優秀なブラザーズ
いつも通りトレーニングに花を咲かせていた僕は、行きつけの森で愛する筋肉たちと対話をしていた。そんな時後ろから僕を呼ぶ声がした。
「おーい!マスルー。」
思わず耳を塞ぎたくなるような大声で僕を呼ぶのは、次男のハムスト•プロティン。剣の才に恵まれ、神速の刃と評されるほどの戦士である。
「まったこんなとこで遊んでんのかぁ?いつまで経ってもガキなんだからよーおまえは。」
いつもこうやって、僕のトレーニングをバカにしてくるのだ。断じて遊んでいるわけではない。僕にとって、筋肉は命。普通の人で言う呼吸みたいなものなのだ。
「お前もプロティン家の一員なら、魔法の練習でもしたらどうだぁ?お前運動能力はそこそこだが、魔法に関しては初級魔法のチャッカもまともに飛ばせねぇと来たもんだ。オリス姉さんに稽古つけてもらってそれだもんなー。」
そう、僕は魔力を肉体改造に活用しているが、本来この世界での魔力は魔法として昇華し火の玉を飛ばしたり、剣に付与して攻撃力を増したりするのが普通だ。だが、僕はその魔法というものをいまいち理解が及ばず、初級魔法すらまともに使えないのだ。
「いいじゃないー。人それぞれ向き不向きはあるものよ?マスルはマスルの出来ることをやればいいんだから!。」
僕を励ましてくれるのは、長女のオリス•プロティン。魔法の才に恵まれ齢十四歳にして上級魔法を使うことができる。オリス姉さんに魔法の使い方を教えてもらってはいるのだが、僕には才がないようだ。
「そこまでにしておきなさい!ハムちゃん。」
「だから、俺をハムちゃんって呼ぶな!ペクトラ!」
「いいじゃないー。ハムちゃんってかわいいでしょー?」
ハムスト兄さんをからかのは次女のペクトラ•プロティン。召喚術士の才に恵まれ、どうやら魔力で物や眷属を作り出すことができるらしい。その精度は齢十三歳にして達人レベルで、王国から高く評価されてるとか。
「みんなしてどうしてここに?」
「母ちゃんが『またマスルがどこかいった』って騒いでて探しに来たんだよ! 全く母ちゃんもマスルにだけは過保護なんだからよー」
「仕方ないわよ。マスルは末っ子なんだしー可愛いもの! ね! オリス姉様?」
「 そうねー。でもマスルもあまり遠くへ遊びにいってはダメよ?」
全く、みんな心配しすぎなんだよなー。僕、前世では立派な大人だったから、年下の子たちに子供扱いされるとなんとも言えない気持ちになる。
「はーい。ごめんなさーい。」
とりあえず、外出禁止になったら困るので謝っておく。ここにはいないが、たまにしか返ってこない長男のダイデン•プロティンがいる。魔術剣士学校に通っているのだが、学生にも関わらず、魔術も剣術も達人レベルで、王国騎士団の隊長を任されるほどの魔剣士だ。
こんな才に恵まれた兄と姉を持っているがため、周りから末弟の僕は落ちこぼれだと噂されているのだとか。魔術師や戦士になりたいわけではないので、変に期待されることもなく、のびのび筋肉たちと対話が出来るという訳だ。
「とりあえず、もう日も落ちてきたし、とっとと帰るぞー。これ以上待たせたらまた母ちゃん倒れちまうぜ」
「そうね。ほら、マスル。お姉ちゃん達と一緒に帰りましょ?」
「はぁ〜お腹減ったー! マスルも早く帰んないとお姉ちゃんが全部食べちゃうからねー!」
「もーわかったよー僕もいくー!」
こうして、才に恵まれた兄姉たちに囲まれながら、僕はこれからも筋肉の極みへと昇っていくのだった。