夏と闇夜とヴァンパイア
ある程度遊んでから、ルプーランド名物のジェットスライダーコースターに挑戦する事にした。
くねくねとしたレールに沿った乗り物で、上下左右に揺れながら走るのがジェットコースターだが、今回のジェットスライダーコースターは一味違う。
見た目は普通のウォータースライダーだが、魔力によって自身が乗り物になるのだ。超加速しながら走るが、スライダーから飛び出すことはない。これにより、ジェットコースターやウォータースライダーとは、違ったスリルを味わうことが出来るらしい。
ちなみに生身で滑るため、もちろん安全バーなどは無く、最後は高所から飛び込む様な形で着水する。いつか死人が出るよな、これ……。そんなこんなで、一応挑戦する事にした僕達は、ジャンケンで生贄を決める事にした。
「行きますわよ……ジャンケン!」
「「「ポン!」」」
結果、マイナの一人負け。
「嘘でしょ……?」
絶望するマイナ。顔が青ざめている。
「私高いとこ苦手なんだけど…?」
「ジャンケンで決まったことですわ! さぁ、行ってらっしゃいませ!」
「えっ!? ちょっ!?」
ベリーに強引に押し込まれ、滑り出していくマイナ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
物凄いスピードで、縦横無尽に滑っていく。ざっと150キロは出てそうだなぁ。最後は高らかに打ち上げられてプールに突っ込んだ後、スタッフの人に回収されていった。マイナ、ご愁傷様……。合流してからも、マイナはしばらく放心状態だった。
「どうでしたか?」
「もう、二度とごめんよ……。」
よく頑張った……。今度、マイナの好きな食べ物を奢ってあげよう。こうして楽しんでいると、いつしか日が落ち、ガイドさんが迎えに来てくれた。
「お疲れ様でした。夕食の準備が出来ておりますので、ホテルの方へ移動しましょう。」
服を着替え、馬車に乗り込んでホテルに向かった。到着した僕達は、それぞれお風呂に入り、ルームウェアで待っていると、シェフの人が料理を運んできてくれた。
並べられたそのどれもが超一級品であり、とても中流貴族の僕では手が届かない最高級の食材がふんだんに使われている。ベリーは気にも留めていないが、僕とマイナは目を輝かせていた。
「それでは皆さま、頂きましょう!」
「いただきます!」
んー、どれもこれも絶品。特にステーキなんかは、口に入れた瞬間とろけて肉汁がジュワと溢れ出てくる。これが幸せっていうのかぁ……。
美味しいご飯に舌鼓を打った後は、食後の運動として部屋にあった卓球をしようという流れになった。第一回戦は、マイナvsベリー。
「マイナ様、負けませんわよ?」
「王女だからって、手加減はしないわ。」
両者バチバチだ。
「先行ベリーで行くね。じゃあ、始め!」
ベリーは強烈なサーブ繰り出す。マイナはそれに反応し、打ち返そうとするが、ボールは前に飛ばず、横に飛んでいった。
「!?」
「おーほほ! これぞわたくしの必殺技、超回転サーブですわ!」
「クッ、やるわね! あなたの事を侮っていたみたい。」
「どんどん行きますわよ、それ!」
例の超回転サーブをお見舞いするベリー。マイナも反応こそするが、やはり前には飛ばない。そんな状態がしばらく続き、現在ベリーが十点、マイナは0点。このままでは、ストレート負け確実だ。
「おーほほ! 何度やっても無駄ですわ! わたくしのサーブは誰にも止められませんの!」
高笑いするベリーを尻目に、マイナの目は諦めていなかった。
「次は、決めるわ。」
雰囲気が変わるマイナ。その気配に気づいたのか、少し警戒をするベリー。
「何を企んでいるのか分かりませんが、これで終わりですわ!」
またもや超回転サーブを繰り出すベリー。マイナも同じ様に返す……と思いきや、物凄いスピードでラケット振って回転を相殺。目にも止まらぬスピードで、ベリーのゾーンへ球を飛ばした。
「な、何が起こったんですの!?」
不敵に笑うマイナ。
「別に。少し早くラケットを振っただけよ?」
ドヤ顔してる。
「さあ、今度は私の番ね。」
球を空高く上げ、物凄いスピードでサーブを繰り出す。もはやスマッシュだよ。この豪速球にベリーは反応することができず、マイナの逆転勝利で終わった。
「も、もう一回! もう一回ですわ!」
「フン、望むところよ。何度でもかかってらっしゃい。」
試合を続行した。長くなりそうだったので、審判に飽きた僕は、少し走ろうと外へ出た。ホテルの近くには砂浜があるので、ランニングするには負荷がかかってもってこいだ。
軽くフルマラソンほど走ろうかと準備体操をしていると、近くの森から妙な魔力の波長を感じた。なにか引っかかった僕は、魔力を頼りに森に入った。進むにつれて、血の匂いが漂い始める。
「誰かが襲われてる……?」
急いで魔力の発生地に向かうと、
「ぐぎゃぁぁぁ!!」
「ぐおぉぉぉぉ…。」
何者かの剣によって、次々と切り捨てられていく。
「や、やめてくれ……! 俺には、家族が居るんだ! 見逃してくれ! 頼む!」
「フン、愚かな人間め。闇夜に消えるがよい。」
許しを乞うた男は、無惨にも切り捨てられてしまった。様子を伺っていると、こちらに気づいた男が話しかけてくる。
「何者だ、貴様。さては、お前もカタボリックの仲間か?」
カタボリックだって……? この男は、どうしてそれを知っているんだ?
「悪しき者よ。吾輩の剣で死に絶えるがよい。」
すると男は、僕に向かって剣を振りかざした。僕もすぐさまマッスルスタイルに変身し、剣を受け止める。
「ご、誤解だよ! 僕はカタボリックの仲間じゃない!」
「ほぉ? 吾輩の剣を受け止めるか。ならば、これならどうだ?」
上空に飛び出し、右手に魔力を溜め込み、無数の血の槍を飛ばしてきた。
「話を聞いてよ! 僕は違うんだって!」
ステップを踏みながら、華麗に避ける僕。だが、一本が頬に掠ってしまった。まあ僕の肉体には傷なんてつかないんだけどね。
……と思っていたら、頬から血が流れていた。痛みもある。僕の肉体に、傷を付けた? そんなまさか。この男、相当強い。
「フン、これも避けるか。大した者だ。久々に興が乗ってきた。特別に、吾輩の力の一端を見せてやろう。」
本当にこいつ、全くこっちの話を聞かないな!
男の周りに赤い魔力が集まって行く。その魔力は剣に収束されていく。これ、やばいかも。
「闇夜に眠れ『ブラッディクリムゾン』!」
無数の紅い斬撃が飛んでくる。僕は咄嗟に、右腕に筋肉を収束させ、斬撃に対して拳を叩き込む。拳と斬撃が衝突した瞬間、衝撃波によって辺り一面が吹き飛んだ。なんとか相殺する事が出来たが、こりゃ派手にやっちゃったな。
「見事だ。どうやら貴様の言う事は本当らしい。カタボリックの証も見当たらないしな。」
「だから、初めから言ってるじゃん!」
「吾輩と互角にやり合えたのは、貴様が初めてだ。光栄に思うがいい。」
こっちは、とんだ迷惑だったんだけど……。
「君は、何者なんだい?」
男は言う。
「よくぞの聞いてくれた!」
「吾輩の名は、アルゴール。闇夜の断罪者にして、漆黒の剣。紅き反逆者!」
突然ノリノリで自己紹介し始めた…。一体何個二つ名あるんだよ。なんか、前世でもこういう人いたなぁ……。
「貴様とは、また何処かで相見えるであろう。さらばだ、強き者よ!」
そう言うと、無数のコウモリに変わり、何処かへ飛んでいってしまった。なんだったんだ、あいつ。
騒ぎを聞きつけてやって来た地元の騎士団に状況を説明し、後は任せてホテルに戻った。部屋に戻ると、マイナが僕の顔を見て、
「その傷、どうしたの!?」
僕は、森で起こったことを話した。
「擦り傷とはいえ、あなたに傷を負わせる者がいるだなんて……。相当の手練ね。」
「でも、その男は血のような魔法を使っていたのですわよね?」
「うん。真っ赤で、血を固めて飛ばしてきてたよ。」
すると、ベリーが言う。
「恐らく、その男はヴァンパイアですわね。」
「ヴァンパイア?」
「ええ。夜に活動する、人の血を吸う魔物ですの。」
「ヴァンパイアは、血を操る『ブラッドマジック』という魔法を使う事ができますの。これはヴァンパイアにしか使えないですわ。」
ヴァンパイアかー。また厄介な奴が出てきたね。でもあいつ、カタボリックの構成員を攻撃してたし、カタボリックの仲間ではないって事だよね……?
どうしてあんな事を……。
アルゴール、あいつとはまた何処かで会う気がする。途中、不穏なトラブルはあったものの、その後は楽しいバカンスを満喫して帰国した僕たちだった。




