いざ!本山へ!
レイヴィアスに連れられるまま、狼くんに乗って移動中。この乗り物、意外にも心地がよい。運転もほぼ自動なので、楽ちんだ。ちょっとハマりそう。よく見たらこの狼くん、見た目の割につぶらな瞳をしているし、可愛く見えてきた。そんな事を考えていると、
「止まれ。」
レイヴィアスが、ある倉庫の前で止まった。一見、何の変哲もないただの工場の倉庫みたいだけど……。
「ここだ、王女様が囚われてるのは。しかし、凄い血の匂いだな。灰で消そうとしてるみてぇだが、俺の鼻は誤魔化せねぇぜ。」
なるほど、カタボリックはここを常習的に使ってるのか。とりあえず、早く王女様を助けないと。急いで倉庫の扉を開けるとそこには……誰もいなかった。
「誰もいないじゃない。」
するとレイヴィアスは、四つん這いになり何かを探し始めた。隅々まで嗅ぎ回って、部屋の隅にある引き出しの前に止まった。
「ここだ。こっから地下に繋がってやがる。」
隠し扉ってやつか。分かりにくい所に作るのやめてよー。レイヴィアスが居なかったら、詰んでたかも。
その引き出しを開けると、暗証番号を入力しないと開かない仕組みになっていた。
もちろんそんなもの知るわけがないので、僕のパワーで適当に吹き飛ばした。すると、警報が鳴ってしまった。侵入したのがバレたっぽい。
「オイオイ、大胆過ぎるぜ……。」
「あなたらしいわね。」
一旦中まで入ることにし、レイヴィアスが示す方向に進んでいった。道中、カタボリックの下っ端達が襲ってきたけど、マイナとレイヴィアスが速攻片付けていた。
「しっかし、迷路みたいだね。」
「大分入り組んでるわね。」
「あっちこっちから血の匂いがするな。ここで何十年も人殺しが行われていた証拠だ。」
ほんと非道な奴らだよ。さらに王女様まで狙うなんて許せない。怒りを募らせながら、どんどん奥へと進むと、遂にそれっぽい部屋の前についた。
「ここだ。この扉の向こうに王女様がいるぜ。あと二人、殺気立ったやつが中にいる。二人とも準備はいいか?」
「あなたに指図される筋合いなんてないわ。此処からは、私とマスルだけで十分よ。狼男は下がっていなさい。」
「んだと、この金髪女! お前こそ下がってろ、オレとボスだけでやる!」
「フン。新参者のあなたには、荷が重いんじゃないかしら?」
「上等じゃねぇか。オレ一人で片付けてやるよ。」
「コラコラ、こんな所で喧嘩しないの。仲間なんだから仲良くしないと、ね?」
対抗心を剥き出しにしている二人を横目に、僕は拳で扉をぶっ飛ばした。部屋の中には、執事のスーピアだけでなく、双剣を構えながら禍々しい魔力を放つ男がいた。王女様は、鎖で壁に貼り付けられている。
「ほお、此処まで来るとはなぁ? 噂に聞いてた通りだ。」
「ど、どうやって此処に! 魔力阻害は完璧だったはず!」
狼狽えるスーピアに、レイヴィアスが言う。
「オレにかかれば、特定なんざ楽勝なんだよ。」
「くっ! 人狼族かっ!」
「だが、手紙に書いた通り、此処まで来れたとしても貴様らに王女は取り返せまい。」
「こいつの言う通り。此処まで来たことは褒めてやるが、『バッドトューザマッスル』の俺には敵わねぇ。」
「バッドトューザマッスルですって?」
「マイナ、何か知ってるの?」
「バッドトューザマッスルは、カタボリックに仕える12人の幹部。あいつは恐らく……魔速のディプレッサ。」
「よく知ってんな。て事は、お前が脱走したガキか。生かしておけねぇなぁ。まあ、結局全員殺すんだが。」
「儀式が済んだら、この国ごと滅ぼすつもりだったんだがな。先に、テメェらから片付けてやるよ。」
禍々しい魔力が更に濃くなっていく。確かに、今まで相手した誰よりも強そうだ。まあ、僕の筋肉が負ける訳が無いんだけどね。
「マイナ、レイヴィアス。あいつは僕に任せて。二人は王女の救出と、スーピアをお願い。」
「チッ。オレが相手してやっても良かったが、ボスがそう言うなら譲ってやるよ。」
「分かったわ! 気をつけて、マスル!」
さあ、いつものやりますかー。
「マッスルチェンジ!」
「ほお、お前が例の筋肉野郎か?」
「僕のこと、知ってるんだね。」
「ああ。よく知ってるぜ? デタラメな力を持った化け物だってな。」
「化け物だなんて! 失礼な、僕は最高のボディービルダーさ。」
すると、ディプレッサが眉をひそめる。
「ボディービルダー、だと? バカを言うな。そいつが現世に存在する訳がねぇ。まあ、そんな事はどうでもいい。とっととやろうぜ?」
すると、物凄いスピードで、僕の前に現れた。速い!
「おらよぉ!」
目にも止まらぬ速さで、僕の上半身を切り刻む。とてつもないスピードだ。反応できなかった。しかし、僕の大胸筋には傷一つ付かない。
「ほお? 今ので届かねぇか。流石の防御力だな、だがこれならどうだ?」
またもや攻撃を繰り出す。今度は背中を切り刻まれる。
「どうやら? 反応が出来てねぇみたいだなぁ!」
一方的に刻まれていく僕の身体。
「マスル!」
「オイオイ! なにやってんだボス!」
僕を心配する二人。ちょっとヤバいね、速すぎる。
「よそ見をするな!」
「チッ! 邪魔だてめぇ!」
「魔封機!」
「な!」
「んだこれ、魔力が練れねぇ?! どうなってやがる」
「 これは、相手の魔力を吸収する魔道具。魔封機の前では、誰もが無力よ、プハハハ!!」
高笑いするスーピアをレイヴィアスは鼻で笑う。
「フン。魔力が使えないぐらいで、オレを止められるとでも思ったか?」
「ナニ!?」
レイヴィアスは、筋肉を肥大化させてフィジカルを上昇させる。
「オイ、金髪女! 王女を助けたら手伝え。」
「ワンワン吠えなくても分かってるわ。ベリーさん、大丈夫?」
先ほど目覚めたばかりの王女が返事をする。
「ここは……? わたくしはなんで……。」
「無事で良かったわ。もう安心して、私達がいるから。少し、ここに隠れていて。待たせたわね、スーピア!」
「二人に増えようと、結末は同じ! まとめて殺してくれるわ!」
魔法を放つスーピア。しかし、二人はそれを巧みに避ける。どんどんの距離を詰めながら。
「な……?! 魔力もなしにそのスピードだと?! どこにそんな力が!」
「私たち。」
「鍛えてるんでな!」
マイナの剣とレイヴィアスの爪が、スーピアを交互に切り裂いた。
「グワァァァァァ!!!!」
スーピアの体が、X型に切り裂かれ、倒れる。
「ば、バカな……。ディプレッサ様……。」
問題なく倒せたみたいだ。さて、問題は……。
「おらおらぁ! どうしたぁ! よそ見してる場合かぁ?!」
絶え間なく続く、斬撃の嵐に守りを固めるしか出来ない。ノーマルビルダーのままじゃ、奴のスピードについていくための瞬発力がない。何度か攻撃を繰り出すが、かわされる。
「防戦一方かぁ?! テメェの攻撃なんて、遅すぎて掠りもしねぇよ! ギャハハハ!!」
切られても傷は付かないが、そろそろ鬱陶しくなってきた。仕方ない、あれを出すか。
拳を地面に瓦割りの容量で地面に叩きつける。その衝撃波で吹き飛ばし、距離を取る。
「アァン? なんのつもりだぁ?」
「この形態を出すのは君が初めてだ。光栄に思いたまえ。」
「なんだとぉ?」
僕は、胸の前に腕をクロスして、再度あの掛け声を発する。
「マッスルチェンジ!」
蒸気が僕の周りを覆い尽くす。肉体が作り替えられ、別の形に変化していく。そして、蒸気が晴れ、新たな姿を現す。
「な、なんだそれは……?!」
「マッスルスタイル『スピードビルダー』」
実は、マッスルスタイルには『ノーマルビルダー』の他に、三つの形態が存在する。これはその一つ、スピードに特化した形態『スピードビルダー』だ。
「さあ、反撃の時間だ。」
「フン。姿が変わろうと、結末は変わらねぇ! 切り刻むだけだ!」
ディプレッサが、僕の背後を取る。だが、僕もすぐさま彼の背後を取る。
「は?」
「なんだと!? 俺のスピードについて来れるのか……!? これならどうだ!」
ディプレッサが縦横無尽に部屋中を駆け回り始めた。ノーマルビルダーではついていけないが、この形態では話が別。ディプレッサの後ろを追いかける。すぐさま追いつき、並走してみせた。
「ナニぃ!? 俺と並走してるだと!?」
「かけっこかい? なら負けないよ。」
「テメェ、ふざけんな!」
双剣で切りつけてくる。だが、それは僕には当たらない。
「お返しだ!」
僕は、ディプレッサの足を切り落とした。
彼はスピードを失い、地面を這いつくばる。
「グゥッ!! なんだよ、なんなんだよぉ!!」
「君たちの行為は許されるものじゃ無い。しっかりあの世で反省するんだ。」
右手を天に掲げ、目にも止まらぬ速さでディプレッサを細切れした。
「『アナボリックチョップ』」
「チクショォォがァァァァァ!!!!」
凄まじい断末魔を上げ、息絶えた。
「やったわね、マスル! まさか、そんな姿を隠していたなんて。」
「全くだ。一時はどうなるかと思ったぜ。」
「心配かけたね。さあ、王女様を王城に届けよう。」
無事王女を回収し、王城に戻った。国王は、王女の姿を見るなり大泣きしていた。よかったねぇ。その後、儀式場の調査が行われて、魔封機などが回収され、王女の魔力も無事戻った。これにて一件落着! 王国に平和が戻った。
後日。いつもの様に、カフェでコーヒーを嗜んでいると、また外が騒がしくなった。今度はなんだと外を覗いてみると、そこには王女の姿があった。僕に気づくなり、一直線に駆け寄ってきて隣に腰掛ける。
「ごきげんよう。ご一緒してもよろしくて?」
「ごきげんよう。もう、ご一緒してると思うんだけど?」
「こ、細かい事はいいんですの! それより……助けていただきありがとうございました……。」
なんだか、モジモジしている王女様。
「いいよ、王女様が無事で良かった。」
「その……王女様って言うのは、あまりよく思いませんわ!」
「え、じゃなんて言えば?」
「ベリーとお呼びください!」
「いやいや! 流石に、王女様を呼び捨てには……。」
「なら王族命令ですわ! ベリーとお呼びなさい!」
そんな、無茶苦茶な。なんでこうも、僕の周りの女子は呼び捨てで呼ばれたがるんだろうか?
「わ、わかったよ、ベリー。これでいい?」
すると、満面の笑みで、
「はい! それでいいんですの!」
まあ何はともあれ、元気そうで何より。やっと正真正銘の平和な日々が戻り、ゆっくり温かいプロテインを飲む僕だった。




