」
なるほど……。やっぱり悪い人達だったのね。見た目がいかにもって感じだし、ここはいっちょ仕掛けますか。
そして、ゴロツキ達の下へ姿を現す。すると僕に気づいたのか驚いた様子で、
「誰だてめぇ?ガキがなんでこんなとこに」
「お兄さん達、こんなところで何してるんだい?」
「チッ、男のガキは売っても金になんねぇ。とっとと始末しろ。」
「アイアイサー!」
リーダーの言葉を聞くなり、どこからともなく、ゴロツキ達がゾロゾロと僕の周りを囲む。子供相手に大勢で掛かるなんて、大人の風上にも置けない奴らだよ。しかし、神の領域に至ったこの肉体の前では蟻んこ同然。
「へぇ…。この僕を始末するって? ならお見せしよう……。神の肉体を!」
「ふん! ガキが! 切り殺してやるよ! 死ねぇ!」
一斉に飛び掛かるゴロツキ達。フンッ、そっちがそう来るならお披露目と行こう。秘められた筋肉を解放するや否や、たちまち僕の周りに蒸気が立ち込める。
「な、なんだ!?」
たまらず立ち止まるゴロツキ達。少しずつ蒸気が晴れていくのと同時に、異様な光景が目に映る。少年は身体はメキメキ、ドスドスと音を立てながら、肥大化していく。ゴロツキ達の身体は震え、本能的な恐怖を感じ、ただ見ていることしかできなかった。気づけばそこに、先ほどの少年の面影はなく、体長はざっと三メートル程の巨体に、全身が異常に発達した筋肉に覆われた大男の姿があった。ゴロツキ達はたまらず、
「な、なんじゃこの化け物は!?」
「さっきのガキはどうした!? いつのまにこんなバケモノがここに!?」
「アワワワワ……」
「何を言う。僕がさっきのガキだよ! さあ、力試しといこうか!」
僕は上空に大きく飛び上がり、拳を握りしめて思いっきり地面に叩きつけた。凄まじい衝撃波と共に、ゴロツキ達は吹っ飛ばされ跡形もなく散っていった。
「ワァオ……。これはすればらしい!」
僕はリーダーの方を向いて言う。
「最後は君だけだ。」
「な、なんなんだお前は……。魔力も使わずこの威力だと!? デタラメすぎる!!」
「だが所詮は丸腰の肉ダルマ!これでも食らえ!」
ゴロツキが僕の方に手をかざし魔法を放つ。
「燃え尽きろ!!ネンショウ!!」
中級魔法を僕に放ち、火の玉が僕に向かって一直線に飛んでくる。そして火の玉が僕の体に直撃した。
「ハッ! どうだ! ザマァ見ろ! 見た目は化け物でも所詮はガキ! そのまま燃え尽きろ!」
メラメラと燃え盛る僕の体。しかしほんのり温かいだけで特に熱くともなんともない。僕はササッと手で体を仰ぎ、僕を覆っていた炎を振り払った。
「ハァァァ!!??」
あまりの異様な光景にゴロツキのリーダーが度肝を抜いていた。
「もう終わりかな?じゃあ次は、僕の番だね!」
そう言うと僕は、左腕の上腕二頭筋と上腕三頭筋を大きく肥大化させ、瞬時に相手の懐に駆け寄り、相手の腹部目掛けて必殺の一撃を叩き込んだ。
「ぐぬわぁぁぁぉぉぁぁ!!!!!」
あまりの衝撃にゴロツキの身体は、遥か上空に吹き飛び、塵となり消えた。
「ふぅ〜、成敗成敗っと。」
ゴロツキを全滅させた僕は、ゴロツキのテントの裏に置いてあった場所の荷台を確認したところ、数人の少女や若い女性達が、檻の中に鎖で捕えられていた。僕はその荷台を近くの街の警備隊の人たちに任せ、自宅までスキップで戻った。しかしまさかあんな事になるとはなぁ。でもこの力……まさしく神の領域に至っていた! それがわかっただけでもいい収穫だったと思う。こうして僕は、念願の神の肉体を手に入れたのであった。