ランドセル「今あなたの後ろにいるの」
「私ランドセル。今あなたの後ろにいるの」
どこぞの都市伝説よろしく、語り掛けて来たのはランドセルの精。
姿は見えない。
声が聞こえるだけ。
「そりゃ、そうでしょ」
私は思わず突っ込んでしまった。
小学校入学祝いで買ってもらえたランドセル。
とりあえず必要だから使っている。
ただそれだけ。
「ふふふ……チヨちゃんかわいい」
そうか、かわいいか。
よく分かってるじゃないか。
ランドセルの精は私が背負っている時だけ話しかけてくる。
誰もいない一人っきりの時に限って返事をする。
特別な話をするわけではない。
「そうなの」とか「うん」とか「はい」とか。
そーゆー会話を淡々と続ける。
私が辛い時とか、悲しい時とか、ずっと変わらずに寄り添ってくれたので、結構助けられたことも多い。
話を聞いてくれる相手がすぐそばにいるって、それだけで心強いよね。
ランドセルの精の助けもあってか、私は順調に成長して小学校を卒業。
晴れて中学生になったってわけ。
で、ランドセルの精ともお別れ。
言葉を話す世界に一つしかない特別なものだし手放すのは惜しかったけど、できるだけ考えないようにしてランドセルから離れるようにした。
ずっと甘えてなんていられないし。
気づいたらランドセルは家からなくなっていた。
悲しくも、辛くもなかった。
大人になるってこういうことなのかもしれない。
ぶぃいいいいいいいいいん!
スマホが鳴る。
知らない番号。
しかも……海外から?
ヤバイかなと思ったけど、好奇心の方が勝利。
電話に出ると――
「もしもし、チヨちゃん?」
「え? ランドセル⁉」
「私、いまアフリカにいるの」
ランドセルは海外に支援物資として送られ、今も立派に役割を果たしている。
持ち主の人がお金持ちから電話を借りてつないでくれたのだとか。
「チヨちゃん、元気?」
「うん……元気だよ、そっちは?」
「私は元気だよ。だってランドセルだもん」
なんだよそれ。
思いながら私が自分が泣いていることに気づく。
ああ……懐かしいな、会いたいな。
とめどなくあふれる涙。
押し寄せる懐かしい記憶の数々。
「チヨちゃん、泣いているの? 大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。立派に成長してる。
全部、全部、アンタのおかげ」
「ふふふ、ありがとうチヨちゃん。大好きだよ」
大好きの言葉を聞いて、感情が一気にあふれた。
ワンワンと声を上げて泣き叫ぶ。
ありがとうの気持ちで流した涙。
きっと私を強くしてくれる。
大人になるって、こういうことなのかもしれない。