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協力要請

「ん…?」


 あれほど苦しかった呼吸がなんともないことに気がついて私はそっと目を開けた。それと同時に異臭が鼻につく。ぼんやりとした明かりだけが見える眼前にはツナギを着た人たちの姿が。誰もが首を押さえ苦しそうな顔をしており、地面には何かをぶちまけたかのようなシミが出来ていた。


 ゆっくりとそのうちの1人に近づき頬を叩く。口元に手を当てるが風を感じない…つまりそう言うことだ。どのみち私1人で助け出すことが出来ないので、もしまだ息のある人がいてもどうしようもない。


「そうだ」


 外に1人いることを思い出した私は落ちていた明かりを拾い、風が入り込んできている方向へと足を進めることに。多分こっちが外だろうからと進む。それはすぐに確信へと変わる。登坂があり、外から入り込む明かりが見えたからだ。私たちは中へ入ってそれほど進まないうちに倒れたんだと自覚した。


 ゲートの向こうでツナギの女の人が泣いていた。私はゲートをくぐる。すると女の人がいきなり顔をあげてこっちを見たのだ。


「あの…」


バラバラバラバラ…


 聞こえてきた音で私の声が消されてしまった。巻きあがる風のせいで邪魔になる髪の毛を押さえながら見上げると、ヘリコプターが上にいた。


 そしてヘリコプターから降りてきた人たちは今私の目の前にいる。今はツナギの女の人に話を聞いているみたいだ。私はどうしたらいいのかわからずそのままその場で突っ立っている。ここは私の家だから家の中に入ってもいいんだけど、目の前の空気がそうさせてくれない。


「じゃあこの子が家主か」


 振り向いた人と目が合った。ちょっといかつい顔をした人。


「体はなんともないか?」

「あ…はい」

「ふむ、中で何があったか話せるか?」

「あ、そうです。助けてください。中で他の人たちが倒れてます」

「モンスターにでも襲われたのか?」

「いえ、みんな急に苦しみだして倒れました。私も倒れましたけど…さっき目が覚めて助けを呼びに」

「生死の確認はしたのか?」

「はい、1人だけですけど呼吸を感じられませんでした…」


 私はブルりと体を震わせる。淡々と説明をしているがこんなことが慣れているわけじゃないのだ。ただ感情に任せて叫んだところでどうしようも出来ないと言うことを知っているだけ。騒ぐだけ無駄な体力を消耗するのだ。日々ぎりぎりで生きている私にとっては死活問題になる。


「まいったな…これはうかつに中に入れないぞ」

「あの…こちらの家主は無事に生還出来ています! 私が付き添いますのでどうか2人で救助に入らせてくださいっ」

「え…」


 女の人の言葉に私は驚いた。体はなんともないけれど今の状況に疲れが出てきているのだ。はっきり言って早く体を休めたい。


「うーむだが、民間人を巻き込むのは…」

「いえ、彼女は冒険者です。先ほど登録しましたので」

「ん? …そういえばゲートもすでに設置されているのだな」

「はい、どう見ても『迷宮』だと思いましたので、先に設置し彼女にも登録してもらいました」

「はあ…後で詳しく話を聞く必要がありそうだな。必ず戻ってくることが条件だ、出来るか?」

「もちろんです! 誰だって無駄死にをしたいとは思いません」

「というわけだ。済まんが我々に協力してほしい。生存者がいるのなら連れ帰って欲しいし、たとえ死んでいたとしてもこのまま『迷宮』に食わせるわけにもいかん」

「…わかりました」


 私はしぶしぶ再び穴の中へと入ることを決めた。このままだと話は進まないし、家に帰してくれそうもないから。


 ツナギの女の人と私はそれぞれ装備を渡された。ツナギの女の人にはパワーグローブ。生存者を担いで帰るためだ。私にはマジックバック。残念ながら死体となってしまった人たちを回収するためのもの。武器などは持たされなかった。まあ渡されても私はモンスターと戦うための知識どころか経験もないのだから、回収だけして逃げかえるのが正解だろう。


 ゲートをツナギの女の人が先にくぐる。私はその後に続く…下り坂を降り、平坦な道へと変わる。そして見えてきた倒れている人たち。数は…8? 私と一緒に中へと入ったのは5人。なぜか3人増えている。まあいい、すべて確認して早く帰ろう。違和感を感じるところを通過する。倒れているのはそこから内側。私はマジックバックの口を開き近くの人から手を触れてしまおうと思う。生きているのならしまえないはずなのだ。これが一番早い生死の確認方法。誰もが知っている一般常識…らしい。ライトを裏からツナギの女の人が照らしてくれているので次の人へ。


「ふぐっ!?」


 背後で変な声がして明かりが足元へと転がった。落ちた明かりを拾い周辺を照らすとツナギの女の人が首を押さえ震えていた。私は女の人の手を取り外へと連れ出そうとする。だけど…


 どさり


 繋いでいた手が引っ張られ女の人が地面に倒れた。腰のあたりに水たまりが出来ていく…つまりそう言うことだ。私はそのままマジックバックへとしまった。


「はあ…」


 一体ここで何が起こっているんだろうか。私も1度は苦しんだが今ではなんともない。そんなことを考えながらも、手を動かしていく。モンスターが来る前に片付けないと手に負えなくなる。


「ふう…おわり」


 緊張感から出た汗を拭い来た道を引き返す。すぐにゲートが見えてきて、外はすでに赤く染まっていた。

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