長期休みの中盤ってやる事なくなるよね
楽しいプチ旅行も終わり、実家に帰省してやる事が無くなってしまった。長期休みを半分以上何もせずに終わっちゃうのは、僕だけではないはずだ。
あまりにも暇なので、意味もなく街ぶらする事にした。誘拐事件からは、ぱたりとトラブルもなく平穏な日々が続いている。
平和が一番だよねー。たまには目的もなくぶらぶら過ごすのも悪くない。出店で買った昼食を公園で食べていると、やけにニコニコした女の人が話しかけてきた。
「すいません〜、少しお時間頂けませんか?」
「あ、はい。どうぞ。」
そう言うと、女性は僕の隣に座った。
「わたくし、アナボリック教のシスターをしてまして……アナボリック教をご存知ですか?」
アナボリック教?
聞いた事ないな。この世界の宗教とか、興味ないから調べてなかったけど、こっちにもあるもんなんだな。
「い、いえ。」
そう答えると、ニコニコお姉さんがある紙を渡してきた。
「そうですか! もし興味が湧きましたら、こちらの場所にお越しください。神はいつでも歓迎致しますわ。では失礼。」
そう告げたニコニコお姉さんは、満足そうに去っていった。……一体なんだったんだろう? 手渡された紙を読んでみる事にした。
なになに……? アナボリック聖堂に初めてお越し頂いた方限定で、プロテイン10キロプレゼント……?
じゅっ、じゅっ、10キロぉぉぉ!?
マジで!?
行くだけで!?
10キロもあれば、1日で28g使うとしたら、ざっと計算して、10年分もらえるって事だよね!?
その瞬間、僕は走り出していた。考えるより先に、身体が勝手に動いていた。僕たちトレーニーにとって、プロテインとは酸素。なくてはならない存在。大量に、しかも無料でもらえるなら、喜んでどこまでも飛んでいくのだ。
アナボリック教とか、少しひっかかる名前だけど、そんな事は関係ない。とにかく今はプロテインだ!
久々に本気で走って、アナボリック聖堂に向かう。聖堂はアナボルという国にあるみたいで、王国からざっと馬車で二日ほど掛かる。まあ僕の全力なら、三十秒も経たずに着いちゃうんだけどね。
そんなこんなで即刻到着した僕は、勢いのままに聖堂に向かう。アナボルは宗教活動が活発な国で、その国民のほとんどがアナボリック教信者なのだという。そんな人気な宗教なんだな。僕は神様には興味ないから、適当に話聞いてプロテインもらって帰ろ!
少し歩くと聖堂が見えてきた。聖堂前で掃除をしているシスターがいたので、話しかけてみることした。
「あのー、すいません。」
僕が話しかけると、ビクッと肩を跳ねらせるシスターさん。
「は、はひ!?」
「あ、ごめんなさい驚かせてしまって。」
「い、いえ! 何か御用でしょうか……」
「このチラシ見てきたんですけどー。」
するとシスターさんは、顔をパァーッと輝かせて、
「それはそれは! わざわざお越しくださりありがとう御座います! どうぞどうぞお入りください!」
快く案内してくれた。中に入ってまず目に止まったのは、天に向かって手を掲げる女性の像があった。太陽の光に照らされる様子は、とても神々しかった。
「これは?」
「この方は、女神アナボリック様です。かつて、世界を滅さんとする邪神カタボリックから、この世界を救うために立ち上がった女神様です。」
邪神カタボリックって、あのカタボリック!?
「見事、邪神カタボリックとの戦いに勝利した女神様の功績を称え、アナボリック教とこの聖堂が建てられました。」
ということは、僕たちが戦ってるカタボリックという組織は、その邪神を崇拝する集団ってことかな。
「この像に祈りを捧げると、幸運が舞い降りるとも言われております。ぜひ祈りを捧げてみてはどうでしょう。」
一種の参拝みたいな感じかな。いい機会だし、僕の筋肉のさらなる発展でも願っておきますか。シスターと一緒に、像に向かって合掌しながら目を閉じて祈りを捧げた。あれ、なんだか身体がポカポカしてきた。すごいな、異世界は。こんなシステムまで搭載してるんだ。
よし、これぐらいでいいかな?
目を開けると、シスターさんがいなくなっていた。てか、ここどこ?
さっきまで居た場所とは、全く違う空間に立っていた。像もないし……なんだここ?
あたふたしていると、右胸がピクピク痙攣し出した。僕の筋肉が何かを察知したようだ。
右胸に誘われるまま進んで行くと、大きな扉が突如現れた。ドアノブも何もないので、どうやって開けるのか見当もつかない。手当り次第ペタペタ触っていると、ガチャっと大きな音を立てながら、扉が開いていく。
先には、真っ直ぐ一本道の通路が続いていた。その左右には石像が並んでおり、どれも屈強な肉体をしている。すべて美しい筋肉が彫刻されており、思わず見惚れてしまう。
「ん? てか、これ……。」
石像達をよく見てみると、前世の世界で活躍していた有名ボディービルダー達だった。なんでこんな所に、前世の著名人の石像があるんだ?
若干の疑問を抱きつつ、さらに進むと、また扉があった。今度は普通サイズ。ぼーっと扉を眺めていると、筋肉達が目的地はこの先だと教えてくれた。一体なんの部屋なんだ? とりあえずノックしてみると、
「……入っていいわよ。」
中から、女の子の声がした。扉開けるとそこには、長い金髪の髪に白いワンピースを着た少女が座っていた。
「やっと来たのね。ずっと待ってたんだから。」
待ってた? 僕を?
「久しぶりね、ここではマスルだったかしら。」
どうして僕の名前を? しかも、ここではってなに?
「君は?」
「なに? 覚えてないの? あたしよ、あたし!」
新手の詐欺かな……?
「生憎、君みたいな女の子と知り合った記憶はないよ。」
ため息をつく彼女。
「前世で一度だけ、貴方に話しかけたわ。頭の中でね。」
「頭の中で……って! もしかしてあの時の、謎の声!?」
「そうよ。」
マジかよ。あれって幻聴じゃなかったんだ。
「まだ名乗って無かったわね。アタシの名前は、アナボリック。女神アナボリックよ。」
アナボリックって、あの女神像? 随分見た目が違うな。こんなに小さく無かったし。
「貴方、女神像と全然違うじゃないか、と思ったでしょ!」
「い、いやぁそんなことないよ……。」
「これには訳があってね。邪神との戦いで力を消耗したせいで、この姿になっちゃったのよ。ここからも、ここも自力じゃ出られないし。」
筋肉に聞いた所、彼女がアナボリック本人で間違いないらしい。しかし、なんで女神様なんかが、前世の僕にアドバイスなんてしたんだろ?
「貴方をここに呼んだのは他でもないわ。この世界に、再び闇が訪れようとしているからよ。」
「闇?」
「貴方も知っているはずよ。邪神カタボリックとそれを崇拝する組織が、活動を活発化させていることを。」
「確かにカタボリックとは、何度か戦ったけど、あいつらの目的ってなんなの? というか、邪神は君が倒したんでしょ?」
「いいえ、倒せてないわ。封印しただけよ。」
「カタボリックの狙いは、邪神カタボリックの封印を解き、再び世界を闇に染める事なの。奴らは主に、女子供を生贄として生命エネルギーを搾取し、カタボリックに与え続けているわ。」
だから、ベリーが狙われた訳か。
「邪神カタボリックの封印は、もうすぐ解かれるわ。そうなれば、この世界は滅びる。そこで、貴方を転生させた訳。」
なんで、そこで僕が出てくるんだよ。
「アタシは、前世の頃から目を掛けていたのよ? 貴方のその類い稀ない潜在能力。鍛えれば、神の領域に至るって。でも貴方ストイック過ぎて、すぐ死んじゃうし。だから、この世界でやり直させたのよ。」
「その節は、どうもありがとうございます……。」
「その様子だと、神の領域に至ったようね。」
「もちろん。僕のトレーニングの賜物でね!」
「貴方なら、カタボリックを止められる。この世界を救う救世主、それが貴方よ。」
救世主? 僕がなりたいのは、ボディービルダーなんだけどな。
「でも、今のままでは足りないわ。更に高みを目指すのよ。アタシが補助してあげる。」
「え、筋トレ手伝ってくれるの?」
「ええ、これから先、さらに強大な魔の手が貴方を襲うわ。そのために、もっと力をつけるのよ!」
女神様に手伝ってもらえるなんて、光栄だな。
「とりあえず、これからはアタシも同行するからね!」
「え、同行するってどうやって?」
「簡単よ、貴方の中に入ればいいし。」
そういうと、彼女は体を光の粒子にし、僕の体の中に入っていった。
「(これでバッチリね! これからアタシが側でサポートしてあげるわ! 感謝なさい!)」
「……てか、プロテインは?」
「(貴方を誘い出す口実よ。用意してないわ。)」
嘘でしょ……せっかくここまで来たのに……。全く神様ってのは、勝手なんだから。ということで、女神様が仲間になった。カタボリックを倒すため、更なるトレーニングに励む僕であった。




