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異世界でも僕はアナボりたい!!  作者: 狐月 かぶと
第二章
14/19

不穏な影

 梅雨が明け始めた頃、僕は学園のカフェで優雅なティータイムを嗜んでいた。


 魔術剣士学校には食堂があり、その一部がカフェスペースになっている。食堂は、勉強をしたり、友達と談笑したりする学生で常に賑わっている。その喧騒から離れたレトロな喫茶店の様な落ち着いた雰囲気が、とても落ち着くのだ。僕は、ここが割と好きだ。


 まったり自作のプロテインを味わっていると、外がやけに騒がしい。目を向けると、そこにはベリー•フロンタルさんが歩いていた。流石は王女様、歩くだけで様になる。


 すると、彼女は僕に気づいたのか、こちらへ一直線に歩いてきた。そしてカフェスペースに入るなり、僕の隣の席に腰をかけた。


 周りの視線が、一気に注がれる。これでは優雅にティータイムとは行かない。周りが注目する中、


 「ごきげんよう、マスル様。ご一緒してもよろしくて?」


 「ご、ごきげんよう……。てかもうご一緒してるよね?」


 「うふふ、細かいことはよろしくてよ! いつもここでお茶をされているのですか?」


 「うん。ここの雰囲気が好きで、よく来るよ。」


 「まあ、奇遇ですわね! わたくしも良く来るんですの。レトロな感じがいいですわよね。」


 わかってるじゃないの。流石は王女様。紅茶を飲む姿が様になっている。


 「それより、どうしてわざわざここに座ったの?」


 「ダメですか……?」

 

 「いやいや、ダメじゃないけど! でも、そんなに僕たち交流無かったよね?」


 この国を治める王の一人娘が、いち中流貴族の息子と一緒にティータイムなんて、普通はあり得ないことだからね。


 「実は、以前からマスル様が気になっていましたの。魔人との戦闘を見ていましたのよ。」


 あの時、近くにいたんだ。


 「その時の貴方を見て、実に興味が湧きましたわ! あのお姿はどうなっているのですか? 魔法で作られた姿なのでしょうか?」


 「ううん、あれは魔法ではないよ。」

 

 「ええ!? でしたらどうやって?」


 「筋トレした結果だよ。」


 「筋トレしただけ!? でも、いくら筋トレをしたからといって、あんなにも強靭な肉体に成長する事はないんじゃ……。」


 「まあ、十五年間頑張ったからね。」

 

 「いや、頑張ってもああはならないですわ……。」


何故か困惑されちゃった。未だ、僕以外に神の領域に到達した人がいないんだろう。理解出来ないのも無理はない。


 「しかし、これでさらに興味が湧きましたわ!」


 すると、昼食終了のチャイムが鳴り響いた。


 「あら、もうこんな時間に。ではマスル様、わたくしは移動教室なのでここで失礼致しますわ。」


 「うん、またね。」


 「またお話し致しましょうね〜!!」


 そう言うと、颯爽に走り去っていった。アクティブだなぁ。


 すると、奥から物凄い剣幕で走ってくるマイナがいた。まずい。


 「ちょっと!? 探したのよ! お昼ご飯は一緒に食べましょうねって、いつも言ってるじゃない!」


 「ごめんごめん。ほら、もうこんな時間だし! 教室行こ?」


 怒るマイナを鎮めつつ、教室に向かうのだった。


 一方、王城にて。


 「(おい、進捗はどうだぁ?)」


 「はい、準備は整っております。王女が戻り次第、計画を実行致します。」


 「(頼んだぞ。くれぐれも慎重に事を進めろ。)」


 「御意。」

 

 「決行は今日の夕方、私がベリーを馬車で迎えに行き、席を外している間に連れ去れ。多少傷ついても構わん。」


 「了解。」


 男達は去った後、奥から足音がこちらに向かってくる。


 「あら、スーピアさん。こんなところで何を?」


 「これはこれは、オリス様。ご機嫌麗しゅう。」


 「ベリー王女の迎えの時間じゃない?」


 「おや? 本当ですな、これはまたお嬢様に怒られてしまいます。それでは失礼。」


 男は、小走りで去っていった。


 「あの人、時計持ってないのかしら?」



 補習からやっと解放され、待ってくれていたマイナと学園を出る僕。辺りはすっかり暗くなっていた。


 「本当にあはた、魔法と剣だけはてんでだめね。」


 「だって、今まで筋肉しか鍛えて来なかったからさ、魔法とか剣とかやって来なかったんだもん。」


 「まあ、貴方は魔法や剣に頼らずとも、やっていけるでしょうけれどね。」


 その通りだ! 僕には魔法とか、剣なんていらない! この愛する筋肉達さえあれば、なんとかなる! 


 そんな事を言いながら帰路を歩いていると、目の前に見覚えのある馬車が止まっていた。王城に行った時に使った馬車だ。てことは、王女様のお迎えとかかな? 


 すると、奥から物凄いスピードで別の馬車がこちらに向かってくる。

 

王城の馬車の横に止まると、男が数名出てきて、王女様が乗る馬車の扉を蹴破った。


 「おら! 大人しくしろ!」


 「なに!? 貴方達!」


 「いいから大人しく来てもらうぜ!」


 「わたくしが大人しく捕まるとでも?」


 彼女が魔法を放とうとしたその瞬間、男が後ろから機械を取り出し、彼女に向けて光を放った。するとなんと、彼女の魔力がその機械に吸収されてしまった。


 「そんな!? わたくしの魔力が!」


 「へ! 魔法使いなんざこれで一発よ! 暴れられても困るから、ちょっと眠っててもらうぜぇ?」


 「い、いやぁ……。」


 まずいな、ここは助けるしかない。


 「行こう、マイナ。」


 「ええ。」


 王女様の頭を棍棒で叩こうとしている男を、マイナが剣で払った。


 「あ、貴方達は?」


 「王女様、下がって!」


 「なんだぁてめぇら! 邪魔すんな!」


 「女の子に手を出すなんて、この下衆が!」


 そう言いながら、マイナは男の体を真っ二つに切り裂く。息を着く間もなく、後ろにいた男の仲間がマイナ目掛けて魔法を放つ。


 「死ねぇ! アマァ!」


 「しまった!」


 魔法はマイナとベリーに直撃した……かのように思われたが、寸前のところで僕の逞しい大胸筋が受け止めた。


 「次から次へと……とっとと死ねぇ!」


 第二波を繰り出そうとする誘拐犯達。もちろんそんな時間は与えない。すぐさま僕は、奴らの背後に立ち、誘拐犯達の首をまとめて手刀で切り裂いた。これで一件落着! 


 馬車内部も確認したが、他に仲間はいなかった。


 「ありがとう、助かりましたわ。」


 「いいよ。たまたま通り掛かっててよかった。」


 しかし、妙だ。誘拐犯達が使っていた、謎の機械。王女様に向けた途端、魔力が吸いとられていた。他の仲間も持っていた事から、明らかに彼女用の対策をしていた。王女が魔法使いだと言う事は、世間には隠されているはず。とりあえず、その機械をもう一度彼女に向けてみると、無事魔力が返還された。


 「これで大丈夫。もう魔力は戻ってるはずだよ。」


 「ありがとうございます。しかし、この方達は一体……?」


 「マスル、ちょっと来て!」


 マイナが僕を呼ぶ。駆け寄ってみると、マイナが死体を漁っていた。


 「こらこら、マイナちゃん。死体なんて弄ぶんじゃないよ?」


 「違うわよ! そんな事より、これ見て。」


 マイナが示す死体の箇所を覗き込むと、カタボリックの紋章が身体に刻まれていた。ネイザリスにも付いていたものだ。


 「この誘拐犯、カタボリックの手のものね。こんな堂々と王女様を誘拐しようだなんて、どうかしてるわ。」


 王女様を誘拐だなんて、何が狙いだったんだろうか。そこまで思案していると、学園の方から一人の男が走ってきた。


 「ベリーお嬢様!!大丈夫ですか!?」


 「スーピア!」


 「この人は?」


 「私の執事のスーピアですわ。」


 「何かあったのですか? この者達は……?」


 「実は先ほど、誘拐未遂に遭いましたの。」


 「なんと! 申し訳ございません! 少し目を離した隙に……。」


 「大丈夫ですわ、この方達が助けて下さいましたし。」


 「それは……大変お世話になりました。私からもお礼を申し上げます。」


 「いや、大丈夫ですよ。まだ近くに仲間が潜んでいるかもしれないので、気をつけて戻って下さい。」


 「大丈夫ですわ! もうさっきみたいに遅れはとりません!」


 そう言うと、王女様は馬車に乗り込み、王城の方へと消えていった。しかし、あの男の人ちょっと怪しいな……。少し不安だけど、王女様も相当な手練だ。同じ手は喰らわないだろう。僕とマイナは、家に帰る事にした。


 そして翌朝、いつも通り学園のカフェでプロテインを嗜んでいると、また周りが騒がしくなった。


 デジャヴだなぁと外を見てみると、王女様はおらず、今度は何をそんなに騒いでいるんだろうと見回すと、


 「おい! 王女様が攫われたらしいぞ!」


 王女が何者かに攫われたと言う速報が、新聞の記事で大きく載せられていた。不穏な空気が王都内で流れて始めた。

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