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異世界でも僕はアナボりたい!!  作者: 狐月 かぶと
第二章
11/19

満月の夜って犯罪増えるらしいよ

 研究施設の一件から数日が経ち、平和な時が流れていた。最近は戦闘で忙しかったけど、無事解決したことだし、久々にのんびりした筋トレライフが送れる! 


 さて、今日はどの筋肉と語り明かそうか。


 大胸筋君かな? 


 それとも腹直筋ちゃん?


 いや、広背筋さんも捨てがたい……。


 そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。


 「マスル、ちょっといいかな?」


 僕を呼んだのは、ダイデン兄さんだった。


 「どうしたの、ダイデン兄さん。なんか用?」


 「この前の魔人襲撃事件の件は、本当に助かった。ありがとう。」


 「ああ、いいよそんな。大したことしてないし。」


 「何を言うか。あのままだと街に多大な被害が出ていただろう。それを未然に防いでくれたんだ。王国騎士団として、礼を言わせてくれ。」


 「そんな、大袈裟な。たまたま近くにいただけさ。……用ってそれだけ?」


 「いや、別件で相談があってね。」


 「相談?」


 「実は最近、王国郊外で、襲撃事件が多発していてな。何度か騎士団を派遣しているんだが、全て返り討ちにされているんだ。」


 ほお、あの騎士団を返り討ち。中々な強者がいたものだ。


 「そこで頼みがあるんだが、マスルはよくこの付近でトレーニングをしているんだろう?」


 「うん。」


 「そのときに、不審な集団がいないか探ってほしいんだ。何か情報があれば、連絡して欲しい。」


 「そんな事ならいいよ。何かあったら連絡するよ。」


 「本当かい? 助かるよ。それじゃあマスル、トレーニング頑張れよ。」


 そう言うと、ダイデン兄さんは去って行った。しかし、騎士団を退ける程の実力集団とは厄介だ。王国が手を焼いているようだし、解決できたら、また夢への近道になるかもしれない。今夜、この辺りを隈なく探ってみよう。犯罪者は、夜の方が活発だしね。


 その日の夜、王国の外を走り込むついでに、例の集団を探してみる事にした。村を襲っているらしいので、まだ被害がない村を中心に回ってみる。軽く頑張るだけで、大体五秒もあれば行き来が出来るから、タイムラグはほとんどない。完璧な警備だ。


 巡回を始めて少し経った頃、凄まじい爆音と共に、遠くから猛スピードで走る集団が現れた。真っ白なライトをたくさん向けられて、目がチカチカする。前世で俗に言う、暴走族だろうか。


 一つ違うのは、バイクではなく、目が光る狼に乗っているところだ。狼の顔の部分にハンドルが付いていて、そこを捻ると狼が鳴く。狼の筋肉に見惚れていると、一人の男が声を掛けてきた。


 「てめぇ、村のもんか?」


 男は、ふわふわとした白い癖毛で、胸元が大胆に開けられたライダースを羽織っていて、とても目つきが悪い。男が身体に巻きつけている鎖がジャラジャラと音を立てていている中、よく見ると犬耳のようなものが頭についている。


 「いや、違うけど。君たちが最近村を荒らし回ってるって言う集団?」


 男は言う。


 「ああ、そうだ。俺達は『餓狼』、腐った世の中をぶっ壊す者だ。」


 また暴走族が好みそうないかつい名前だなー。後ろにいる人たちの服装もそれっぽいし。


 「腐った世の中をぶっ壊すって、それと村を襲うのには何の関係があるのさ。」


 「ここは王国の領土だろ。王国に関連するものは、全部壊す。」


 何でこんな王国アンチなんだ? それによく見たら後ろもこの人と同じように、ケモ耳が付いてるし……。もしかして、人間じゃないのかな?


 「君たちの言い分は分かったよ。でもね、だからって見逃す訳には行かないな。どんな理由があっても、罪のない人を襲うのは間違ってるよ。」


 「ガキの癖に、オレ達に説教ってか? 身の程を教えてやるよ。二度とそんな口聞けねぇように、潰してやる。」


 「やっちまってくだせぇ! 総長!」


 「へ! ガキ死んだな!」


 ほんと、まんまじゃん。前世でもこう言う輩にはよく絡まれていたけど、どの世界でも似通るんだね。


 「そっちがその気なら仕方ないね。僕がお仕置きしてあげるよ。マッスルチェンジ!」


 変身した姿を見るなり、暴走族の顔から血の気が引いた。


 「お、おい……何だよあれ……。」


 「ば、化け物だ! こいつ!」


 彼らは、きっと獣人なのだろう。本能的に、僕の力を悟ったらしい。次々と戦意を喪失していく仲間達を尻目に、僕の前に立つこの男だけは、立ち向かおうとしていた。


 「てめぇ……何者だ……。」


 「ただの学生さ。」


 「なわけあるかぁ! 人間がそれ程の力を持ってるなんてあり得ねぇ!」


 そんな事言われてもなぁ。この力は長年の筋トレと努力で得たものだ。


 「ちっ! こうなったらヤケだ! 初めから全力で行くぜ。」


 その瞬間、男から凄まじい魔力の波動を感じた。段々と上昇していく魔力に比例して、男の身体がどんどん肥大化していく。先ほどと比べられないほど、鍛え上げられた筋肉達が脈打っている。暴走族も中々やるなぁ。


 特に目に留まるは、パンパンに発達した大胸筋に、ライダースが弾けそうなほどに膨れ上がった上腕二頭筋と三頭筋。魔力だけではなく、肉体まで洗練された美しい姿だ。


 「どうした、来ないのか? なら、こっちから行くぞ!」


 男は、勢いよく飛び出し、鋭い爪で僕の大胸筋を引っ掻く。だが、僕の大胸筋には傷ひとつ付かない。


 「ナニ!? これならどうだァァ??」


 次いで、凝縮した魔力がこもった右ストレートを繰り出してきた。


 「フッ……。軽いな。」


 「ッッ! ならこれでどうだァァァァ!!!!」


 後ろに下がり、右手を空に掲げ、魔力をさらに凝縮させる。辺りが彼の魔力によって紅く光る。


 「これで終わりだ! ぶっ潰れろ!」


 魔力を拳に乗せ、僕に向けて放った。

僕はそれを、たくましい大胸筋で真正面から受け止めた。凄まじい爆発と共に、あたりは煙で立ち込める。


 「ハァ……ハァ……。やったか……?」


 煙が晴れ、姿を現した僕はもちろん無傷だった。


 「バ、バカなっ……。オレの全力を込めた一撃だぞ?? ありえねぇ……。」


 「君の力は素晴らしい。だが、僕には届かない。」


 すぐさま男の前に移動し、拳を構えて威嚇するような形でプレッシャーをかけた。本能で感じ取った敗北を受け入れたのか、男は跪き、


 「オレの負けだ……。煮るなり焼くなり好きにしろ。」


 どうやら諦めてくれたようだ。


 「殺すつもりは最初からないよ。ただ、もうこんな事は辞めるんだ。人様に迷惑を掛けるのは良くない。」


 そう告げると、後ろで隠れていた暴走族の皆さんがゾロゾロ集まってきた。僕の言葉を聞いた男は、


 「アンタ、名前は?」


 「僕の名前は、マスルだ。」


 「マスル……。今日から俺たちは、アンタの下につく。」


 「え?」


 「俺たち人狼族の掟だ。自分より強いやつに付き従う。オレはアンタに負けた。だから、今からアンタが俺たちのボスだ。」


 なになに!? 急にそんな事言われても困るんだけど!? なんか勝手に総長にされてるんだけど!?


 「オレ達はアンタに付き従う。何でも言ってくれ。」


 「じゃ、じゃあ、もうこんな事はしちゃダメ。真っ当に生きるんだ。一緒に村の人たちに謝りに行こう。」


 「で、でも……。許されるとは思えねぇぞ。」


 「大丈夫さ。誠意を持って謝れば、許してくれるよ。」


 「アンタ、変な奴だな。オレ達、獣人類を見ても驚かねぇなんてよ。」


 「君たちよりおっかない奴とやり合ってたからね。可愛いもんだよ。」


 「ふん、気に入った! アンタならオレらのボスでも文句はねぇ! そうだろ? オマエら!」


 「「「オスっ!!」」」


 後日、荒らされた村を巡り、誠心誠意謝った。初めは悪態を突かれていたが、僕が人間だとわかると渋々許してくれた。騎士団にも、僕の傘下に入った事を伝えると、彼らの事を任された。


 「アンタのおかげで、騎士団の奴らに厄介になることが無かった。アリガトウな。」


 「いいよ。村の復興に努めるなら許してくれるみたいだから、しっかりやるんだよ?」


 「オウ! 任せてくれ。受けた恩はしっかり返すぜ。」


 「あと名乗るのを忘れてたな。オレの名前はレイヴィアス。これからヨロシク頼むぜ、総長。」


 「その事なんだけどさ……。僕は総長って柄じゃないからさ、餓狼の総長はこれからも君ってことでいい?」


 「アンタがそう言うなら、そうさせてもらうぜ。んじゃあボス。なんかあったら、オレたちを頼ってくれ! いつでも駆けつけるぜ。」


 こうして、彼らは去っていった。やれやれ、少しヤンチャな子分が出来てしまったな。まあ、ボスって呼ばれるのも悪くないかなと思う僕だった。

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